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剣聖の娘、裏組織と戦う!
宵闇亭の秘密
しおりを挟む頭から被らされていた麻袋が取り払われ、エステルは視界を取り戻す。
もちろん手を縛った縄と猿轡はそのままである。
彼女が運び込まれたのは『宵闇亭』の裏口から入った倉庫。
保存の効く穀物や野菜、酒樽などが所狭しと並んでいた。
(……お酒の匂いが強いね。ちょっと飲みたいなぁ)
まだまだ彼女は余裕だ。
なお、全く酔うことがない彼女にとって、お酒はジュース感覚である。
「ほぅ……確かにこいつは物凄い上玉だな。オークションの目玉になるぞ」
「へへへ……そうでやしょう?……ちょっと胸が寂しくて子供っぽ……ひぃ~っ!?」
エステルからゴロツキに向かって殺気が飛ぶ。
彼女は自分では『せくすぃ~おねえさん』と思ってるので、こども扱いは禁物なのだ。
そんなところ全くアピールする気もない癖に……全くもって意味不明である。
なお、殺気はピンポイントで飛ばしてるので……なぜ彼が悲鳴を上げたのか分からず、連絡員の男は不思議そうにしている。
「急にどうしたんだ?」
「い、いえ、何でもありやせんぜ。……と、とにかく、こんな上玉を連れて来たんですから、礼金の方は……」
「ああ、分かってる。たっぷり弾んでやろうじゃないか。店のマスターに渡しておくから、後で取りに行け」
「ありがとうございやす!!」
そういって人攫い役の男は外に出て行ってしまった。
彼の役目はこれで終わりだ。
当然ながら、彼は執行猶予中の身なので、店の外に出たら騎士たちに確保される事になる。
「行ったか。さて…………嬢ちゃん、随分と落ち着いてるが、これからどうなるのか分かってるのか?」
連絡員の男はそんな事を聞いてきた。
フードから覗く口元には、いやらしい笑みが浮かんでいる。
これから売られる哀れで美しい少女の行く末を想像して、嗜虐的な悦びを感じているらしい。
「お前はこれからオークションにかけられて、他国の金持ちに買われていくんだ。その後でどうなるかは分からんが……お前ほどの美貌の娘が辿る道など容易に想像がつくだろう」
男はニィ……とますます笑みを深めて言うが、エステルは無反応である。
怯えた少女の演技をする……などと気の利いたことはエステルには不可能だ。
クレイのお墨付きである。
「なんだ?ここまで言っても平然としてるとは……よっぽど肝が座っているのか……ただのアホなのか」
「んむ~っっっ!!!!(なにお~っ!!アホって何さ!!)」
「おわっ!?」
アホ呼ばわりされたエステルは怒りをあらわにし、抗議の声を上げる。
その声は猿轡でくぐもっているが、あまりの剣幕に男は驚いて後退ってしまう。
「びっくりした……見た目によらず気が強いな。とにかく……これから先は、お前に自由はない。せいぜい買い主に媚を売って、長生きする事だ」
(むぅ……好き勝手言ってるなぁ……こんなヤツ、デコピンで倒せそうなのに)
小馬鹿にするような男の言葉に、エステルは不満を募らせるが、今度は大人しくしている。
因みに、もし彼女が本気のデコピンを男にかましたら……中々にエグい事になるだろう。
彼は命拾いしたことを感謝すべきだろう。
「まぁ、お前は大事な『商品』だ。危害を加えたりはしないから安心しろ。もちろん、大人しくしていれば……の話だがな。さあ、こっちへ来い」
そう言って男はエステルを立ち上がらせて、腕を縛っている縄を掴んで倉庫の奥へと誘導する。
そこには店に繋がっていると思しき扉があるが、そっちに行くわけではないようだ。
(……?どこに行くんだろ?あの扉以外には、どこにも行けそうにないけど……)
大人しく男に従って歩くが、どう見ても行き止まりにしか見えない。
そこは他の場所と同じように荷物が並べられ……他には大きな荷棚が置かれているだけ。
エステルが不思議そうにしていると……男が荷棚に向い、そこに置かれた荷物をどかしながらゴソゴソと手を動かし始めた。
やがて、カチッ、と言う音が聞こえ、男が荷棚を横にスライドさせる。
するとそこには……
(あ!隠し扉!?)
そう。
荷棚は扉になっていて、その後ろには空間があったのだ。
その空間は人一人入るのがやっとなくらいなのだが、床には地下へと続く階段が設けられていた。
「よし、行くぞ。次にお前が地上に戻ってくるのは……誰かの所有物になった時だな」
男は再びいやらしい笑みを浮かべて言うが、エステルの耳には入っていなかった。
なぜなら。
(うわ~、秘密の地下室かぁ……かっこいい!何だかワクワクする!)
なんて、彼女は脳天気な事を考えていたから。
ともかく……
こうしてエステルは秘密の地下組織へと足を踏み入れることになるのだった。
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