5 / 28
4. 物といえど名前をつけたら愛着が倍増⤴︎⤴︎
しおりを挟む
ダニエルは今日も今日とてアナスタシアに会いに行った。先程厨房で作った卵とトマトのサンドウィッチを持って、ウキウキで向かった。
「アナスタシアさーん!」
返事がない。今日は不在のようだ。もしかしたらいるかもしれないと、一縷の望みをかけて、ソファと机と犬の置物しかない客室の奥にある扉を開けた。研究室の鍵は掛かっていなかった。
「おぉ~」
アナスタシアはいなかったが、たくさんの物が雑多に置かれている部屋があった。本が床に平積みにされ、書類が申し訳ない程度にまとめられ、書き物用の机や床の上に散乱していた。木材や液体 (恐らく海水) などが丈夫だけが取り柄の白いテーブルの上に無造作に置かれており、部屋の隅には使っていない椅子や棚、箱が寄せられていた。
「……片付けようかな」
アナスタシアも片付けようかな、ダニエルが片付けてもいいよ的なことを言っていたと思い出し、掃除の時間を始めることにした。
使われていなかった棚を綺麗に拭いて、本を並べた。そして、書類は内容に関連がありそうなものごとに分別し、隅に積み重なっていた箱に入れ、何が入っているかわかるようにラベル付けをした。白いテーブルを磨き上げ、木材や謎の液体はそのまま元の場所に戻した。
「結構埃が溜まっているなぁ」
床を掃いて、雑巾掛けをした。面倒になってきたため、魔術を使ってピカピカに磨き上げた。満足がいくまで床や壁を磨き終わると、避けていた棚や机などを戻した。かなり綺麗になったなと満足して、ダニエルはひと段落ついて、一人寂しくサンドウィッチ食べた。
「私物が一つもなさそうだ」
書類や本をはじめ仕事の用のものしかなかった。研究室であるため、当然といえるかもしれないが、プライベートがあまり感じられない部屋である。家族の写真やお土産の類もなく、仕事以外の物は客室の犬の置物のくらいだ。
ダニエルは一時期噂になっていたドーロン伯爵家のことを思い出していた。何でも姉が妹に婚約者を盗られたという醜聞にあたるものだ。本当は姉が妹に譲ったという穏便な流れだったらしいが、幼い頃から婚約を交わしていた二人でもあったことに加えて、妹のきゃるんとしたかわいらしい容姿から、盗られたなどとひねくれた見方をする者もいたのだ。何にせよ、その姉というのがアナスタシアだ。
「それじゃあ、続きをやろうかな」
ダニエルは立ち上がり、まだ掃除をしていない仮眠室とトイレ、簡易的なシャワールームに向かった。仮眠室は大変簡素であり、整えられてはいたが、空気の通りが悪かったため、しばらく換気を行った。普段からよく使っている風情のベッドだ。プライベート空間のようなものと感じたため、長居は避けた。トイレとシャワールームは魔術によって清潔さが保たれるように設定されており、不足した物があれば自動的に補充するようになっていた。とても便利だと感じ、教えてもらう魔術が増えたと思った。ダニエルはアナスタシアの魔術の応用の仕方に舌を巻いていた。この掃除の際に、ダニエルは床や壁を磨くといった多少手荒く扱っても平気そうなところにしか魔術を使っていない。もし、アナスタシアがここにいたらどのような魔術を駆使し、掃除をしていたか、気になった。
ダニエルは客室の机やソファを軽く拭き、床をさっと掃いて、掃除の時間を終えた。ふと、ずっと気になっていた犬の置物を手に取った。眉毛がはっきりとした独特な顔立ちで、長いこと見つめていると愛嬌がわいてくる。
「……名前はコージーにしようかな」
ダニエルはコージーを重しにして、メモを残した。勝手に掃除してごめんなさい、本は棚に並べました、書類はラベル付けした箱に入っていますという内容だ。
ダニエルは一つの仕事をやり切った爽快感に満ち溢れて、職場に帰って行った。次はアナスタシアに会えるといいなぁとぼんやりと思った。
そして、かなりの時間を研究室の掃除に費やしたダニエルは職場の上司に怒られた。
「アナスタシアさーん!」
返事がない。今日は不在のようだ。もしかしたらいるかもしれないと、一縷の望みをかけて、ソファと机と犬の置物しかない客室の奥にある扉を開けた。研究室の鍵は掛かっていなかった。
「おぉ~」
アナスタシアはいなかったが、たくさんの物が雑多に置かれている部屋があった。本が床に平積みにされ、書類が申し訳ない程度にまとめられ、書き物用の机や床の上に散乱していた。木材や液体 (恐らく海水) などが丈夫だけが取り柄の白いテーブルの上に無造作に置かれており、部屋の隅には使っていない椅子や棚、箱が寄せられていた。
「……片付けようかな」
アナスタシアも片付けようかな、ダニエルが片付けてもいいよ的なことを言っていたと思い出し、掃除の時間を始めることにした。
使われていなかった棚を綺麗に拭いて、本を並べた。そして、書類は内容に関連がありそうなものごとに分別し、隅に積み重なっていた箱に入れ、何が入っているかわかるようにラベル付けをした。白いテーブルを磨き上げ、木材や謎の液体はそのまま元の場所に戻した。
「結構埃が溜まっているなぁ」
床を掃いて、雑巾掛けをした。面倒になってきたため、魔術を使ってピカピカに磨き上げた。満足がいくまで床や壁を磨き終わると、避けていた棚や机などを戻した。かなり綺麗になったなと満足して、ダニエルはひと段落ついて、一人寂しくサンドウィッチ食べた。
「私物が一つもなさそうだ」
書類や本をはじめ仕事の用のものしかなかった。研究室であるため、当然といえるかもしれないが、プライベートがあまり感じられない部屋である。家族の写真やお土産の類もなく、仕事以外の物は客室の犬の置物のくらいだ。
ダニエルは一時期噂になっていたドーロン伯爵家のことを思い出していた。何でも姉が妹に婚約者を盗られたという醜聞にあたるものだ。本当は姉が妹に譲ったという穏便な流れだったらしいが、幼い頃から婚約を交わしていた二人でもあったことに加えて、妹のきゃるんとしたかわいらしい容姿から、盗られたなどとひねくれた見方をする者もいたのだ。何にせよ、その姉というのがアナスタシアだ。
「それじゃあ、続きをやろうかな」
ダニエルは立ち上がり、まだ掃除をしていない仮眠室とトイレ、簡易的なシャワールームに向かった。仮眠室は大変簡素であり、整えられてはいたが、空気の通りが悪かったため、しばらく換気を行った。普段からよく使っている風情のベッドだ。プライベート空間のようなものと感じたため、長居は避けた。トイレとシャワールームは魔術によって清潔さが保たれるように設定されており、不足した物があれば自動的に補充するようになっていた。とても便利だと感じ、教えてもらう魔術が増えたと思った。ダニエルはアナスタシアの魔術の応用の仕方に舌を巻いていた。この掃除の際に、ダニエルは床や壁を磨くといった多少手荒く扱っても平気そうなところにしか魔術を使っていない。もし、アナスタシアがここにいたらどのような魔術を駆使し、掃除をしていたか、気になった。
ダニエルは客室の机やソファを軽く拭き、床をさっと掃いて、掃除の時間を終えた。ふと、ずっと気になっていた犬の置物を手に取った。眉毛がはっきりとした独特な顔立ちで、長いこと見つめていると愛嬌がわいてくる。
「……名前はコージーにしようかな」
ダニエルはコージーを重しにして、メモを残した。勝手に掃除してごめんなさい、本は棚に並べました、書類はラベル付けした箱に入っていますという内容だ。
ダニエルは一つの仕事をやり切った爽快感に満ち溢れて、職場に帰って行った。次はアナスタシアに会えるといいなぁとぼんやりと思った。
そして、かなりの時間を研究室の掃除に費やしたダニエルは職場の上司に怒られた。
25
あなたにおすすめの小説
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
魔力量だけで選んじゃっていいんですか?
satomi
恋愛
メアリーとルアリーはビックト侯爵家に生まれた姉妹。ビックト侯爵家は代々魔力が多い家系。
特にメアリーは5歳の計測日に計測器の針が振りきれて、一周したことでかなり有名。そのことがきっかけでメアリーは王太子妃として生活することになりました。
主人公のルアリーはというと、姉のメアリーの魔力量が物凄かったんだからという期待を背負い5歳の計測日に測定。結果は針がちょびっと動いただけ。
その日からというもの、ルアリーの生活は使用人にも蔑まれるような惨めな生活を強いられるようになったのです。
しかし真実は……
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです
珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。
だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。
それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。
【完結】さっさと婚約破棄してくださいませんか?
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢のシュレア・セルエリットは、7歳の時にガーナス王国の第2王子、ザーディヌ・フィー・ガーナスの婚約者となった。
はじめは嬉しかったが、成長するにつれてザーディヌが最低王子だったと気付く──
婚約破棄したいシュレアの、奮闘物語。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる