【完結】妹に婚約者まであげちゃったけれど、あげられないものもあるのです

ムキムキゴリラ

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小話5. 家族

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 家族というある種の閉鎖的な集団に普通や正しさといった尺度を持ち込むべきではない。しかし、何事にも限度というものがある。アナスタシアの家族は正しいとは到底言えない集団だ。両親はあからさまに妹だけをエコ贔屓し、姉に対しては憎しみさえ抱えている。そして、妹は両親の甘やかしを普通と勘違いし、姉には何をしてもよいと錯覚している。そして、姉は両親と妹の仕打ちにただ耐えていた。これが普通と言ってもよいだろうか。
 そのような家族の異常性にアナスタシアが気づいたのは学生の時分だった。キャシーのように家にいるよりはいろいろな人と関わる機会に恵まれたおかげだろう。家族のことを楽しそうに、誇らしそうに、愛おしそうに語る同年代の姿を見て、直感した。これが正しい家族の姿ではないのかと。アナスタシアには両親を誇りと愛に溢れて語ることは到底できなかったのだ。それどころか怨嗟の声が止まらなくなりそうだった。
 アナスタシアが家族から疎外されたのはいつからだろうか、これは彼女自身も覚えていない。恐らく、両親や妹も忘れているだろう。理由は、キャシーの方がかわいいからか、アナスタシアにかわいげがないからか、両親よりも父方の祖母に懐いていたからか、父よりも出来がよかったからだろうか。なんにせよ、いつのまにか両親はアナスタシアを邪険に扱い、キャシーをひどくかわいがるようになっていた。ただ一人、おばあさまだけがアナスタシアをかわいがってくれた。接する機会が少なかったため、ちょっとした齟齬はあったかもしれないが、孫として慈しみ、愛してくれたことは事実である。
 そんなおばあさまが亡くなったことをきっかけに、より両親からの扱いが悪化した。今までのきれいな部屋から追い出され、いわゆる仕置き部屋がアナスタシアの自室同然となった。元は屋根裏の物置部屋で、使われなくなった家具が積まれている。ここでは、満足な食事が与えられず、空腹感が付き纏うため、この家具は食べられないか、木は植物だからワンチャンいけないかなと思考していた。そして、整備が行き届いていないため、雨漏りがして、汚い水が隅の方にわずかながら溜まっていた。喉の渇きに耐えかねたときに、アナスタシアがちょっとだけ舐めていたのだが、ある時、運が悪かったようでお腹を下したことがあった。それから、どうやったらお腹を下さずに安全に飲めるようになるか、考えるようになった。
 どのようにしてこの部屋で生きていくかということに集中して、両親がなぜ自分を虐げるのかという疑問は持っても、答えは探さないことにしていた。
 しかし、時が流れるにつれ、そのようなことを疑問に思うこと自体、異常なのだとアナスタシアは解ってしまった。
 早いうちから気づけたことは幸福か、まだ子どもであるというのに両親から愛されないと見切りをつけてしまったことは不幸か、判断に分かれるところかもしれない。
 何にせよ、幸か不幸か、アナスタシアは家族の歪さに気づき、距離を置くことにした。彼女は見切りをつけ、行動に移すことは早かった。学生時代はできる限り寮に籠り、魔術に励んで、スムーズに働き先を押さえた。就職してからは、職場で簡易的な寝床を確保した。両親に会わなくて済むように、最大限努力したのだ。
 アナスタシアにはアランという婚約者がいたが、妹のキャシーが奪う予感がしていたため、彼との結婚はしない想定で行動していた。アナスタシアがアランと結婚をすれば、嫌でも姉を未来のドーロン伯爵夫人として立てなければいけない場面が来ることは誰にでも想像がつく。キャシーは姉よりも下にいることは我慢できないため、アランと親密になり、そして、アランとキャシーが結婚するという結末は目に見えていた。アナスタシアはキャシーをある程度理解していた。いやでも姉妹として過ごした時間で性根は透けて見えている。
 そんなわけで、アナスタシアは公私共に家族から距離を置き、悠々自適に研究ライフを送っていた。給料半分を家に渡さなければならないが、それさえ行えば、ドーロン伯爵家から接触は皆無だった。
 しかし、最近、妹やアラン、両親からコンタクトを取られ、アナスタシアは心が揺らいでいた。アナスタシアは家族に見切りはつけていたが、完全に期待を捨て切れてはいない。もしかしたら、今まで悪かったと家族が改心するかもしれない、何か事情があって疎んでいるふりをしているだけで本当は娘として愛しているかもしれない。このような期待をわずかに握りしめている。
 アナスタシアはそのような期待を抱いても無駄だとわかっているため、家族との関わりを完全に断ち切って、解放されたかった。間違っても、家族に対して、復讐やばちが当たれと考えたこと、いなくなってほしいと思ったこと、不幸になれと呪ったことはない。
 ただ、私と関わりのないところで幸せになってほしいと願っている。
 




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