工藤くん、恋のバグは直せますか? 〜一夜の過ちから、同期の溺愛が始まりました〜

有明波音

文字の大きさ
8 / 13
お宅訪問

1.

しおりを挟む
――ガチャッ、バタン

 扉が閉まり、工藤がこちらを振り向く。そのまま勢いに任せて……と思いきや、歩いている間に少し冷静になったのか、ふと私の手首に優しく触れた。


「悪い、結構強く引っ張ってたかも。痛くない?」
「うん、大丈夫。あのー……」
「ん、どうした?」
「お水もらっても良い? 結構お酒飲んだから、ちょっと休憩したいかも」
「分かった、こっちのソファ座って」


 工藤に促されるまま、ソファに腰を下ろす。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出した工藤は、コップに注いでこちらに持ってきてくれた。
 ひやりとした水で喉を潤せば、昂った感情も少しずつ落ち着いてくる。


「青山、先にシャワー浴びてきたら?」
「あ、うん。ありがとう。汗でベタベタしてたし、助かる」


 工藤からは浴室の諸々の使い方を教えてもらい、私は一人シャワーを浴び始めた。やっと一人きりになれた。汗を洗い流しているとだんだん冷静になってきて、これまでのことを振り返ってしまう。


(さっき『そういう所も良いなって思ってた』って言ったけど、工藤って私のこと好きなの……? いや、ハッキリ好きって言われた訳じゃないし、その場のノリだったら後で傷つくな。
 そもそも別れたばっかりでそういう流れになるの、私ってば軽過ぎ?)


 “心の穴”を別の男性に埋めてもらうってどうなんだろう、それは工藤に失礼じゃないかと頭では思う。

 でも、ふと工藤とのキスを思い出すと体が熱くなる。キスだけであんなに気持ちが良いのだ。それ以上先に進んだら――絶対、沼だ。

 ただの同期に戻れなくなる可能性、何パーセント? それに体だけじゃない。工藤の優しさに触れるたびに、心が揺れていることにも薄々気付いていた。


(やっぱり、今日は工藤の家じゃなくて、今からカプセルホテルに泊まりに行こう)


 そう結論づけると、急いで着替えを済ませてリビングに戻った。


「工藤、私やっぱり今日は……って、何してるの!?」


 手に持つソレが、『ブーーーー』と震えながら圧倒的な存在感を放っている。それが何か気付いた瞬間、「!?!!」と声にならない悲鳴と共に工藤の手から奪い取った。

 眼鏡を外して前髪も上げているから、彼の表情がよく見える。面白いものを見つけたとでも言うように、口元では弧を描いていた。


「な、なんで工藤が私のオモチャを持ってるのよっ!」
「青山のバッグを移動させたら、他の荷物と当たって電源入っちゃったみたいで。まさかオモチャだと思わなくて、急いで開けちゃったっていうか……。悪い」
「う、そっか……」
「でもそうか、これが青山のことを気持ち良くしてたんだなぁ」


 なるほどな、とまじまじと見つめられても反応に困る。
 私は急いで電源を切って、元々オモチャが入っていたバッグに突っ込んだ。恥ずかし過ぎて穴があったら入りたい。工藤の顔を見れない。

 黙ってボストンバッグの前に座り込んでいると、後ろからふわりと抱きしめられた。そして耳元で、優しい声音で話しかけてくる。


「なんか、青山良い匂いするな」
「……工藤と同じシャンプーなのに? あ、ごめん、シャンプー借りた」
「それは良いけど。んーなんか甘い匂いする」
「嘘、そんな訳ない」
「で、予告通り、不感症かどうか俺で試す気になった?」


 匂いの話をしていたはずなのに、予想の斜め上からぶっ込んでくる。今日は工藤に翻弄されてばかりだ。

 後ろから抱きしめられているから、工藤の顔は見えない。でも、恐らく無理強いするつもりはないのだろう。私が本気で断れば、きっと解放してくれる。

 頭では離れなきゃと思うのに、体が言うことを聞かない。答えに躊躇っていると、工藤の方が先に口を開いた。


「ま、もう帰すつもりもないけどな?」


 そう耳元で呟くと、突然長い指先で顎をくいっと工藤の方へと向けさせられた。


***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】 その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。 片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。 でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。 なのに、この呼び出しは一体、なんですか……? 笹岡花重 24歳、食品卸会社営業部勤務。 真面目で頑張り屋さん。 嫌と言えない性格。 あとは平凡な女子。 × 片桐樹馬 29歳、食品卸会社勤務。 3課課長兼部長代理 高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。 もちろん、仕事できる。 ただし、俺様。 俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「責任は取る。僕と結婚しよう」 隣にイケメンが引っ越してきたと思ったら、新しく赴任してきた課長だった。 歓迎会で女性陣にお酒を飲まされ、彼は撃沈。 お隣さんの私が送っていくことになったんだけど。 鍵を出してくれないもんだから仕方なく家にあげたらば。 ……唇を奪われた。 さらにその先も彼は迫ろうとしたものの、あえなく寝落ち。 翌朝、大混乱の課長は誤解していると気づいたものの、昨晩、あれだけ迷惑かけられたのでちょーっとからかってやろうと思ったのが間違いだった。 あろうことか課長は、私に求婚してきたのだ! 香坂麻里恵(26) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部営業 サバサバした性格で、若干の世話焼き。 女性らしく、が超苦手。 女子社員のグループよりもおじさん社員の方が話があう。 恋愛?しなくていいんじゃない?の、人。 グッズ収集癖ははない、オタク。 × 楠木侑(28) 内装業SUNH(株)福岡支社第一営業部課長 イケメン、エリート。 あからさまにアプローチをかける女性には塩対応。 仕事に厳しくてあまり笑わない。 実は酔うとキス魔? web小説を読み、アニメ化作品をチェックする、ライトオタク。 人の話をまったく聞かない課長に、いつになったら真実を告げられるのか!?

腹違いの弟くんの執着

ひぽたま
恋愛
あかね(29才)は医局勤めの新人女医。 とある理由があってど田舎の診療所に派遣を申し出るが、到着したその家には「とある理由」である腹違いの弟、葵くんがすでに到着していた! あかねは元々葵の家庭教師だったが、葵はあかねにベタ惚れ。あかねも葵を可愛がっていたのだが、お互いの両親の無責任から二人は腹違いの姉弟だとわかり、そこから葵の暴走が始まった。 常に逃げ腰のあかねに、追う葵。 葵の大学卒業を期にこっそり距離をおくつもりだったあかねを、なんと葵は就職も蹴って追いかけてきたのだった。 場所はど田舎。知り合いもいなければ逃げ込む先もない診療所兼住居で葵は堂々と宣言する。 「ここなら僕たち、夫婦として暮らせるよね」 冗談じゃない!が、患者さんを放り出して逃げるわけにもいかない。 かくしてあかね先生と葵くんの倫理をかけた駆け引きがはじまるのだったーー。

そんな目で見ないで。

春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。 勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。 そのくせ、キスをする時は情熱的だった。 司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。 それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。 ▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。 ▼全8話の短編連載 ▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

○と□~丸い課長と四角い私~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。 会社員。 職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。 水と油。 まあ、そんな感じ。 けれどそんな私たちには秘密があるのです……。 ****** 6話完結。 毎日21時更新。

処理中です...