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好きだと気付いてしまって
3.
しおりを挟む「何が、ですか?」
「顔面蒼白というか、ものすごく体調悪そうなんだけど」
「飛鳥さん」
「ん?どうした?」
飛鳥さんは変わらず私に優しい笑みを向ける。
でも今の私には、残酷に突き刺さる刃でしかない。
「さっき偽装婚約を終わりにしたいって話」
「うん」
「飛鳥さんに、好きな人か結婚したい人ができたって、こと…?」
「いや、好きな人ができたというより、ずっと好きだったっていう方が正しいんだけど」
「え…?それって…」
(ずっと好きな人がいたのに、私に偽装婚約を提案したっていうこと……?)
そう思ったが最後、もうダメだった。我慢していたものが決壊して、感情が溢れ出てくる。ぼろぼろ、ぼろぼろと零れ落ちていった。
「澪!? え、どうした? そんなに俺の気持ちが嫌だった?」
「ひっく…うぅ、なんで、っく、好きな人がいるのにっ 私に偽装 ひっく 婚約、提案 したのっ? もう、こんなに好きに、させておいて ひどいよぉぉ…」
飛鳥さんの頭の上に「!??!」とはてなマークとびっくりマークがいっぱい浮かんでいる。そして突然合点がいったようで、一歩前に出た。
「澪」
そう言った瞬間、ふわっと私を抱きしめた。ぎゅうううと力が込められて、振り解けない。
ドンドンッと飛鳥さんの胸を叩く。
「嫌! 好きな人がいる癖に、こんなことしないで!!」
「その好きな人が、澪だって言っても?」
「……へ?」
止まらない涙をそのままに、飛鳥さんを見上げる。 今、なんて言った? あ、多分今の私、ものすごく間抜けな顔してるかも。
「本当に大成が悪いな、これは。タイミング悪過ぎ」
「どういうことです?」
「俺はずっと前から、澪が好きだったんだ」
「え……その、いつから?」
「うーん、澪は俺と初めて会った時のこと、覚えてない?」
「5年前の、あの超無愛想な飛鳥さんのこと?」
「いや、もっとずっと前。確かに好きだと自覚したのは5年前くらいだけど……でも、もっと前のことは澪に思い出してもらいたいな」
「え?? ちょっと待って、そもそも何で、好きだったのに偽装婚約を提案したの?」
「それは、澪を繋ぎ止めたかったから。でも、澪は俺のことが苦手だったろう? 普通に告白したんじゃ勝ち目がないと思って」
「えぇ…?」
もう完全に混乱していた。
飛鳥さんが好きな人は私で、それもずっと前から好きで、好きなのに偽装婚約の提案をした……?
訳が分からな過ぎて、知恵熱でも出そうだ。
「飛鳥さん、なんか、よく分からなくなってきました」
「いや、そうだよな。ここで立ち話するのもなんだから、一旦家に帰ろうか」
その後は、珍しく感情を爆発させた疲れからか、飛鳥さんの運転する車でウトウト寝てしまった。
気付いたらマンションの車庫に到着していた。
***
「澪、大丈夫か? 移動できる?」
「はい…すみません、すっかり寝ちゃってました」
「動けないなら、抱っこして連れて行こうか?」
飛鳥さんがニヤリと揶揄うように笑いながら、私の顔を覗き込む。
「ダメです!!恥ずかし過ぎます」
「はは、冗談だよ。澪はすぐ本気にするからなぁ」
「もうっ!」と怒りながら、私は車をすぐに降りた。
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