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父の日記を開くとき
2.
しおりを挟む200X年11月22日
今日は清香との結婚記念日だ。ささやかながら、家族みんなでホテル・ザ・クラウンのレストランでコース料理を堪能した。こういう時、社員割引があるのは有り難い。
澪はホテルでかくれんぼをして、迷ってしまった。七瀬社長のお孫さんで、副社長のお子さんである飛鳥くんが助けてくれた。
彼のような利発な男と、娘が結婚してくれたら安心して預けられるのに……と思ったが、やっぱり可愛い娘はまだ当分嫁にはやらない。
~~~~~
まだまだ読めていない部分も多いが、少し読んだだけでもぼろぼろと泣きながら読んでいた。でも、心にぽっかり穴が空くというより、じわじわと満たされるような感覚だった。
(こんなに愛されてたんだ……)
改めて気づかされたその瞬間、嗚咽になって止めどなく感情が溢れ出てくる。
それはもう、温かい涙だった。
いつの間にか外は暗くなりかけていて、薄暗いリビングで読んでいたことに気が付いた。
電気をつけようと、立ち上がった時だった。ガチャガチャと扉が開く音がした。
「……澪、いるのか?」
飛鳥さんがパチンと電気をつける。
そこに立っている私は目を真っ赤に腫らして、泣いている訳で。飛鳥さんの驚きは、それはすごいものだった。
「澪!?! 何かあったのか!?」
私の側に急いで駆け寄る。そして顔を覗き込むようにして、私の様子を確かめた。その優しい目は、私の記憶で一番古い、当時の飛鳥さんと全く変わらなくて。
見た目は成長と共に随分変わったが、その目で気づいてもおかしくない。むしろ、なんで今まで気づかなかったんだろう?
「どこか痛いのか? 辛いことがあったのか?」
「ふふ、いえ。すみません、飛鳥さん。今日は早退したのですが、父の日記を読んでいました」
「……そうか、早退ってことは、何かあったのか?」
そのまま2人でソファに座り、飛鳥さんに今日あった出来事を話した。
1206号室に宿泊している青木様が元清掃メイドだったこと、青木様が勤務中に水嶋専務の電話を聞いてしまったこと、そして父の事故が水嶋専務の一言で起きてしまったこと、庄司さんの気遣いで早退して日記から何かヒントがないか確認していたこと……など、ひとつずつ話していった。
飛鳥さんは途中で遮ることもなく、うんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。
「……それで、日記を読んで、どうだった? 辛い気持ちになったか?」
「それが……父に愛されてたんだなぁって、心が満たされるような気持ちになりました。今までは、父と生きていた時間がどんどん過去になっていくのが怖くて、辛くて、ずっと日記を開けないでいたのに。不思議ですよね……」
飛鳥さんは私の頭を撫でながら、黙って聞いていた。私が少しずつ言葉を紡ぐのを、待ってくれている。
「失ったものが大きいと、どうしてもそこに目がいってしまいますが……与えられたものとか、得られたこととか、目の前の幸せに目を向けられると良いですよね。少しずつでも」
「そうだよな……そう思えるようになった澪は凄いと思うよ。もし俺が今、澪を失ったら……17年どころか一生目の前が真っ暗かもしれない。前に進めるか自信は無いな。
そもそも、危ない目には遭わせないように頑張るけど」
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