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澪との出会い ー飛鳥sideー
4.
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ホテル・ザ・クラウンはそこに存在し続けるだけで、誰かの人生の支えになる……そう、腹落ちした瞬間だった。
そして、ホテルを作っているのは、倉田さんのような「人」なのだ。そういう働く人を大事にできる人が上に立つべきだ。経営者として、俺はその役割を担いたい。
澪と話していて、将来像の輪郭が急にはっきりと形作られた。
「お兄さん、どうしたの? 私、そろそろお家に帰ろうかな」
「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してた。澪ちゃん、お互い2つ約束ごとをしないかい?」
「なに? 突然…でも、いいよ。お兄さん、お父さんのこと知ってる人だから」
「はは…ありがとう。一つは、もし命を投げ出したいくらい辛い気持ちになっても、絶対に死なないこと。辛くなったら、いつでもこのホテルにおいで。二つ目は、そうだな……将来、君のお父さんと同じように、このホテルで働いてみたいと思わない?」
「え…?? お父さんと同じように?」
「そう、二つ目の約束は、もしこのホテルで働きたくなったら必ず働けるよう、俺が働きかける」
「え、本当にそんなことできるの? お兄さん偉い人の息子?」
「えーと……俺も偉くなる予定、かな?」
「なにそれ、ちょっと胡散臭いじゃん」
「はは、なかなか厳しいね。とにかく、澪ちゃんは絶対に死なないことを約束してくれる? 俺は、澪ちゃんが働きたくなったら働けるようにすることを約束する。どうかな?」
「うん、わかった。約束ね」
そう言って小指を差し出す澪に、俺も小指を出して「指切りげんまん」をした。
澪の目には泣いた後がまだ残っていたが、「お兄さん、またね!」と少しだけ元気になって去っていった。
***
澪が驚いたような顔をしている。色々と話を聞く中で思い出したんだろう。
「そうだ、あーくん…!!」
(……最初の感想が、そこかよ!)と突っ込みを入れたくなった。いや、色々思い出してくれて良かった、と思うべきか? 澪ってやっぱり、少し天然なところがあるよなと思う。
「父が亡くなって、辛い時期が続きました。私も早く父のところに行きたい、もう人生を終わりにしたいと思うこともあったのは事実です。でも、あの時のあーくんの言葉が記憶の片隅にあったんだな、と今では思います」
「そうか、澪が生きていてくれて、本当に良かったよ……」
そう言って澪をぎゅうっと抱きしめる。澪は頬を染めながら、俺の腕の中で「ふふ」と笑っている。
「前に映画行った時『澪は泣き虫だな』って言ってたのは、そういうことだったんですね。確かに2回とも泣いてるし……」
「あぁ、そうだな」
「そっか~でも、あーくんが飛鳥さんで、飛鳥さんがあーくん…」
「澪、おんなじこと言ってるし、若干困惑してるだろ」
「え、だって全然当時と雰囲気違くないですか!? でも、なんで今まで気づかなったんだろう私……ちょっと凹みますね」
「なんで? 澪は凹む必要ないと思うけど?」
「だって、飛鳥さんは覚えててくれたのに、私は思い出せなかったんですよ? それがなんか悔しくて…」
「でも、もう全部思い出したんだろう?」
「それもそうですね。あーくん」
「えっ 俺、これからあーくんって呼ばれるの? なんか急に呼び方変わるの、恥ずかしいんだけど」
そして、ホテルを作っているのは、倉田さんのような「人」なのだ。そういう働く人を大事にできる人が上に立つべきだ。経営者として、俺はその役割を担いたい。
澪と話していて、将来像の輪郭が急にはっきりと形作られた。
「お兄さん、どうしたの? 私、そろそろお家に帰ろうかな」
「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してた。澪ちゃん、お互い2つ約束ごとをしないかい?」
「なに? 突然…でも、いいよ。お兄さん、お父さんのこと知ってる人だから」
「はは…ありがとう。一つは、もし命を投げ出したいくらい辛い気持ちになっても、絶対に死なないこと。辛くなったら、いつでもこのホテルにおいで。二つ目は、そうだな……将来、君のお父さんと同じように、このホテルで働いてみたいと思わない?」
「え…?? お父さんと同じように?」
「そう、二つ目の約束は、もしこのホテルで働きたくなったら必ず働けるよう、俺が働きかける」
「え、本当にそんなことできるの? お兄さん偉い人の息子?」
「えーと……俺も偉くなる予定、かな?」
「なにそれ、ちょっと胡散臭いじゃん」
「はは、なかなか厳しいね。とにかく、澪ちゃんは絶対に死なないことを約束してくれる? 俺は、澪ちゃんが働きたくなったら働けるようにすることを約束する。どうかな?」
「うん、わかった。約束ね」
そう言って小指を差し出す澪に、俺も小指を出して「指切りげんまん」をした。
澪の目には泣いた後がまだ残っていたが、「お兄さん、またね!」と少しだけ元気になって去っていった。
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澪が驚いたような顔をしている。色々と話を聞く中で思い出したんだろう。
「そうだ、あーくん…!!」
(……最初の感想が、そこかよ!)と突っ込みを入れたくなった。いや、色々思い出してくれて良かった、と思うべきか? 澪ってやっぱり、少し天然なところがあるよなと思う。
「父が亡くなって、辛い時期が続きました。私も早く父のところに行きたい、もう人生を終わりにしたいと思うこともあったのは事実です。でも、あの時のあーくんの言葉が記憶の片隅にあったんだな、と今では思います」
「そうか、澪が生きていてくれて、本当に良かったよ……」
そう言って澪をぎゅうっと抱きしめる。澪は頬を染めながら、俺の腕の中で「ふふ」と笑っている。
「前に映画行った時『澪は泣き虫だな』って言ってたのは、そういうことだったんですね。確かに2回とも泣いてるし……」
「あぁ、そうだな」
「そっか~でも、あーくんが飛鳥さんで、飛鳥さんがあーくん…」
「澪、おんなじこと言ってるし、若干困惑してるだろ」
「え、だって全然当時と雰囲気違くないですか!? でも、なんで今まで気づかなったんだろう私……ちょっと凹みますね」
「なんで? 澪は凹む必要ないと思うけど?」
「だって、飛鳥さんは覚えててくれたのに、私は思い出せなかったんですよ? それがなんか悔しくて…」
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