副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

有明波音

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全てが明るみに出る時 ー飛鳥sideー

5.

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「……鬼頭君、そちらのご老人は一体誰だ?」

「こちらのご老人は、以前、当ホテルで働いていた青木さんという方です。水嶋専務はご存知ではないですか?」

「青木?どこの部署だ? レストランかどこかか?」

「青木さんは、17年前の倉田支配人の死亡事故について、水嶋専務が関わっていることを証言しに来られました」

「なんだと!?!」

役員陣からも「え?倉田支配人って交通事故ではなかったのか?」「どういうことだ?」と驚きを隠せない。


「ちなみに、愛人・佳奈子さんとの密会写真や、探偵、システム部への裏取り、そしてそれを副社長に報告したのは私ですよ?」


みんなが「えっ!?!!」と鬼頭に顔を向ける。
鬼頭はニコッとみんなに微笑み返した。


「また、七瀬副社長が事故に遭うよう、手を回していたのも裏が取れています。その辺の浮浪者にお金を渡し、七瀬副社長の会食会場からホテルに向かうまでの道の途中で、一時停止しているバイクに細工をさせていますね。

  バイクの運転手は乗り始めてからブレーキがおかしいことに気付き、歩道を歩いてきた七瀬副社長にぶつかりそうになったのを何とか避けた、という訳です!」


手をパンッと叩いて、ニコリと全員に笑顔を向ける。みんなの顔が引き攣っていた。

この男は本当にデキる奴だ。誰もが『敵に回したくない』と思っただろう。

そして、水嶋専務の秘書が退職するタイミングで、鬼頭を秘書候補に紛れ込ませたのは俺だ。そう、水嶋専務の情報は、鬼頭経由で全て筒抜けだったのだ。

「鬼頭っ……貴様、私を騙したな!?!」

水嶋専務が歯軋りしながら、相変わらず体を震わせている。ずっと苛立っていて、そろそろ血管の一本でも切れてしまいそうだ。

俺は専務に語りかける。


「専務……前秘書が辞めてすぐに、やけに優秀な秘書が現れて、おかしいなと思いませんでしたか?」

「知るか!!そんなこと、知るかっ!!」


冷静な表情をした社長が、突然口を開いた。


「副社長、その青木さんと言う方は、何を証言してくださるんだ?」

「はい、青木さん、話せますか?」

「あぁ、大丈夫ですよ。皆さん、私はこのホテルでメイドとして働いていた、青木と言います。17年前、倉田支配人のもと働いていました。倉田支配人が亡くなった……」

「やめろ!!もう、やめてくれ…!私には家族がいるんだ……!」

「専務……あなたの一言で家族を奪われた澪の気持ちが分かりますか? 他にも沢山の人が傷付き、青木さんのように17年もの間、十字架を背負って生きてきた人がいるんです。『家族がいる』は言い訳です」

「………」


専務はがっくりと肩を落とした。青木さんはその様子を見て、話しを続ける。


「倉田支配人が亡くなった後、その日の清掃が終わって32階のバックヤードに戻ろうとしたら、水嶋マネージャーの声が聞こえてきました。

 『……俺は確かに、いなくなったら良いとは言った。それはあいつが出世に邪魔だったからだ。だからと言って、事故を起こせだの、ましてや殺せだのとは一言も言っとらんぞ。どうしてくれるんだ?』と電話で話していました。

   そして私の姿を見つけた時は『もし聞いたことを他言したら、あんたも、あんたの家族もどうなるか分からないぞ』と脅されました。それをきっかけに、私は退職しました」
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