婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
3 / 54

第3話 監禁された令嬢

しおりを挟む
「はぁ、どうぜ監禁するなら、研究室にでも幽閉してくれればいいのに」


 ここは、王城地下にある独房。

 鉄格子の檻と固い壁が、私を囲いこんでいました。
 暗くてジメジメして、そして冷たい。

 こんなところに長居しようものなら、頭がどうにかなってしまいそう。


「このままだと私、本当に処刑されちゃうのかな……」


 捕まってしまったとはいえ、まだ実感がない。

 なにせ何もやましいことをしていないのだ。
 むしろ自分の竜研究が、民のためになると確信している。


「あの山崩れ……ここ数日は地鳴りも酷かったし、偶然ではないはず。なんとかして、理由を解明したいけど」


 いまの私は、それどころではない。

 なにせ、自分の命が危ないのだ。
 そのことを考えると、つい竜研究について頭がいってしまう。

 もしも自分が本当に処刑されるのなら、せめてこれまでの研究成果を誰かに託したいところだけど。


「でも、私の竜研究を目のかたきにしているあのクラウス殿下が、そう簡単に許してくれるのかしら……」


 殿下のことは、小さい頃からそれなりにお慕いしていたつもりでした。
 一応、私たちは許婚の関係だったから。

 それに、没落寸前の我が家を建て直すためにも、王太子との結婚は重要だ。
 もしも自分が王太子と婚約していなかったら、我がウラヌス家は本当に没落していたことでしょう。

 だからクラウス王太子には、それなりに感謝をしていました。
 私が王太子妃になることが決まっていたから、商会から融資を受けることができ、ウラヌス家は借金に潰れることがなくなったのだから。


 とはいえ、クラウス王太子にはこれまで何度も研究の邪魔をされてきた。
 それでも、将来この人の妻になるのだという未来のために我慢して、いつも彼を許していた。

 許すことができた理由は、私が王太子をお慕いしているから。
 そう思っていたけど、いざこんな状況になってみると、違っていたのではないかと気が付く。

 私は、別に王太子のことを、好きでもなんでもない。

 ただ竜が好きで、研究するのが好きだから、王太子の妨害を我慢し続けることができたのだ。

 あれだけのことをされてきた王太子のことを少しも憎んでいなかったのは、たんに竜のほうが大事だから。
 竜を研究することが私の生き甲斐であり、義務であり、ひいてはそれが国の民の為になるから

 他人を憎む時間があれば、竜研究に費やしたい。
 そう思うことで、これまでどんな波乱にも耐えてきた。


 けれども、さすがに今日のことは堪えたね。
 だって私、許婚に裏切られて、捨てられたんだから。

 婚約者の口から、直接「処刑する」と言われてしまった。


 私はただ、竜の研究をしていただけだったのに。


「私、死にたくない……」


 こんなところに幽閉されても竜研究のことを考えていたのは、ただ竜研究がしたいからだけじゃない。

 自分が処刑されるという事実から、目を背けたいだけだった──現実逃避をしていただけなのだ。


「死にたくないよう……誰か、助けて」


 そう呟いたところで、誰かが階段を下りる音が聞こえてきました。


 足音は、二人分。

 衛兵だけなら、足音は一人のはず。
 ということは、誰かが私に会いに来たのだ。


 ここまで来て、面会をすることができる人物。
 婚約者であったクラウス王太子のことが、脳裏をよぎる。

 だが、咄嗟とっさに言葉に出たのは、違う人間の名前でした。


「……アイザック!?」


 その時、気がついてしまいました。


 私が真に信頼していたのは、婚約者であったクラウス王太子ではない。

 助手の、アイザックなのだと──


「もしかして、私はアイザックのことを……」


 雨の日、嵐の日も、いつもアイザックは私の隣にいた。
 王太子からの妨害に耐えることができたのだって、アイザックの献身があってのこそ。

 小さい頃から身近にいすぎて、ついそれが当たり前のことだと思ってしまった。
 だけど、それは本当は特別なことで、普通のことではない。

 さっきだって、命をかけて私のことを救おうとしてくれた。


「アイザック……!」

 胸の奥がムズムズする。
 心臓の鼓動が、速くなっているのだ。


「なんなの、この気持ちは?」


 竜に抱いていた気持ちと同じくらいの大きな感情が、体の中で爆発しそう。
 抑えられないこの気持ちの名称のことを、なんというのか本で読んだことがあった。

 でも、それはあくまで書物の中での単語。
 自分の身に起こるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

 でも、本当にこの気持ちは、それのことなのだろうか?

 研究者としての私の血が騒ぐ。
 実証してみたい。

 すぐにでも彼に触れてみて、この気持ちがなんなのか確かめたい。


「でも、それはもう無理ね」


 なぜなら私は、処刑される運命なのだから。


 ──アイザックとは、もう二度と会うことはない。


 平民であり、ただの助手であるアイザックが、ここに面会に来ることは不可能。
 だから、この足音の主は、アイザックであるはずがない。

 そんなこと、頭では良くわかっている。
 わかってはいるけど、つい望んでしまう。


「アイザックに、会いたい……」


 ほほに水滴がしたたり落ちる。
 自分がいつの間にか泣いていることに気が付いたのは、衛兵に声をかけられたときでした。


「……なんだ、死ぬのが怖くて泣いてるのか?」

 衛兵の声に反応して、顔を上げる。

 私、泣いていたんだ……。
 階段を下りていた衛兵が目の前に来ていることに気がつかないくらい、感傷的になっていたらしい。


「泣いてるところ悪いが、朗報がある」


 衛兵の後ろに、誰かが立っている。
 暗くて顔まではわからないけど、確実に人の気配がした。

 ──やっぱりもう一人の足音は、私への面会人だった!


 だけど、いったい誰が?


 お父様やお母様は……きっと違う。
 研究に熱中していたて、実の娘が処刑されそうになっていることすら、気がついてはいないでしょう。


 クラウス王太子は……あり得ない。
 あのカテリーナとかいう令嬢と、よろしくやっているはずだから。


 なら、助手のアイザック?
 でも彼は、ただの平民だから、王城の牢屋に面会に来るほどの政治力はないはず。


 とはいえ、もしも願いが叶うなら、面会人はアイザックであってほしい。
 せめて死ぬ前に、最後でいいから、彼に会いたい。

 わずかな望みにかけて、衛兵の後ろにいる人物へと目を向ける。


「お前に、面会人だ──長居ながいはするなよ」


 そう言って、衛兵が後ろに下がります。

 代わりに鉄格子の前に現れたのは、思いもよらぬ人物だったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...