婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
5 / 54

第5話 断頭台のルシル

しおりを挟む
 私が幽閉されてから、どれくらい経ったのでしょうか。

 あれから何日も監禁され、ついに処刑当日になりました。
 どうやら私は、ギロチンで処刑されるらしいです。


「ルシル、最後に言い残すことはあるか?」


 元婚約者であるクラウス殿下が私に声をかけてくれました。


 いまの私が願う、最後のこと。
 助手のアイザックについてはセシリアにお願いした。
 だから、心残りは私の研究についてだけです。

 これまでの研究で、山で何か異変が起き始めていることはわかっている。
 それらの成果を誰かに引き継ぐことができれば、それだけでこの世に私が生きた証にもなる。
 

「私の研究成果の中に、竜の山の伝承をまとめた書類があります。それを読んでくだされば、あの山で起きている異変のことがわかるはずです」

「お前の研究室は、昨日燃やした。だからもうこの世にはない」


 ──そ、そんなあ。

 私の10年の結晶が……。


 うなだれる私は、そのまま断頭台《だんとうだい》に縛られました。

 私の人生のすべてと一緒に、研究室に保管していた竜の爪も失った。
 宝物はこの世から消えた。

 もう、私には何も残っていない。


 ああ、このまま私、殺されるのか。
 もっと竜の研究、したかったなあ。

 叶うなら、一度で良いから、この目で本物の竜を見て、触ってみたかった……。


「ルシル、いま助けるぞ!!」


 広場に異変が起きます。
 処刑を見物に来た群衆をかき分けながら、誰かが近づいて来たのです。


「アイザック!」


 彼だ。
 私の研究助手だ!

 良かった、無事だったんだね。
 捕まっていなかったのなら安心したよ。
 
 でも、見ていて胸が苦しくなります。
 だってアイザックは、どう見ても私を助けようとしてくれているから。


「あれはアイザックか。釈放《しゃくほう》してやったのにこりないやつだ」


 クラウス殿下が、衛兵たちにアイザックを取り押さえるよう命じます。


「や、やめてください! アイザックは無関係です!」


 私の言葉は王太子にも衛兵にも届くことはなく、アイザックは再び衛兵たちに取り押さえられてしまいます。

 アイザックはただの研究助手。

 戦闘経験なんてないはず。
 だから無理よ!

 私は断頭台から、彼が傷つけられるのを見守ることしかできませんでした。


「なんで、私なんかのために……」


 元侍女のセシリアに、私がお願いしたこと。
 それは、アイザックのことでした。

 もしもアイザックが、先日私を助けようとしたせいで捕まっていたら、助けてあげてほしい。
 そして、私が死んだあと、アイザックの面倒をみてほしいと。

 あのドラッヘ商会なら、きっとアイザックを雇ってくれるはず。
 次の就職先が決まるまでの間でいいから、アイザックの後ろ盾になっていてほしいと、セシリアにお願いしたばかりです。

 それなのに、処刑される私を助けようとしたら、また捕まってしまうかもしれない。
 こんな公衆の場での暴挙なのだから、アイザックには何かしらの罪をされるはずだ。

 そうなればアイザックをドラッヘ商会へ就職させることも、水の泡になるかもしれない。


 侍女をしていた時のセシリアは、決めたらすぐに行動する子でした。
 おそらく、すでにアイザックはセシリアからの接触を受けて、サンセット子爵家の支援を受けていたはず。

 それなのに、アイザックはすべてを捨てる覚悟で、命をかけて私を助けようとした。
 
 
 そのことが、たまらなく嬉しかった。


 
「アイザック……!」


 最後に、彼と目が合った気がする。

 断頭台からそれなりの距離があるから、ただの私の気のせいかもしれない。
 けれども、彼の想いが私には伝わった。

 最後には抵抗もむなしく、アイザックは衛兵たちに連行され、広場から消えていきました。


「こんな私のために、ありがとう……」


 死ぬ前に、彼をひと目でも見られて良かった。

 思い残すことはたくさんあるけど、もういい。
 アイザックにこれほど想われていたという事実だけで、もう満足。

 これで本当に、悔いはない。


「ごめんねアイザック。私はここまでみたい」


 これまで私のわがままに付き合ってくれてありがとう。
 ダメな主だったと思う。ごめんね。

 アイザックは私のことなんか忘れて、自由に生きて欲しい。
 でもこれは私の願望だけど、もしも私の竜研究を引き継いでくれたら、嬉しいな……。


「もういいだろう。ルシルを処刑せよ」


 クラウス殿下が、衛兵に命令を下します。
 ギロチンの小さなレバーに、手がかけられました。

 ついに最後の瞬間です。

 いまさらだけど、痛いのはイヤだな。
 できれば痛みを感じずに命を散らしたい。

 目をつぶって、歯を食いしばります。


 ──その時でした。


 突如、広場の向こうから大きな爆発音が聞こえたのです。

 アイザックが連れていかれた方角のはず。
 すぐに、広場の誰かが叫びます。


「なんだあれは!?」


 観衆が空を見上げながら指を差しました。
 続けて、広場に大きな影ができます。

 何事かと、顔を上げました。

 そして驚きのあまり、から目が離せなくなります 


「まさか、そんな……いったいどうして……?」


 バサリと風が舞う。

 私の瞳には、信じられない光景が映っていました。

 これまで長い間、恋焦こいこがれて仕方のなかった、私の研究対象。
 いまではもう伝承にしか存在しない、伝説の生き物。


「ドラゴン……!?」


 空に、巨大な竜が飛んでいたのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...