10 / 54
第10話 竜都への旅路
しおりを挟む
竜車の窓から見える外の景色に、私は目を奪われていました。
「アイザック……私、いま最高の気分かも!」
だって小さな竜が、たくさん見えるから!
二足歩行をしているあの地竜という生き物は、街道を通り過ぎる竜車だけでなく、畑などでも確認できた。
このジェネラス竜国では、地竜は人々の生活の一部になっているんだ!
あの地竜が気になる。
竜と似ているけど竜と同じ生き物なのだろうか、それとも竜の亜種なのか、はたまた竜に似てはいるけどまったく違う生き物なのだろうか。
「ねえ、あの地竜は竜に似ているけど、竜とは同じ生き物なの?」
「いいや、違う生き物だ。地竜は亜竜種っていって、竜とは異なる生物とされている」
私は竜車の向かいに座っている恋人に視線を向けます。
アイザックの正体は、竜だった。
竜は人間になれるのだし、地竜とはまったく違う生物だといわれてすぐに納得してしまった。
地竜もイケてるけど、うちのアイザックの黒竜様に比べれば、まだまだよね。
それでも、故郷のカレジ王国では生息していなかった地竜という生き物に夢中になってしまった。
竜車に乗った旅は、初めて目にするものばかり。
特に、いまはあの竜にそっくりな地竜という生物が興味深い。
「アイザック、紙」
「はいはい、ルシル先生」
スケッチブックを受け取った私は、無心で絵を描き始める。
地竜の姿を、少しでもたくさん記録に残したいから。
「いつかそうなるだろうと覚悟はしていけど、はやくも研究者モードになってしまったか」
ヤレヤレといった声がアイザックから聞こえてくるけど、いつものことなので気にしない。
私とアイザックは、こういった研究者とその助手との関係からスタートした。
むしろこれは、いつもの私たちの風景といっても良い。
「まったく、恋人を放っておくその態度に普通は良い感情を持たないんだろうけど、あいにく俺は研究者のルシルを含めて好きになってしまったんだよな」
「え、研究者の私がなんですって?」
「いや、ルシルは今日もかわいいなって」
──グシャリ。
ルシルの手が滑り、スケッチブックの紙が折れ曲がってしまった。
「なななな、いきなりなに言うのよ!?」
アイザックが私のことをかわいいと言った。
そんなこと、これまで言われたことなかったのに、なんで!?
「そ、そんなお世辞、どこで覚えてきたのよ?」
「いや、公爵令嬢であり上司でもあったルシル研究員に、俺がかわいいと言うことは失礼だったからな。ずっと言いたかったけど、我慢してたんだ」
いまの私は、公爵令嬢はなくなった。
貴族の身分はなくなったうえに、周囲の目もない。
だからアイザックは、一歩心の内側に踏み込んでくれたのかもしれない。
「でも、アイザックからお世辞を言われるなんて、なんだか変な気がする。私たち、そういった他人行儀な関係じゃないのに」
「お世辞なわけないだろう。ルシルは俺がこれまでに出会ったきたどんな人よりも綺麗で、魅力的だよ」
そう言いながら、アイザックは私の隣へ座ってきます。
そして、私の髪を触りながら、小さく笑みを浮かべた。
「それに、船旅をしている時に、毎日かわいいと伝えたはずなんだがな」
「……そ、そうだったかしら?」
船酔いが酷くて、船でのことはあまり覚えていない。
ずっとアイザックが看病してくれていたのだけは、記憶にあるけど。
そういえば──と、ルシルの視線がアイザックの手へと吸い込まれる。
アイザックは船で横になっている私の手を、ずっと握っていてくれた気がする。
彼の手は、大きくゴツゴツしていて、そして温かかった。
「もしかして、船で俺が毎晩ルシルの耳元で囁いていた言葉も、覚えていないのか?」
「な、なんて言っていたの……?」
少し考えるそぶりをしたアイザックは、自分の人差し指を立てた。
その人差し指を私の唇の前に移動させて、ウインクしながらこう告げます。
「……秘密だ」
ア、アイザックのケチー!!!
まあ、船酔いのせいで覚えていない私が悪いんだけどさ。
プンプンと怒る私を見たアイザックは、なぜか嬉しそうに微笑みます。
「良かった。やっと、いつものルシルに戻ったな」
「……私はいつもと変わらなかったと思うけど?」
「いいや、処刑場で見たルシルは、すべてに絶望したような表情をしていたから」
そうだ。
私、死ぬところだったんだよね。
アイザックが竜になって助けてくれなかったら、いま頃私は首と胴を断たれてどこかの共同墓地に捨てられていたはずだ。
「すまない、辛いことを思い出させてしまったな」
「ううん、いいの。アイザックのおかげで、私はまだ竜研究が続けられるから」
それに、世界で一番大切な人であるアイザックと、これからもずっと一緒にいられる。
一度は諦めた人生だからこそ、いまこの瞬間の日常が愛おしい。
「ルシル、俺がお前を幸せにする。何があっても俺が守るから、もうあんな目に遭うことはない」
「…………ありがとう、アイザック」
アイザックの肩に寄りかかる。
彼は私の体を静かに受け入れてくれた。
そんな彼のことが頼もしく、二度と離れたくないと思ってしまった。
それから数日後。
竜車は、ついに目的地へと到着します。
「ルシル、そろそろ見えてきたぞ」
竜車の窓から、顔を出す。
平原の向こうに、見たこともない巨大な都市が広がっていました。
「あれが竜都……!」
ジェネラス竜国の首都。
その巨大な街の中心には、高い塔が目立つ荘厳な城が建っていました。
「あの城が、ドラス城だ。今日から俺たちが住む、新居でもある」
「私たち、あそこで暮らすのね」
竜が暮らし、竜が国を治めるジェネラス竜国。
この場所が、これから私の新しい故郷になる。
私の第二の人生が、始まろうとしていました。
「アイザック……私、いま最高の気分かも!」
だって小さな竜が、たくさん見えるから!
二足歩行をしているあの地竜という生き物は、街道を通り過ぎる竜車だけでなく、畑などでも確認できた。
このジェネラス竜国では、地竜は人々の生活の一部になっているんだ!
あの地竜が気になる。
竜と似ているけど竜と同じ生き物なのだろうか、それとも竜の亜種なのか、はたまた竜に似てはいるけどまったく違う生き物なのだろうか。
「ねえ、あの地竜は竜に似ているけど、竜とは同じ生き物なの?」
「いいや、違う生き物だ。地竜は亜竜種っていって、竜とは異なる生物とされている」
私は竜車の向かいに座っている恋人に視線を向けます。
アイザックの正体は、竜だった。
竜は人間になれるのだし、地竜とはまったく違う生物だといわれてすぐに納得してしまった。
地竜もイケてるけど、うちのアイザックの黒竜様に比べれば、まだまだよね。
それでも、故郷のカレジ王国では生息していなかった地竜という生き物に夢中になってしまった。
竜車に乗った旅は、初めて目にするものばかり。
特に、いまはあの竜にそっくりな地竜という生物が興味深い。
「アイザック、紙」
「はいはい、ルシル先生」
スケッチブックを受け取った私は、無心で絵を描き始める。
地竜の姿を、少しでもたくさん記録に残したいから。
「いつかそうなるだろうと覚悟はしていけど、はやくも研究者モードになってしまったか」
ヤレヤレといった声がアイザックから聞こえてくるけど、いつものことなので気にしない。
私とアイザックは、こういった研究者とその助手との関係からスタートした。
むしろこれは、いつもの私たちの風景といっても良い。
「まったく、恋人を放っておくその態度に普通は良い感情を持たないんだろうけど、あいにく俺は研究者のルシルを含めて好きになってしまったんだよな」
「え、研究者の私がなんですって?」
「いや、ルシルは今日もかわいいなって」
──グシャリ。
ルシルの手が滑り、スケッチブックの紙が折れ曲がってしまった。
「なななな、いきなりなに言うのよ!?」
アイザックが私のことをかわいいと言った。
そんなこと、これまで言われたことなかったのに、なんで!?
「そ、そんなお世辞、どこで覚えてきたのよ?」
「いや、公爵令嬢であり上司でもあったルシル研究員に、俺がかわいいと言うことは失礼だったからな。ずっと言いたかったけど、我慢してたんだ」
いまの私は、公爵令嬢はなくなった。
貴族の身分はなくなったうえに、周囲の目もない。
だからアイザックは、一歩心の内側に踏み込んでくれたのかもしれない。
「でも、アイザックからお世辞を言われるなんて、なんだか変な気がする。私たち、そういった他人行儀な関係じゃないのに」
「お世辞なわけないだろう。ルシルは俺がこれまでに出会ったきたどんな人よりも綺麗で、魅力的だよ」
そう言いながら、アイザックは私の隣へ座ってきます。
そして、私の髪を触りながら、小さく笑みを浮かべた。
「それに、船旅をしている時に、毎日かわいいと伝えたはずなんだがな」
「……そ、そうだったかしら?」
船酔いが酷くて、船でのことはあまり覚えていない。
ずっとアイザックが看病してくれていたのだけは、記憶にあるけど。
そういえば──と、ルシルの視線がアイザックの手へと吸い込まれる。
アイザックは船で横になっている私の手を、ずっと握っていてくれた気がする。
彼の手は、大きくゴツゴツしていて、そして温かかった。
「もしかして、船で俺が毎晩ルシルの耳元で囁いていた言葉も、覚えていないのか?」
「な、なんて言っていたの……?」
少し考えるそぶりをしたアイザックは、自分の人差し指を立てた。
その人差し指を私の唇の前に移動させて、ウインクしながらこう告げます。
「……秘密だ」
ア、アイザックのケチー!!!
まあ、船酔いのせいで覚えていない私が悪いんだけどさ。
プンプンと怒る私を見たアイザックは、なぜか嬉しそうに微笑みます。
「良かった。やっと、いつものルシルに戻ったな」
「……私はいつもと変わらなかったと思うけど?」
「いいや、処刑場で見たルシルは、すべてに絶望したような表情をしていたから」
そうだ。
私、死ぬところだったんだよね。
アイザックが竜になって助けてくれなかったら、いま頃私は首と胴を断たれてどこかの共同墓地に捨てられていたはずだ。
「すまない、辛いことを思い出させてしまったな」
「ううん、いいの。アイザックのおかげで、私はまだ竜研究が続けられるから」
それに、世界で一番大切な人であるアイザックと、これからもずっと一緒にいられる。
一度は諦めた人生だからこそ、いまこの瞬間の日常が愛おしい。
「ルシル、俺がお前を幸せにする。何があっても俺が守るから、もうあんな目に遭うことはない」
「…………ありがとう、アイザック」
アイザックの肩に寄りかかる。
彼は私の体を静かに受け入れてくれた。
そんな彼のことが頼もしく、二度と離れたくないと思ってしまった。
それから数日後。
竜車は、ついに目的地へと到着します。
「ルシル、そろそろ見えてきたぞ」
竜車の窓から、顔を出す。
平原の向こうに、見たこともない巨大な都市が広がっていました。
「あれが竜都……!」
ジェネラス竜国の首都。
その巨大な街の中心には、高い塔が目立つ荘厳な城が建っていました。
「あの城が、ドラス城だ。今日から俺たちが住む、新居でもある」
「私たち、あそこで暮らすのね」
竜が暮らし、竜が国を治めるジェネラス竜国。
この場所が、これから私の新しい故郷になる。
私の第二の人生が、始まろうとしていました。
87
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる