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第15話 神竜族と竜人族、そして人族
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翌日。
寝室で目覚めた私は、婚約式への身支度を整えています。
「アイザックはあの後、出かけたまま寝室には戻って来なかったわね……」
アイザックは昨夜、「婚約式の準備をしてくる」と言って、寝室には戻ってこなかった。
なので結局、ひとりで寝るはめになったのだ。
国に帰ったばかりで、いまのアイザックは忙しい。
それなのに昨日は私のわがままで黒竜様になってもらって、いろいろと観察させてもらった。
そのせいで、仕事が溜まっていたのでしょう。
私のために寝ずに仕事をさせてしまったと思うと、少し心苦しくなる。
だけど、後悔はない。
「アイザックの竜の姿……また触りたいなあ」
夢のような時間を過ごした。
本物の竜を間近で見られただけでも、もう死んでも良いくらい悔いはない。
「でも今日、私はアイザックと婚約するのね」
まだ実感がないわね。
研究者と助手。
恋人。
そして昨日は、研究者と研究対象にもなった。
変化した関係はさらに進み、夫婦になることを誓い合った仲となる。
そして、それを喜んでいる自分がいます。
もしもいま死んでしまったら、アイザックと一緒になれないことが悔いに残ることでしょう。
「婚約なんて飛ばして、もう結婚してしまってもいいのに」
自分が誰かの妻になるのは、いまでも想像できない。
元婚約者のクラウス王太子と婚約したときだって、実感はなかった。
だけど、前にクラウス王太子と婚約した時と違って、アイザックとの婚約という言葉には、妙に胸にくるものがある。
「それにしても、アイザックにこんなにも強情なところがあるなんて、知らなかったわ」
元々、今日はアイザックが守護竜としての責務を全うしたことに伴う凱旋式が行われる予定でした。
それに急遽、私との婚約式を混ぜ込んだらしい。
『一刻も早く、ルシルと婚約したかったから』
そうアイザックは言っていたけど、それは私にしても願ったりかなったりだった。
なにせアイザックの恋人という立場だけでこの城にいるのは、あまりにも肩身が狭すぎるから……!
「それくらいここって広くて、豪華なのよね。私には不釣り合いなくらい」
私がため息をつくと、横に控えていた側仕えの侍女が「ルシル様」と声をかけてきます。
「こちらの宮殿は、アイザック殿下の命により、我々ルシル様の側仕え一同が身命を賭して準備いたしました」
畏まったふうに膝をついたのは、この度、私の侍女となったばかりのマイカです。
メイド服姿のマイカは、果物ナイフを自分の首に当てて決死の表情をしました。
「もしもルシル様になにかご不満があるようでしたら、このマイカは、この場でルシル様に命を捧げる所存です」
「そんなに重く考えないでいいから!」
マイカから果物ナイフを取り上げ、彼女の両手を握ります。
「不釣り合いだと思ったのは、私に対して。こんなに立派なお部屋を整えてもらって、嬉しくなってそう言ってしまったの」
「ほ、本当でございましょうか?」
「本当よ。マイカみたいなしっかり者が私の侍女になってくれて、嬉しいわ」
涙目になっているマイカが、花を咲かせるように笑顔になりました。
「まさか王太子妃になるお方が、こんなにも優しいなんて思ってもいませんでした。このマイカ、身命を賭してルシル様にお仕えさせていただきます!」
このマイカもそうだけど、この城の人たちは真面目すぎるのだ。
私のためを思ってなのか、やけに忠誠心が高い。
いや、高すぎるくらい!
「みんな張り切りすぎよね。昨日なんて食事を少し残しただけで、『お口に合わなかったでしょうか?』と、料理長が辞表を持ってやってきたし」
「みな、ルシル様にお仕えできる日を心待ちにしていたので、やる気に満ちておるのですよ」
下働きのために食事を残すのは、貴族のマナー。
そう思っていたのだけど、どうやらこの竜国ではそういった風習はないらしい。
「そもそも、この国には貴族制度そのものがないのには驚いたわね」
「ルシル様は奇妙に思われるかもしれませんが、我がジェネラス竜国にとって、神竜族の方々こそ神に等しいお方なのです。それ以外は平等にそれ以外にまとめられるのも仕方ありません」
──神竜族。
さきほどから握っているマイカの手へと、視線を移します。
彼女の手の甲には、硬い鱗が生えていました。
「ねえ、マイカ。気になっていたのだけど、その鱗って感覚はあるの?」
「ルシル様は面白いことを尋ねられるのですね。もちろん感覚はあります。鱗は体の一部ですから」
この国には、主に三つの種族が存在している。
そのうち最も人口が多く、ジェネラス竜国において人口の9割を超しているのが、竜人族だ。
見た目は人族とあまり変わらないけど、体の一部に鱗が生えているのが特徴の種族のようです。
「マイカは竜人族なのよね? 私、初めて会ったから、まだ慣れなくて……」
「他の大陸には、竜人族はいないですからね。でもこのジェネラス竜国では人族のほうが珍しいので、あたしとしてはルシル様が物珍しく見えてしまいます」
人族は、ジェネラス竜国ではマイナーな人種らしい。
ドラッヘ商会の商会長であるブラッドは人族らしいけど、この城にいる他の従者は全員が竜人族だ。
そういう意味でもこの城では、私は肩身が狭い。
そして三つ目の種族が、神竜族。
それは王族のことであり、つまりアイザックのことでもある。
神竜族は竜と人の姿、両方を持つ存在で、他の種族を超越した生物なのだとか。
竜人族からは、神のように扱われているそうです。
「神竜族に嫁入りできるなんて、全竜人族の女性の憧れですよ! ルシル様は鱗がない人族なのに、運が良いですね!」
「そう、ね……」
私の頭を悩ませる、直近の問題。
それがこの、竜人族と人族の、種族による意識の違いです。
「ルシル様、会場の準備が整ったようです」
「ええ、わかったわ」
細かいことは、いまは忘れましょう。
まずは、この婚約式を成功させないとね。
「では、行きましょうか」
私の婚約者──アイザックのもとに!
寝室で目覚めた私は、婚約式への身支度を整えています。
「アイザックはあの後、出かけたまま寝室には戻って来なかったわね……」
アイザックは昨夜、「婚約式の準備をしてくる」と言って、寝室には戻ってこなかった。
なので結局、ひとりで寝るはめになったのだ。
国に帰ったばかりで、いまのアイザックは忙しい。
それなのに昨日は私のわがままで黒竜様になってもらって、いろいろと観察させてもらった。
そのせいで、仕事が溜まっていたのでしょう。
私のために寝ずに仕事をさせてしまったと思うと、少し心苦しくなる。
だけど、後悔はない。
「アイザックの竜の姿……また触りたいなあ」
夢のような時間を過ごした。
本物の竜を間近で見られただけでも、もう死んでも良いくらい悔いはない。
「でも今日、私はアイザックと婚約するのね」
まだ実感がないわね。
研究者と助手。
恋人。
そして昨日は、研究者と研究対象にもなった。
変化した関係はさらに進み、夫婦になることを誓い合った仲となる。
そして、それを喜んでいる自分がいます。
もしもいま死んでしまったら、アイザックと一緒になれないことが悔いに残ることでしょう。
「婚約なんて飛ばして、もう結婚してしまってもいいのに」
自分が誰かの妻になるのは、いまでも想像できない。
元婚約者のクラウス王太子と婚約したときだって、実感はなかった。
だけど、前にクラウス王太子と婚約した時と違って、アイザックとの婚約という言葉には、妙に胸にくるものがある。
「それにしても、アイザックにこんなにも強情なところがあるなんて、知らなかったわ」
元々、今日はアイザックが守護竜としての責務を全うしたことに伴う凱旋式が行われる予定でした。
それに急遽、私との婚約式を混ぜ込んだらしい。
『一刻も早く、ルシルと婚約したかったから』
そうアイザックは言っていたけど、それは私にしても願ったりかなったりだった。
なにせアイザックの恋人という立場だけでこの城にいるのは、あまりにも肩身が狭すぎるから……!
「それくらいここって広くて、豪華なのよね。私には不釣り合いなくらい」
私がため息をつくと、横に控えていた側仕えの侍女が「ルシル様」と声をかけてきます。
「こちらの宮殿は、アイザック殿下の命により、我々ルシル様の側仕え一同が身命を賭して準備いたしました」
畏まったふうに膝をついたのは、この度、私の侍女となったばかりのマイカです。
メイド服姿のマイカは、果物ナイフを自分の首に当てて決死の表情をしました。
「もしもルシル様になにかご不満があるようでしたら、このマイカは、この場でルシル様に命を捧げる所存です」
「そんなに重く考えないでいいから!」
マイカから果物ナイフを取り上げ、彼女の両手を握ります。
「不釣り合いだと思ったのは、私に対して。こんなに立派なお部屋を整えてもらって、嬉しくなってそう言ってしまったの」
「ほ、本当でございましょうか?」
「本当よ。マイカみたいなしっかり者が私の侍女になってくれて、嬉しいわ」
涙目になっているマイカが、花を咲かせるように笑顔になりました。
「まさか王太子妃になるお方が、こんなにも優しいなんて思ってもいませんでした。このマイカ、身命を賭してルシル様にお仕えさせていただきます!」
このマイカもそうだけど、この城の人たちは真面目すぎるのだ。
私のためを思ってなのか、やけに忠誠心が高い。
いや、高すぎるくらい!
「みんな張り切りすぎよね。昨日なんて食事を少し残しただけで、『お口に合わなかったでしょうか?』と、料理長が辞表を持ってやってきたし」
「みな、ルシル様にお仕えできる日を心待ちにしていたので、やる気に満ちておるのですよ」
下働きのために食事を残すのは、貴族のマナー。
そう思っていたのだけど、どうやらこの竜国ではそういった風習はないらしい。
「そもそも、この国には貴族制度そのものがないのには驚いたわね」
「ルシル様は奇妙に思われるかもしれませんが、我がジェネラス竜国にとって、神竜族の方々こそ神に等しいお方なのです。それ以外は平等にそれ以外にまとめられるのも仕方ありません」
──神竜族。
さきほどから握っているマイカの手へと、視線を移します。
彼女の手の甲には、硬い鱗が生えていました。
「ねえ、マイカ。気になっていたのだけど、その鱗って感覚はあるの?」
「ルシル様は面白いことを尋ねられるのですね。もちろん感覚はあります。鱗は体の一部ですから」
この国には、主に三つの種族が存在している。
そのうち最も人口が多く、ジェネラス竜国において人口の9割を超しているのが、竜人族だ。
見た目は人族とあまり変わらないけど、体の一部に鱗が生えているのが特徴の種族のようです。
「マイカは竜人族なのよね? 私、初めて会ったから、まだ慣れなくて……」
「他の大陸には、竜人族はいないですからね。でもこのジェネラス竜国では人族のほうが珍しいので、あたしとしてはルシル様が物珍しく見えてしまいます」
人族は、ジェネラス竜国ではマイナーな人種らしい。
ドラッヘ商会の商会長であるブラッドは人族らしいけど、この城にいる他の従者は全員が竜人族だ。
そういう意味でもこの城では、私は肩身が狭い。
そして三つ目の種族が、神竜族。
それは王族のことであり、つまりアイザックのことでもある。
神竜族は竜と人の姿、両方を持つ存在で、他の種族を超越した生物なのだとか。
竜人族からは、神のように扱われているそうです。
「神竜族に嫁入りできるなんて、全竜人族の女性の憧れですよ! ルシル様は鱗がない人族なのに、運が良いですね!」
「そう、ね……」
私の頭を悩ませる、直近の問題。
それがこの、竜人族と人族の、種族による意識の違いです。
「ルシル様、会場の準備が整ったようです」
「ええ、わかったわ」
細かいことは、いまは忘れましょう。
まずは、この婚約式を成功させないとね。
「では、行きましょうか」
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