婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

文字の大きさ
44 / 54

第44話 守護竜の真実

しおりを挟む
 竜山の遺跡での騒動を終えた私は、竜の姿になったアイザックに乗って空を飛んでいます。
 とある人物に、会いに行くためです。

 
 私は、アイザックにこうお願いをしてしまった。

 元侍女であるセシリアたちだけでなく、この国の民を災害から救いたい。
 それが国で唯一竜研究をしていた私の矜持きょうじであり、カレジ王国の公爵家に連なる者の責務からだ。

 アイザックは、私の望みを叶えると言ってくれました。
 本当にそれができるかはわからないけど、いまはその言葉だけで十分。


「それにしても、アイザックがイライアスを許すとは意外だったわ」

「……弟がしたことは許せることではない。だがルシルの望みを叶えるためには、まだあいつは利用価値がある」

 反逆はんぎゃくくわだてた第二王子イライアスを、アイザックは殺さなかった。
 それどころか、気絶していたイライアスを叩き起こして、とある任務を与えたのです。

「でも、イライアスは大丈夫かしら?」

「俺と比べれば貧弱だが、あれでも竜だ。平気だろう」


 イライアスの行動次第で、これからの未来が変わるかもしれない。

 それに嫌そうにはしていたけど、私の望みのためだって知ると、目の色が変わったように真剣な瞳になっていた。
 やる気はあるみたいだったから、きっと大丈夫でしょう。



 それから、しばしの沈黙が私とアイザックの間に流れました。
 騙されていたとはいえ、イライアスに付いてきてしまったわけだから、アイザックにちょっと申し訳ないわね。


 そんな私の心情を察知したのか、アイザックが興味深いことを話題にあげてくれます。


「あの竜山の遺跡について、ルシルは知りたくはないか?」

「……知りたい! あの遺跡は初代国王と竜天女が暮らしていたって聞いたけど、どういうことなの?」

「あの遺跡はジェネラス竜国の初代国王と竜天女が遺したものなんだ」


 ジェネラス竜国の王族しか知らない伝承を、アイザックは教えてくれます。


「初代国王と竜天女には、子どもが二人いた。長男は父親の才能を多く受け継ぐ立派な竜であったが、次男は竜の血をほとんど受け継いではいなかった。次男は鱗もなく、ほとんど人だった。そんな次男はジェネラス竜国を出て、この地で国をおこし、王となった」

「ということは、カレジ王国の王族は、ジェネラス竜国の王族と同じ血筋だったってこと?」

「そういうことになる。ジェネラス竜国の助けもあったおかげで、次男の父である初代国王と母である竜天女がこの竜山に来たことが遺跡には記されている」

 そんな記述があの遺跡には残されていたのね。
 時間があれば、あの場所でもっと研究していたかったわ。


「このカレジ王国がある場所は、古くから大陸のへそと云われており、災害が多くて人が住める場所ではなかった。
 だが竜の力で、それらを治めることに成功した」

「そうしてカレジ王国の民は、平和に暮らすことができていたのね」


 すべては、ジェネラス竜国の初代国王と竜天女のおかげだった。
 そんな大恩人である彼らのことを、カレジ王国の民は誰一人として知らない。


「その後、次男を哀れと思った初代国王と竜天女は、次男のために竜を送ってカレジ王国の守護竜にするという盟約を結んだ」

「その守護竜のおかげで、カレジ王国は数百年の繁栄を約束されたのね」


 守護竜信仰が誕生した理由を知って、胸の中にぽっかり穴が開いた気分になります。
 この10年、ずっと研究していた守護竜の謎が、すべて明らかになったからでした。

「それにしても、カレジ王国を創った初代国王が、ジェネラス竜国の初代国王と竜天女の息子だったなんて……」

 私はカレジ王国の王族に連なる公爵家です。
 この血には、カレジ王国の王族の血も流れている。

 つまり、私にもジェネラス竜国の初代国王と竜天女の血が流れているということだ。


「私、竜天女様の子孫だったんだ」

「黙っていてすまなかった。ルシルが正式にジェネラス竜国の王族になったら話そうと思っていたんだが……」

「隠していたのはちょっと頭にくるけど、そういう理由なら仕方ないわ。話してくれてありがとう」

 私の肌には、竜人族のような鱗は一切ない。
 それでも遠い祖先には、たしかに竜が存在するのだ。

 竜茶を飲んだ私が竜毒で即死しなかったのも、もしかしたら遠い祖先である竜の血が守ってくれたのかもしれない。


「ずっと竜研究をしていたけど、大事なものは身近なところにあったのね」

 竜を研究するために、自分の血を調べるという選択肢はなかった。
 城に帰ったら、調べることが増えたわね。


 ──身近な存在というと、助手のアイザックの正体が守護竜だったのよね。


 もう一か月以上は前の話だというのに、いろいろありすぎて遠い昔のように感じる。

 思えば、アイザックと出会ったことがすべての始まりだった。
 私の竜研究は、アイザックとともに進んできたんだ。


「そろそろセシリアのいるサンセット子爵領に着くぞ」

「あの館がそうね……でも、待って。館の上に、何かたくさん飛んでいるわ?」


 サンセット子爵邸には、セシリアの結婚式で訪れたことがある。
 だけどあんな変な鳥のようなものがたくさん飛んでいるのは、一度も見たことがなかった。


「あれは鳥じゃない。飛竜だ」

「飛竜……あれが、空飛ぶ亜竜種の竜なのね!」


 飛竜──それは大陸ではワイバーンとも呼ばれる、地竜の仲間の竜です。
 大きめの牛くらいのサイズがある飛竜の上には、人が乗っています。

 あれが噂に聞く、王直属の飛竜兵。
 しかも、百以上はいるわよ!


「あの飛竜兵は、俺と一緒にカレジ王国に入った。彼らがいれば、カレジ王国から民を安全かつ迅速に脱出させることができるだろう」

「王直属の飛竜兵が竜都にいなかったのは、カレジ王国にいたからなのね。でも、どうして?」

「カレジ王国の現状を報告させるためだ。ここはルシルにとっての故郷、きっとルシルは祖国が滅びるのを黙って見ていることはできないと思ったから」

「さすがは私の助手。なんでもお見通しなんだから」


 私が何も言わなくとも、アイザックには私の願いは伝わっていた。


 二人の心が繋がっている感じがして、私の胸の奥は喜びに満たされるのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...