婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

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第48話 逃げる王太子

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 私を処刑しようとした元婚約者──クラウス王太子に対して、優雅ゆうがにカーテシーをします。

「こんなところでクラウス王太子殿下にお目にかかれるとは、思ってもいませんでした」

「……お、お前、まさかルシルか? ドラゴンにわれたお前が、なんで生きている!」


 どうやらクラウス王太子は、処刑場に現れたドラゴンに私が食べられたと思っていたみたいね。
 あのドラゴンこそが守護竜であり、私を助けに来たとは想像もしていないのでしょう。


「なにを勘違いしているのか知りませんが、私は生きています。それにこのドラゴンはただのドラゴンではなく、この国の元守護竜である黒竜様です」


 その正体は、アイザックなんだけどね。

 クラウス王太子はきっと私の助手であったアイザックのことを、覚えてもいないはず。
 私の元婚約者であったにもかかわらずだ。


「そ、そのドラゴンが、守護竜!? う、嘘だ! どうせ野生のドラゴンかなんかだろう、オレは騙されないぞ!」
 
「なら、こうすれば信じてくれますか?」


 私が黒竜様となっているアイザックの顔を、手で優しくでます。
 獰猛どうもうそうに見える巨大なドラゴンが、私の手を受け入れて気持ち良さそうに目を閉じました。

 それだけで、私と黒竜様の関係がよく理解できたはず。


「ルシルは本当に、そのドラゴンを操っているのか……?」

「操っているんじゃなくて、お願いを聞いてもらっているだけよ」

「ならそこのドラゴン命じる! オレを助けろ! オレはこのカレジ王国の王太子だ!」


 黒竜様はクラウス王太子に対して、フンといったようにそっぽを向きます。
 そして嫌そうな顔をしながら、その大きな口を開きました。


「なぜ俺がお前の言うことを聞かねばならない? 俺はルシルにしか従わない」


 黒竜様が喋ったことで、クラウス王太子が口を開けたまま驚愕の表情をしています。
 まさかドラゴンに知性があるとは思ってもいなかったのでしょう。


「これでわかりましたか? 守護竜である黒竜様は、私と共にあるのよ」


 私は黒竜様の頬に、軽くキスをします。

 ドラゴンの姿のアイザックに口付けをしたのは、これが初めて。
 固くて冷たくて、そしてザラザラしていて、とてもいとおしい。


「ルシル、正気か? ドラゴンに何をしている!」

「なにって、愛情表現?」

「愛情表現だと!? まるでそのドラゴンを愛しているような言い方だな」

「もちろん愛しているわよ。私の元婚約者なら、よく知っているでしょう?」


 私はドラゴンの姿のアイザックに、再び口付けをします。
 今度は頬ではなく、口の部分に。


「私はこの守護竜を──アイザックを、愛しているんだから」


 恋人とのキスを、元婚約者に見られるっていうのは、なんだか変な感じね。
 まあクラウス王太子とは形だけの許婚だったから、特別な感情は一切ないけど。


「それよりも、クラウス王太子殿下はこんなところで何をなさっているんですか? まさか民を捨てて、自分たちだけで逃げようとしているわけではないですよね?」

「あいつらはいて捨てるほどいるんだから、置き去りにしても問題ない。それよりも大切なのは、高貴な血を受け継ぐ王族を血脈を残すことだ!」

「…………だからといって、民をおとりにして、魔物の群れに投げ捨てても良いと思っているのですか?」

「それのなにがいけない? オレは王太子で、あの時に捨てたのは平民だ。王族のために命を捧げることができて、あの世であの者たちも喜んでいることだろう」


 そんなクラウス王太子の言葉に対し、それまで黙っていたデイセンたちが反発します。


「ワシらはクラウス王太子に無理やり拘束されたのじゃ! 王都について、殿下に相談しようとしただけなのに」

「お前たち……なぜ生きている!?」

「ルシル様とこの守護竜様が助けてくださったのじゃ。ルシル様たちはワシらの命の恩人じゃ」


 デイセンたちがクラウス王太子によって馬車から落とされたのを、私たちは目撃している。
 ダメな王太子だとは思っていたけど、まさかここまでとはね。


「うるさい! オレはこの国の王太子なんだぞ、なにをしようと勝手だろう!」

「王太子だからこそ、民を助けないでどうするの! ジェネラス竜国の王なんてわざわざ他国の民を救いに、はるばるカレジ王国までやってきてくれているのに」

「ジェネラス竜国の王だと? そんなの、どこにいる!」

「ここにいるわよ……ねえ、アイザック」

「まさか……そのドラゴンが王なのか?」


 黒竜様になっているアイザックが、はっきりと宣言します。


「俺はジェネラス竜国の王だ。それよりも、さきほどからお前の無礼には頭にきている」

「ぶ、無礼? 王族であるオレが、無礼だって?」

「我がジェネラス竜国の次期王妃に対してお前がしている無礼、謝罪してもらろうか」

「ジェネラス竜国の次期王妃? そんなの、どこにいるんだ?」

「いるだろう、お前の目の前に」


 クラウス王太子の視線が、私に注がれます。
 鈍い男でも、さすがにわかったのでしょう。


「ルシルがジェネラス竜国の次期王妃だって? あのルシルが!?」


 私が他国の王族になることが信じられないのでしょう。
 クラウス王太子は、「嘘だ嘘だ」と頭を抱えています。


「クラウス王太子、改めてご挨拶いたしましょう。私はルシル・ウラヌス、こちらにおられるジェネラス竜国の王の妻──王妃になる予定です」


 わなわなと震えるクラウス王太子に、見せつけるようにアイザックへ口付けをします。

 私を捨てた男は、そんな私たちを唖然あぜんと見つめています。
 クラウス王太子の情けない光景を目にして、心のっかかりがはがれていきました。

 なんだかスッキリしちゃった。

 こういうのも、たまには悪くないかも。
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