生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里

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第三章 不穏な侍女生活

変わってしまったもの(2)

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「イザベル・ランドールという人物に個人的興味がありまして、ユリウス陛下が彼女は世間で呼ばれているような悪女ではなかったと。そしてイザベル様はよく神殿に通われていたようで、もしかしたら聖女様とも交流があったのかと愚考しまして」
「なるほど。久しぶりに私以外の人間から彼女の名前が出てきたので驚いてしまいました」

 口元を押さえて微笑むフローラだが、目は全く笑っていない。彼女はこのような表情もできたのかと動揺する。

 彼女は少し離れた場所で控える騎士を呼び寄せ、告げた。

「貴方、先にお戻りなさい」
「それはできかねます。私の第一の命は聖女様をお守りすることです。そばを離れることはできません」

 食い下がる騎士をフローラは冷たく手で追い払う。

「命令よ、お下がりなさい。街中ならまだしも、ここは神殿の敷地内。女神の加護がより一層注がれている場所で私を害せる者など存在しない」
「ですがっ」
「これ以上聞き分けが悪いならば護衛の任を解くわよ」
「…………かしこまりました。神殿で待機しておりますので早めのお戻りをお願い致します」

 渋々護衛騎士は引き下がった。
 二人きりになったところでフローラはぽつりと話し始める。

「お話を中断してごめんなさいね。テレーゼさんが聞きたそうな内容は、他の者に聞かれると私も貴女にも後々不都合になりかねないので」

 困ったように眉を下げる。

「テレーゼさん、私がその件についてお答えできるものは少ないです」

 フローラは瞳を伏せ思案する。

「まずイザベル様についてお答え致しますと……交流はありましたし仲は良かったのかもしれません。彼女は私のことを友人とよく言って下さり、色々な面でお世話になりました」

 けれど彼女はふっと形の良い唇を歪めた。

「ただ、たとえ彼女が私を友人と言っても、私がその地位につくのは烏滸がましいです。許されることではない」

 その寂しそうな横顔と強めの断言に、イザベルとしてそんなことはありえないと否定したくなるのをぐっと堪える。

「テレーゼさんにご忠告です。陛下から聞いたと仰いましたが、ユリウス陛下と日常的に顔を合わせられる立場に居られるのでしたら、私に接触しないのが身のためかと」
「…………理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「簡単なことです。私は陛下に心底憎まれています」

 フローラの断言に私は言葉を失う。

(そこまで二人の仲は拗れているの……?)

 相思相愛からどうやったらそこまで関係が冷え込むのだろうか。
 フローラは自身の左胸に手を当てて深く息を吸う。

「この地位に就いていなければ、私は殺されていたでしょう」
「!? で、ですが聖女様は陛下とご婚約関係でいらっしゃったはず。仲睦まじかったとお聞きしていますが」

 するとフローラはいきなりお腹を抱えて笑い出す。

「あはは誰ですか。そのような嘘を吐いた者は。違います、私が一方的に慕っていた。ただそれだけです」

 笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭い、淡々とフローラは私の信じていた物を否定する。

「信じられないと言いたげな表情ですね。私、このような身の上なので世間には疎いのですが、巷では不仲だと噂されてないのでしょうか」
「まったく」
「へぇ話題に挙げて陛下の逆鱗触れるのが怖いのでしょうか。誰も聞いてこないので気にしたことはありませんでしたが、まさか仲睦まじいだなんて! そんな嘘をこの歳で耳にするとは思いませんでした」

 ひとしきり笑ったフローラは真顔に戻る。

「ああもう終わりですね。最後になにか聞いておきたいことはありますか」

 湖の遊歩道が終わり、最初の場所に戻ってきていた。

「では…………憎まれていると考える根拠を教えてくださりますか」

 もう聞くのが怖いけれど、それだけは聞いておかなければならない。

「テレーゼさんは怖いもの知らずですね。……記憶の彼方に葬られ、今更過去を掘り返す者もいないでしょうからお答えします。ただし、知ったからには貴女の心に秘めてくださいね」

 そうしてフローラは突如吹いた風にヴェールを舞上げられながら自嘲気味に口角を上げ、最後の最後で爆弾発言を落としていくのだ。



「──私が陛下の珠玉を殺したも同然だからです」


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