マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo

文字の大きさ
18 / 88
1章. ゆい

machi.17

しおりを挟む
「ゆい、待って!」

非常階段の途中で、悠馬に後ろから腕を掴まれ、強引に向き直される。
反射的に顔を背けると、悠馬が至近距離で覗き込んでくる。

「…見ないで」

「なんで?」

「だって、…」

「なに?」

「め、眼鏡が…」

「眼鏡?」

あっけにとられたように悠馬が立ち尽くしているのが、目の端に映る。
私は度の強い眼鏡をかけている時の自分の顔が嫌いだ。普段はコンタクトレンズだけど、最近眼の調子が悪いし、在庫切れだし、…

だからと言って、なぜ今、悠馬に眼鏡の話なんか。

「…ゆい?」

悠馬がさらに近づく。
だから、見ないでって!

ぎりぎりまで顔を背けている私の視界の角で、悠馬が意地悪な笑みを浮かべた気がする。

「じゃ、取ろうか?」

言うなり悠馬は私の眼鏡を取り上げる。

「や、…っ!」

取られた方を見たら、ばっちり悠馬と目が合った。

「ゆい…」

悠馬の瞳に囚われる。
見たら、ダメ。
見たら…、動けないよ。

悠馬が、切なそうな顔をして、そっと手を伸ばしたかと思うと、
指先が頬に触れて、少し屈んだ悠馬の唇が、唇に触れた。

「ゆ…、ま…」

動けない。

悠馬の唇を感じる。手が頬をなでる。
背中に回された腕で、引き寄せられる。

悠馬の腕に包まれる。悠馬の吐息を感じる。
悠馬の胸に押し付けられる。
服越しに、悠馬の体温を感じる。

信じられない。
悠馬が私を、抱きしめて―――…

ぼすんという鈍い音に我に返ると、震える女の人の声がした。

「…ゆう、ま…」

悠馬は優しく触れていた唇を離すと、至近距離のまま、
私の目をまっすぐに見つめて言った。

「ゆい」

悠馬の目を見つめ返す。きれいな目。濃いブラウンの澄んだ瞳。

「…ここにいて」

悠馬は私の手を取ると、隠すように私の前に立ち、女の人に向き直った。

「先に三澤さんの病室、行ってて」

悠馬と対峙する女の人は動かず、

「…悠馬?…嫌。あたし、やだよ?」

涙声が聞こえた。

「リナ。ちゃんと話す。あとから行くから。な?」

「…嫌、…嫌!…絶対、嫌っ!」

宥めるように悠馬が話しても、納得できないとばかりに激しく泣き叫ぶ声が聞こえ、

「あたし、絶対悠馬から離れないから!!」

悠馬の背に阻まれてはっきりと姿を見れなかった女の人が、駆け寄って悠馬にしがみついたのがわかった。

「リナ。…少しだけ、時間くれないか。頼む。どうしても、…」

片手で私の手をつかんだまま、片手をリナさんの背に添える。

…バケツと雑巾を置いてきてしまった。
勤務中に、何してるんだろう。早く戻って、作業を続けなくちゃ。

頭の中で冷静な自分が至極当然のことを囁く。

だけど、つながれた悠馬の手が大きくて温かくて力強くて、

…振りほどくことができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣
恋愛
24歳のOL・栗山莉恵は、恋人に騙され、心も人生もどん底に突き落とされていた。 すべてを終わらせようとした夜、高層ビルの屋上で出会ったのは、不思議な青年・結城大虎。 「死んだら後悔する」 そう言って彼は、莉恵の手を強く掴んだ。 それが、止まっていた彼女の人生が再び動き出すきっかけだった。 年下の彼との出会いが、傷ついた心を少しずつ癒していく―― 絶望の先で“生きる選択”と“恋”を見つける、大人の再生ラブストーリー。 ※完結しました※ ここまで読んでくださり、 本当にありがとうございました。 少しでも誰かの心に残っていたら嬉しいです。 このあと番外編も公開予定ですので、 よろしければ引き続きお付き合いください。

Short stories

美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……? 切なくて、泣ける短編です。

処理中です...