マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo

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番外編. 稜

11.

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悠馬の腕に抱かれたゆいは、
あるべきところに戻ってきた迷子の欠片のようだった。

互いにたった一つの存在を探し当てた欠片が
自然にすんなりと当てはまって、
他の何かが入る余地はどこにもなかった。

ゆいが心から満ち足りているのがわかった。
悠馬に触れて身体中潤って艶やかで、
怖いくらい綺麗だった。

胸の痛みには、気づかないふりをした。

ゆいの帰る場所はあそこだ。
あいつの腕の中。

願い事なんてしたことはなかったが、
悠馬の腕があればいいのにと思った。

泣いているゆいを慰めてやれる
たった一つだけの腕が。

どんな時でもそばにいて
抱きしめてやれる腕が。

妻帯者である悠馬には、けじめをつける約束をさせた。
このままゆいを連れて逃げても、ゆいには辛いだろう。

でも。

『…好き』

逃がしてやればよかったな。

ゆいと悠馬を引き離したかったわけじゃない。
こんな風にゆいを傷つけたかったわけじゃない。



悠馬の妻が自殺を図って、悠馬は身動きできなくなった。
ゆいはバッシングの対象になって身体的にも攻撃にさらされた。
翔がまったく口を利かなくなった。

ゆいをマンションに閉じ込める以外に、何もできなかった。
あの日、悠馬にゆいを渡さなかったことを心底悔やんだ。

ゆいが泣いている。
悠馬を待って泣いている。

ゆいの涙を止められるのは、世界中でただ一人。

電話くらいしてやれよ。

この状況で悠馬がゆいに連絡をとったら、
状況が悪化することは火を見るよりも明らかだけど。

それでも。

あの日、悠馬が残した頼りない面影にすがって泣いているゆいを
どう守ってやればいいかわからない。
どう慰めてやればいいかわからない。

自分が無力過ぎて滑稽で情けなかった。

俺は好きな女一人、守ることができない。

「先生、お願いします。助けて下さい」

外科手術でメスを操る俺の腕は、ゆいを救えない。

「先生のおかげで歩けるようになったよ」

無邪気な子どもを撫でる俺の手は、ゆいに届かない。



…無力だな。

病院の屋上から暮れかけた空を見上げた。

もしも。
このまま悠馬が迎えに来なければ。

凍てついた冬の寒さがわずかに緩み、
頰を通り過ぎる風がかすかに春の匂いをはらむ。

そばにいてもいいかな。

無力だけどそれでも。
そばにいさせてくれないか。

空に掲げた自分の手を見上げる。
指の間から沈みゆく陽光がこぼれ落ちる。

どんなに手を伸ばしてもつかめない。
どんなに思いを叫んでも届かない。

それでも。

そばにいさせてほしい。
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