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1 五十嵐 唯利
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僕には両親が四人いる。
まぁ、世の中には産みの親と育ての親が違うなんて人はたくさんいるだろうけれど。
僕が育ての親である 五十嵐 巧・まりあ夫妻に出会ったのは今から十二年前、四歳の誕生日のことだった。
二人は高校の同級生で、十六歳の時に出会い、その後恋人となり、卒業後父は大学へ進学。母は得意な絵を生かしイラストレーターとして生計を立てていて、母の二十歳の誕生日に入籍したらしい。
生まれて直ぐに乳児院に置き去りにされた母は、大きな会社の跡取りである父との結婚を頑なに拒んでいたらしいけれど、母を溺愛している父が母を手放す理由はなく、それならばと元々お金と権力にしか興味を持たず、父のことも道具としか思わないような親とは縁を切ってしまったそうだ。
父に家族を無くさせてまで結婚する気のなかった母は酷く狼狽えたが色々と乗り越えての入籍となったのだった。
そんな夫婦の元へ僕が現れたのは、二人が夫婦になってから八年が経った春。
その日はとても暖かくて、誰もいない小さな公園には柔らかく優しい風が吹いていて、桜の花びらがひらひらと踊る様に落ちて、淡いピンクの絨毯を作っていたんだって。
三回目の結婚記念日を機に始めた不妊治療の帰り道で、母は父に抱き締められて静かに涙を流していた。治療を始めて5年目にして母は初めて泣いた。
声を荒げることなく、静かに舞う桜を見ながら。
父は愛する母がいればそれだけでいいと思っていた。
それと同時に愛する母との子供が欲しいとも思っていたし、何よりも幼い頃から家族というものに強い憧れを抱いていた母に家族を作ってやりたかった。
夫婦から家族になりたかった。
母が落ち着いて父と母は手を繋いで公園内にひとつだけあるベンチに座り、綺麗な桜をみながらたくさんの話をした。
出逢ったときの話、恋人になったときの話、夫婦になったときの話、
そしてこの先ずっと二人だったとしても心から愛する人と一緒に生きていくという事は何よりも幸せだという話。
暫くして母の顔にいつもの優しい笑顔が戻ってきて微笑み合うと、桜の木の下に何かがキラキラと光っているのに気がついた。
じっと見ていると輝きの中に小さな子供が浮かび上がってきた。うん、それが僕。
光で型どられたシルエットが子供の形になり、地上から50㎝ほどのところで浮いていた僕はきょとんとした顔で。母と視線が交わった瞬間、地面に落下。そしてぎゃん泣き。
慌てて駆け寄るも泣き止まず言葉も聞いたことのない言語を話しており、二人は途方に暮れてしまった。
それでもこの不可思議な出来事を受け入れ、急に現れた僕を連れていってくれた。
そこからの行動は速かった。母の育てられた乳児院へ連れていきそのまま引き取りたいという趣旨を伝えた。
手続きが終わり、引き取られたのはそれから3ヶ月ほど経った頃だった。
乳児院の人たちはみんな優しかったし笑顔で接してくれた。でも子供特有の遠慮の無さや好奇心、言葉はわからないのに良く言われる ガイジン ガイコクジン という単語がなぜか怖かった。
僕がその三ヶ月で話せたのは自分の愛称の「ユイリ」だけでそれ以外は話せず下を向いていた。
だから毎日会いにきてくれる二人がその日はとても笑顔で、幸せそうで。僕を抱き上げたまま乳児院を出たときは不安に思うこともあったけどなぜだかほっとしたのだ。
その日、僕は五十嵐 唯利になった。
それからの僕はどんどん言葉を覚え、4歳にしてはたどたどしい話し方ではあったが体が小さく3歳未満にしか見えなかったのもあり、あまり問題にはならなかった。
髪はもともと黒く、目は明るいエメラルドグリーンだったが母の両親は不明ではあるが、異国の血が混ざっているらしく髪も目も日本人とは違うもので一緒にいてもそれほど違和感はなかったのだ。
父も母もとても暖かかった。僕の事を毎日抱き締めて慈愛のこもった瞳で見つめてくれた。
それでも僕は元の世界の事を思い出しては泣き、泣くことが優しい両親に後ろめたく感じてまた泣いた。
8歳になった頃には平均より小さいながらも成長し違和感なく話せるようになった。
友達はあまりできなかったけど学校での勉強には付いていけた。
そしてその頃には泣くことはなくなった。
元の世界の事を思い出す事をしなくなった。父と母の悲しそうな顔を見て見ぬ振りをした。
10歳の誕生日に2人から手書きの絵本を貰った。ユイ君という子供が知らない世界へ迷い込んでしまい、沢山の人たちに出逢い、助けられ、最後には元の世界へ帰って幸せに暮らしたという話。
2人は忘れなくても良いと言った。思い出してたくさん泣いて帰りたいと思えと。それが普通であり愛しい我が子のことはなんでも受け止められる。両親が4人もいる唯利は幸福者だと言われた。
自分は不幸だと思っていた。
もっと小さくて元の世界の事をすぐに忘れられていたらどんなに楽だっただろうと思っていた自分が恥ずかしくなった。
抱き締められて久しぶりに声に出して泣いた。
泣き疲れて眠り、起きてから初めて2人の事を「お父さん、お母さん」と呼んだ。
また3人で泣く事になったが今度は笑いながら。初めての心からの笑顔で。
父に、絵本はもっと早くあげたかったのだがどうしても最後のユイ君が帰るシーンの絵を母が描こうとすると涙がとまらなくてぐちゃぐちゃになってしまい何回も何回も書き直しになり渡せなかったと聞き、とても幸せな気持ちになった。
悲観的になるのを辞めただけで前向きになれた。相変わらず学校では仲の良い友達はできなかったけど、それなりに上手く付き合うことも出来るようになっていった。
絵本は僕の宝物になった。
両親しか僕の秘密を知らないから両親にしか話せなかったけど忘れないようにたくさんの話をした。
母は元の世界の僕の家族の特徴を上手く聞き出しながら似顔絵を書いてくれた。
家族構成には驚いていたけれど。
父上、お父様、兄様、兄様の婚約者で僕の幼なじみ、幼なじみの兄で兄様の親友。
びっくりするくらいそっくりで、その絵も僕の宝物になり絵本に挟んで大事にしまっていた。
こちらで引き取られてから毎年撮っている父と母と3人での写真も宝物になった。
9歳まではぎこちない笑顔や下を向いてたりするけれど10歳からの僕はいつでも満面の笑みで写っていた。
まぁ、世の中には産みの親と育ての親が違うなんて人はたくさんいるだろうけれど。
僕が育ての親である 五十嵐 巧・まりあ夫妻に出会ったのは今から十二年前、四歳の誕生日のことだった。
二人は高校の同級生で、十六歳の時に出会い、その後恋人となり、卒業後父は大学へ進学。母は得意な絵を生かしイラストレーターとして生計を立てていて、母の二十歳の誕生日に入籍したらしい。
生まれて直ぐに乳児院に置き去りにされた母は、大きな会社の跡取りである父との結婚を頑なに拒んでいたらしいけれど、母を溺愛している父が母を手放す理由はなく、それならばと元々お金と権力にしか興味を持たず、父のことも道具としか思わないような親とは縁を切ってしまったそうだ。
父に家族を無くさせてまで結婚する気のなかった母は酷く狼狽えたが色々と乗り越えての入籍となったのだった。
そんな夫婦の元へ僕が現れたのは、二人が夫婦になってから八年が経った春。
その日はとても暖かくて、誰もいない小さな公園には柔らかく優しい風が吹いていて、桜の花びらがひらひらと踊る様に落ちて、淡いピンクの絨毯を作っていたんだって。
三回目の結婚記念日を機に始めた不妊治療の帰り道で、母は父に抱き締められて静かに涙を流していた。治療を始めて5年目にして母は初めて泣いた。
声を荒げることなく、静かに舞う桜を見ながら。
父は愛する母がいればそれだけでいいと思っていた。
それと同時に愛する母との子供が欲しいとも思っていたし、何よりも幼い頃から家族というものに強い憧れを抱いていた母に家族を作ってやりたかった。
夫婦から家族になりたかった。
母が落ち着いて父と母は手を繋いで公園内にひとつだけあるベンチに座り、綺麗な桜をみながらたくさんの話をした。
出逢ったときの話、恋人になったときの話、夫婦になったときの話、
そしてこの先ずっと二人だったとしても心から愛する人と一緒に生きていくという事は何よりも幸せだという話。
暫くして母の顔にいつもの優しい笑顔が戻ってきて微笑み合うと、桜の木の下に何かがキラキラと光っているのに気がついた。
じっと見ていると輝きの中に小さな子供が浮かび上がってきた。うん、それが僕。
光で型どられたシルエットが子供の形になり、地上から50㎝ほどのところで浮いていた僕はきょとんとした顔で。母と視線が交わった瞬間、地面に落下。そしてぎゃん泣き。
慌てて駆け寄るも泣き止まず言葉も聞いたことのない言語を話しており、二人は途方に暮れてしまった。
それでもこの不可思議な出来事を受け入れ、急に現れた僕を連れていってくれた。
そこからの行動は速かった。母の育てられた乳児院へ連れていきそのまま引き取りたいという趣旨を伝えた。
手続きが終わり、引き取られたのはそれから3ヶ月ほど経った頃だった。
乳児院の人たちはみんな優しかったし笑顔で接してくれた。でも子供特有の遠慮の無さや好奇心、言葉はわからないのに良く言われる ガイジン ガイコクジン という単語がなぜか怖かった。
僕がその三ヶ月で話せたのは自分の愛称の「ユイリ」だけでそれ以外は話せず下を向いていた。
だから毎日会いにきてくれる二人がその日はとても笑顔で、幸せそうで。僕を抱き上げたまま乳児院を出たときは不安に思うこともあったけどなぜだかほっとしたのだ。
その日、僕は五十嵐 唯利になった。
それからの僕はどんどん言葉を覚え、4歳にしてはたどたどしい話し方ではあったが体が小さく3歳未満にしか見えなかったのもあり、あまり問題にはならなかった。
髪はもともと黒く、目は明るいエメラルドグリーンだったが母の両親は不明ではあるが、異国の血が混ざっているらしく髪も目も日本人とは違うもので一緒にいてもそれほど違和感はなかったのだ。
父も母もとても暖かかった。僕の事を毎日抱き締めて慈愛のこもった瞳で見つめてくれた。
それでも僕は元の世界の事を思い出しては泣き、泣くことが優しい両親に後ろめたく感じてまた泣いた。
8歳になった頃には平均より小さいながらも成長し違和感なく話せるようになった。
友達はあまりできなかったけど学校での勉強には付いていけた。
そしてその頃には泣くことはなくなった。
元の世界の事を思い出す事をしなくなった。父と母の悲しそうな顔を見て見ぬ振りをした。
10歳の誕生日に2人から手書きの絵本を貰った。ユイ君という子供が知らない世界へ迷い込んでしまい、沢山の人たちに出逢い、助けられ、最後には元の世界へ帰って幸せに暮らしたという話。
2人は忘れなくても良いと言った。思い出してたくさん泣いて帰りたいと思えと。それが普通であり愛しい我が子のことはなんでも受け止められる。両親が4人もいる唯利は幸福者だと言われた。
自分は不幸だと思っていた。
もっと小さくて元の世界の事をすぐに忘れられていたらどんなに楽だっただろうと思っていた自分が恥ずかしくなった。
抱き締められて久しぶりに声に出して泣いた。
泣き疲れて眠り、起きてから初めて2人の事を「お父さん、お母さん」と呼んだ。
また3人で泣く事になったが今度は笑いながら。初めての心からの笑顔で。
父に、絵本はもっと早くあげたかったのだがどうしても最後のユイ君が帰るシーンの絵を母が描こうとすると涙がとまらなくてぐちゃぐちゃになってしまい何回も何回も書き直しになり渡せなかったと聞き、とても幸せな気持ちになった。
悲観的になるのを辞めただけで前向きになれた。相変わらず学校では仲の良い友達はできなかったけど、それなりに上手く付き合うことも出来るようになっていった。
絵本は僕の宝物になった。
両親しか僕の秘密を知らないから両親にしか話せなかったけど忘れないようにたくさんの話をした。
母は元の世界の僕の家族の特徴を上手く聞き出しながら似顔絵を書いてくれた。
家族構成には驚いていたけれど。
父上、お父様、兄様、兄様の婚約者で僕の幼なじみ、幼なじみの兄で兄様の親友。
びっくりするくらいそっくりで、その絵も僕の宝物になり絵本に挟んで大事にしまっていた。
こちらで引き取られてから毎年撮っている父と母と3人での写真も宝物になった。
9歳まではぎこちない笑顔や下を向いてたりするけれど10歳からの僕はいつでも満面の笑みで写っていた。
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