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3 王国アルヴェ
しおりを挟む王族が民に姿を見せるバルコニーを部屋の中から眺めていた。
目を閉じれば十二年前の今日の事を鮮明に思い出せる。
王都は花と人で溢れ、人々は皆笑顔で酒を交わし歌い踊っていた。
私に抱き上げられたあの子が手を降れば歓声で足下が揺れるようだった。
それにまた嬉しそうに満面の笑みで身を乗り出し大きく手を降った。
あの子の笑顔も声も温もりも直ぐに思い出せるのにあの子は四歳の時に何処かへ行ってしまったままだ。
王族の誕生日でも今日の王都はとても静かで、歌声も楽しそうな声も聞こえない。民達は毎年この日に色とりどりの花を一輪ずつ置いていく。その花の多さにどれ程慕われていたかがわかり、また悲しくなった。
あの子、アルヴェの第二王子であるユイリナは良くも悪くも王族らしくない子であった。
予定よりも早く産まれた為に身体が小さかった事もあり、ユイリナは周りから大層可愛がられ愛情をかけられて育った。
ユイリナと七つ違いの第一王子である長男のリオネルへの愛情もユイリナと同じではあるが、幼い頃から活発で剣術、武術を得意としていたリオネルとは違い、小さく華奢な身体は加護欲を掻き立てるものであったし、それらをリオネルのようにこなせるとは思ってはいなかった。
たくさんの愛情をかけられて育ったユイリナはその愛情を履き違える事なく、王族という権力を自分の物のように使うこともなく、与えられた愛情を自分も返せるような優しい子になった。
庭園の花が好きで自ら庭師に会いに行き、育て方を聞き従者の止める中、種を植えて毎日水をやりに行ったり馬が好きで自らの手でブラシをかけ干し草を与えた。
料理長の空いた時間を見計らって訪ね一緒に焼き菓子などを作っては皆に配り、自分で育てた花が咲けば執務室へ飾ってくれた。
天真爛漫でいつも優しい笑顔のユイリナを皆が愛してくれていた。
庭師は自慢の庭園の一角にユイリナ専用の花壇を作ったし厩者は厩舎を常に清潔に安全に改善した。料理長は幼くとも簡単に作れる菓子の作り方を研究し、食の細いあの子の為に試行錯誤してくれていた。
何度目かのため息を吐きユイリナが歪んだ床の中へ落ちて行く時の顔を思い出していた。
ただ吃驚していた顔を。あの大きな綺麗な瞳を見開いて。
「アルベルト?」
物思いに更けているとユイリナと同じ黒髪にエメラルドグリーンの瞳をした愛しい人の声。
返事をすると眉を下げて困ったように笑いながら近づいて来て椅子に座っている私を抱き締めた。
「陛下がそんな顔していたらみんな困ってしまいますよ?今日はユイリナの十六歳の誕生日。あの子の花壇からお祝いの花を摘んで来ませんか?」
気丈に振る舞いながらも震える声と抱き締める腕につられて情けなくも出てきた涙を、細い身体を抱き締め返して隠す。
「アンリナ、あの子はお前に似て美しく育っているのであろうな。」
「もしかしたら帰ってくるときには結婚相手を連れてくるかもしれませんよ。」
「…あの子を嫁には出さぬ。」
笑えぬ冗談にむっとすると顔を覗き込んできたアンリナが微笑みながら両手で頬を包み親指で涙を拭ってくれる。
「ユイリナは優しく強い子です。私とアルの子なんですから大丈夫ですよ。」
その言葉に強く頷くと花壇へ行く為に立ち上がった。
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