両手で抱えきれないほどの愛を君に

まつぼっくり

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4 再会

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 僕は落ちた衝撃と同時に出てきた涙を止められないでいた。

 身体は痛くないけれど我慢していた涙がどんどん溢れてきて、薄く開けた目から見えた景色は大きな岩と木がある少し開けた林のようなところで。誰もいないのを良い事にそこでしばらく宝物を抱き締めたまま声に出して泣いた。

「お父っさんッお母さんっ、うえぇぇぇ」

 悲しくて寂しくて会いたい。でもきっと、事故で即死だったはずなのに僕は最後にまた声を聞く事ができて抱き締めて貰う事ができて幸せなんだよね。

「神様、ありがとうございます。僕もいつか神様や心の綺麗な両親に会えるように素直に真っ直ぐ生きていきます。」

 青い空を見上げてそう呟いた。
 落ちるまでほとんど王宮で過ごした僕はここが何処かはわからないけれど、神様の事だからそんなに遠くない気がする。成長したから僕だって気づいて貰えるかはわからないけれど、とりあえず歩こう。
 そう決めて立ち上がると、ドドッ、ドドッ、っと聞き慣れない重低音。

 音のする方を見ると大きな馬が凄い勢いで走ってくるのが見える。
 …ん?僕に向かって来ている?

 思わず大きな岩の影に隠れて踞る。

 こちらの馬は大きい。お父さん、お母さんと日本の動物園へ行って馬を見たとき、アルヴェの馬は僕が幼かったから大きく見えただけなのかと思っていたけど、それを抜きにしても大きかった。

 しばらくすると音が止み、そっと目を開けると、僕から2メートル程離れたところからこちらを見つめる穏やかな緑の瞳。

「もしかして…リナ…?」

 僕が産まれて少ししてから産まれた黒い毛並みに緑色の瞳をした仔馬。
 僕の色味に似ている仔馬が産まれたと聞いた兄様が僕の名前のユイリナの二文字を取ってリナと名付けた。
 穏やかで甘えん坊のリナ。
 あの頃から大きいと思っていたけど更に大きくなっていてびっくり。

 名前を呼ぶと嬉しそうに近寄ってきてフンフンと鼻を押し付けてくる。その甘えた仕草が懐かしくなり思い切りリナの首に抱きついた。


「ッリナっっ!」

 リナを呼ぶ声に驚いて手を離した。リナは声の主の方へ数歩近づく。岩の影にいたお陰であちらから見えないのを良い事にそっと覗き見て、息が止まった。

「リナ、いきなり走るな。焦るだろうっ…お前まで俺を置いて行くなよ、頼むから。」

 息を切らして咎めるような顔でリナに話し掛ける真紅の髪に真紅の瞳の軽く2メートルはありそうな美丈夫。

 一目で分かった。
 僕がさいしょーさんと呼んでいた父上の親友の息子。
 そして兄様の親友。
 兄様の婚約者であるオルガの兄でもあるカルヴィン。

 たった四歳の僕に会う度に結婚を申し込んできていた彼。その度に僕は父上や兄様の様に大きく、格好良くなってお父様やオルガの様な可愛いお嫁さんと結婚するんだよって答えていた。それを聞いてカルは複雑そうな顔をしていたけど皆は笑っていた。
 僕は大きくも格好良くもなれなかったけどね。

 そんな事を考えていたら出て行くタイミングを逃してしまった。それに何て言えばいいのか。カルは僕の事を覚えているのかな?忘れてしまっているかな?
 そう思うと胸がツキリとした。
 僕がなかなか出て行けずにいるからか、リナがこちらに来た。
 その目がどうしたの?行かないの?と言っているようで出るのを渋っていると服を軽く噛んで引っ張ってくる。

「リナ?何かそこにいる…の、か?」

 カルが岩の影を覗き込みながらリナに問いかけ、その赤い瞳が僕を捉えて動きが止まる。

 目が離せない。そして気づくと広い胸にきつく抱き込まれていた。

「…カル。痛いよ。」

 少し強引に腕の中から出た。

「…お前はっ!俺がどれだけッ!!あぁ、くそ、」

「…ごめんなさい。」

 カルの頬を伝う涙を見て僕も止まっていた涙が次々と流れ、また抱き締められた。

「手を振り払われた俺の気持ちがわかるかっ?」

「ごめん、」

「…いや、もういい。こうして帰ってきてくれただけで十分だ。辛い事はなかったか?怖くはなかったか?」

 カルは辛そうに眉を下げて僕に問う。

「あのね、最初は怖かったけど僕はとても幸せだったよ。話したいことが山ほどあるの。」

 それを聞くと少しほっとした顔をする。

「良かった。本当に無事で。俺も聞きたいことがたくさんある…でも暫くはこうしていてくれ。」

 僕も硬い胸板に顔を埋めて久しぶりにカルの体温を感じて幸せを噛み締めた。

「ユイリナ。」

「うん?」

「誕生日、十六歳おめでとう…おかえり。」

「ッありがとう。ただいまっ!」

 そして涙でぐちゃぐちゃな顔で満面の笑みを浮かべた。



 暫くそのまま座り込んで抱き合っていたが、僕は戸惑っていた。
 カルは頭やこめかみに何度もキスをしてくる。恥ずかしさについ距離を取ろうとするとキツく抱き込まれるというのを何度も何度も繰り返している。
 でも、もう僕の羞恥心は限界でカルの胸に手を当てて強く突っ張り距離を取る。

 すると不満そうな顔をして何か言いたげに僕を見る。

「もう、恥ずかしいよ!ね、そろそろ父上達に会いたい。父様や兄様や皆は元気かな?カル、連れていって?」

 必然的に上目遣いになってしまう。

「ハァ。そういうのは他の誰にもしてくれるなよ?俺だけにしとけ。」

「皆、僕の事覚えていてくれてるかな?四歳の時から成長しているし気づいて貰えなかったらどうしよう。」

「聞けよ…!ハァ、陛下も王后陛下もお前の事を思わなかった日はない。いつも身を案じていらっしゃった。リオネルはあまり笑わなくなったな。逆にオルガは無理して笑うようになったが。」

 頭を撫でながらしばらくは離してもらえないだろうから覚悟しとけと言われて心が暖かくなった。

「それにお前は王后陛下…アンリナ様に瓜二つだ。良く似ているよ。皆一目でわかる。アンリナ様より大分小さいがな。」

 ククッと笑いを堪える声にむっとする。僕は165センチだけど、高校1年の男子の中では普通だったと思う。

「こっちの世界の人が大きすぎるんだよ。僕がいたところでは普通だったよ。」

 それから他愛もない話をぽつぽつと話ながら道のりを進む。
 今日は色々な事があってたくさん泣いたしリナに揺られてうとうととしてくる。カルは寝ていてもいいと言ってくれるけど、景色を見るのが楽しくて。でも頭を撫でられて暖かい背中に身を任せていたらいつの間にか深い眠りに落ちていった。


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