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10:新しい生活③
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商人のエルミーラはその日の夜に再び現れた。
今日の今日で随分早い事だが、それよりも、
「こんなに時刻によく城の跳ね橋が降りたわね」
「ははははっ城に色々と贈っていますから、このくらいの融通は利きますよ。
それに皇妃様はお急ぎでしたでしょう?」
金で跳ね橋を上げるとはね。ヘクトールの暗殺は思ったよりも容易なのではないかと思っちゃったわ。
そんなどうでもいい話よりも、「餞別です」とエルミーラがパンを差し入れてくれたのがとても有り難かったわ。
なんせ食べる物が何もなかったのだ。
修道院から城に戻るときに何か買えば良かったのに、普段その様な心配をする必要がないので完全に失念していた。
食べる物が何もないと告げた時のテーアの涙目はとても堪えたわ。
私は後で良いとして、辛そうにしていたテーアにパンを上げた。
「食べていいわよ」
「いいえ、お話が終わるまでお待ちしてます」
「皇妃様その子は?」
「貴女が帰ってから修道院に行って来たわ」
「ほぉ。わたしは速さを売りしておりますが、皇妃様もお早いですね」
「私の場合は死活問題という奴よ。貴女とは違うわ……
ところでエルミーラ、貴女お茶を淹れたことは?」
「お茶ですか、ええありますが?」
「だったらテーアに教えて頂戴な」
「それは構いませんが、わたしでは侍女の淹れる物には遠く及びませんよ?」
「渋いお茶だったのよ……」
「なるほど、では少し調理場をお借りしましょう。お茶を淹れますからお二人ともパンを食べてしまってください」
「うっ……、助かるわ」
エルミーラは謙遜していたが、中々悪くない味であった。
もちろん頂いたパンも美味しかったわ。
さてお腹がくちくなった所で、再び商売の話に戻した。
なんせここにテーアが居るのはその為なのだからね。
決してパンを食べさせるために呼んだのではない。これから生活していくのに必要な品を決めるのに、私では役不足だから彼女を呼んだのだ。
「食事のパンは日持ちをする物を持ってきましょう。
三日は間違いなく持ちます」
テーアはまだパンが焼けないので麦を買っても意味は無し。パンは焼かれた物を買うことに決まる。しかし毎日エルミーラが届けられる訳は無いので、三日に一度、三日分のパンを買うことに決まった。
「羊や鳥が飼うことが出来ると良いのですがここでは無理でしょうね。
畑は小さなものが裏手にありましたので、種を買うと育てられるとは思います」
「テーアどう?」
「修道院では畑の草抜きとかはやりました。でも種まきはやらせて貰ってません」
種まきはもう少し年齢の高い子の仕事だったそうだ、う~ん残念。
「では芋はどうかな?」
「あっお芋ならあたしでもできます」
「では芋を持ってきますね」
それは『よろしいですか?』と言う私に向けられた確認なのだが、そう言われても私には芋と種がどう関係しているか分からない。
まぁテーアが解っている風だからきっと大丈夫でしょ?
「よく分からないけど、芋にしましょう」
そう返したら二人から笑われた。
「そうですねぇ。芋だけでは栄養が……
干し肉と乾燥させた茸や根野菜など、後は乾燥果実や木の実などを入れましょうか」
「お水で煮る奴ですか?」
「ああそれでいいよ」
食事の方はひとまずこれで終わり、続いて衣服やら消耗品の話に移っていく。
最初は数点残そうとしていたが、良く考えてみれば人手が必要なドレスは着る事が出来ない事に気付いた。ここにはテーアしか居ないのだから、彼女では私にドレスを着せる事も化粧をする技術も無い。
自分一人で着られるドレスは二着だけあるが、これの問題は洗い方が不明な事だ。
いま着ている物をエルミーラに見せたが、業者に渡すような品でしょうかと首を傾げていた。着る度に費用が掛かるのは勘弁して欲しい。
困っていると自分で洗えるドレス風の服があるそうで、ならば良しとそれを二着買うことに決めた。そして残りはワンピースなどの身軽な服を片手で収まる分だけ買った。
なぜここまでドレスに拘るかと言えば、そりゃあ城に呼ばれた時に困るからよね……
大体の品を決め終わった後、時刻はとうに過ぎて夜遅くなっていた。
テーアは先ほどからうつらうつらと船を漕いでいる。これ以上はダメだろうと部屋に帰した。
「皇妃様、おひとつよろしいですか?」
「改まって何かしら?」
「指輪をお一つ紹介させて頂きたいと思っています」
「悪いのだけど貴金属を買う余裕は無いわ」
「見るだけでも構いません。ですがきっと気に入って頂けると思います」
エルミーラにしては珍しく押しが強い。
そこまで言うならと、見るだけなら構わないかなとその品を出すように言った。
小さな箱から出てきたのは二つの指輪。
いやリングとリングが細い鎖で繋がっているから一対の指輪と言うべきだろうか。
「珍しい形をしているわね」
「こちらの指輪は、とある用途がありましてこのような形となっております。
まずは実際に着けてお見せいたします」
そう言うやエルミーラは二つのリングを己の小指に嵌めた。
えっ二つとも小指なの?
同じ指に着けたから、リングに付いたチェーンがだらしなく垂れ下がっている。これではいずれどこかに引っかけて切ってしまいそうだ。
「このように着けてから、指輪を回します」
指先側の指輪だけを半回転、するとだらしなく垂れていたチェーンは指輪の上に巻き付いてスッキリとした。
しかしそれになんの用途があるかが理解できない。
「普段使いはこのようにして置きますが、必要な際は半回転」
再びチェーンがだらしなく垂れ下がる。
「このチェーンは銀で造られております」
そう言われてやっと分かった。
「毒ね」
「はい自然を装い、そっと触れさせるのにこのような形状を取っております」
小指から垂れる鎖をスープにちょっと触れさせる。銀が変色すれば毒入りだ。どこか違う場所で食事が出されたとき、これがあると無いとでは安心感が違う。
こうして私はまんまとその指輪を買わされた。
銀製の癖にそれなりの値段がする指輪だったわ……
今日の今日で随分早い事だが、それよりも、
「こんなに時刻によく城の跳ね橋が降りたわね」
「ははははっ城に色々と贈っていますから、このくらいの融通は利きますよ。
それに皇妃様はお急ぎでしたでしょう?」
金で跳ね橋を上げるとはね。ヘクトールの暗殺は思ったよりも容易なのではないかと思っちゃったわ。
そんなどうでもいい話よりも、「餞別です」とエルミーラがパンを差し入れてくれたのがとても有り難かったわ。
なんせ食べる物が何もなかったのだ。
修道院から城に戻るときに何か買えば良かったのに、普段その様な心配をする必要がないので完全に失念していた。
食べる物が何もないと告げた時のテーアの涙目はとても堪えたわ。
私は後で良いとして、辛そうにしていたテーアにパンを上げた。
「食べていいわよ」
「いいえ、お話が終わるまでお待ちしてます」
「皇妃様その子は?」
「貴女が帰ってから修道院に行って来たわ」
「ほぉ。わたしは速さを売りしておりますが、皇妃様もお早いですね」
「私の場合は死活問題という奴よ。貴女とは違うわ……
ところでエルミーラ、貴女お茶を淹れたことは?」
「お茶ですか、ええありますが?」
「だったらテーアに教えて頂戴な」
「それは構いませんが、わたしでは侍女の淹れる物には遠く及びませんよ?」
「渋いお茶だったのよ……」
「なるほど、では少し調理場をお借りしましょう。お茶を淹れますからお二人ともパンを食べてしまってください」
「うっ……、助かるわ」
エルミーラは謙遜していたが、中々悪くない味であった。
もちろん頂いたパンも美味しかったわ。
さてお腹がくちくなった所で、再び商売の話に戻した。
なんせここにテーアが居るのはその為なのだからね。
決してパンを食べさせるために呼んだのではない。これから生活していくのに必要な品を決めるのに、私では役不足だから彼女を呼んだのだ。
「食事のパンは日持ちをする物を持ってきましょう。
三日は間違いなく持ちます」
テーアはまだパンが焼けないので麦を買っても意味は無し。パンは焼かれた物を買うことに決まる。しかし毎日エルミーラが届けられる訳は無いので、三日に一度、三日分のパンを買うことに決まった。
「羊や鳥が飼うことが出来ると良いのですがここでは無理でしょうね。
畑は小さなものが裏手にありましたので、種を買うと育てられるとは思います」
「テーアどう?」
「修道院では畑の草抜きとかはやりました。でも種まきはやらせて貰ってません」
種まきはもう少し年齢の高い子の仕事だったそうだ、う~ん残念。
「では芋はどうかな?」
「あっお芋ならあたしでもできます」
「では芋を持ってきますね」
それは『よろしいですか?』と言う私に向けられた確認なのだが、そう言われても私には芋と種がどう関係しているか分からない。
まぁテーアが解っている風だからきっと大丈夫でしょ?
「よく分からないけど、芋にしましょう」
そう返したら二人から笑われた。
「そうですねぇ。芋だけでは栄養が……
干し肉と乾燥させた茸や根野菜など、後は乾燥果実や木の実などを入れましょうか」
「お水で煮る奴ですか?」
「ああそれでいいよ」
食事の方はひとまずこれで終わり、続いて衣服やら消耗品の話に移っていく。
最初は数点残そうとしていたが、良く考えてみれば人手が必要なドレスは着る事が出来ない事に気付いた。ここにはテーアしか居ないのだから、彼女では私にドレスを着せる事も化粧をする技術も無い。
自分一人で着られるドレスは二着だけあるが、これの問題は洗い方が不明な事だ。
いま着ている物をエルミーラに見せたが、業者に渡すような品でしょうかと首を傾げていた。着る度に費用が掛かるのは勘弁して欲しい。
困っていると自分で洗えるドレス風の服があるそうで、ならば良しとそれを二着買うことに決めた。そして残りはワンピースなどの身軽な服を片手で収まる分だけ買った。
なぜここまでドレスに拘るかと言えば、そりゃあ城に呼ばれた時に困るからよね……
大体の品を決め終わった後、時刻はとうに過ぎて夜遅くなっていた。
テーアは先ほどからうつらうつらと船を漕いでいる。これ以上はダメだろうと部屋に帰した。
「皇妃様、おひとつよろしいですか?」
「改まって何かしら?」
「指輪をお一つ紹介させて頂きたいと思っています」
「悪いのだけど貴金属を買う余裕は無いわ」
「見るだけでも構いません。ですがきっと気に入って頂けると思います」
エルミーラにしては珍しく押しが強い。
そこまで言うならと、見るだけなら構わないかなとその品を出すように言った。
小さな箱から出てきたのは二つの指輪。
いやリングとリングが細い鎖で繋がっているから一対の指輪と言うべきだろうか。
「珍しい形をしているわね」
「こちらの指輪は、とある用途がありましてこのような形となっております。
まずは実際に着けてお見せいたします」
そう言うやエルミーラは二つのリングを己の小指に嵌めた。
えっ二つとも小指なの?
同じ指に着けたから、リングに付いたチェーンがだらしなく垂れ下がっている。これではいずれどこかに引っかけて切ってしまいそうだ。
「このように着けてから、指輪を回します」
指先側の指輪だけを半回転、するとだらしなく垂れていたチェーンは指輪の上に巻き付いてスッキリとした。
しかしそれになんの用途があるかが理解できない。
「普段使いはこのようにして置きますが、必要な際は半回転」
再びチェーンがだらしなく垂れ下がる。
「このチェーンは銀で造られております」
そう言われてやっと分かった。
「毒ね」
「はい自然を装い、そっと触れさせるのにこのような形状を取っております」
小指から垂れる鎖をスープにちょっと触れさせる。銀が変色すれば毒入りだ。どこか違う場所で食事が出されたとき、これがあると無いとでは安心感が違う。
こうして私はまんまとその指輪を買わされた。
銀製の癖にそれなりの値段がする指輪だったわ……
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