退役騎士の居候生活

夏菜しの

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14:ルスラン暗躍

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 祭りから帰ってからと言う物、オレーシャさんは何かを考えているかのような仕草を頻繁に見せるようになった。
 庭の手入れ、ご飯のとき、僕に勉強を教えてくれている時。
 ぼぅとしているから声を掛けると「ああ済まない」となんでもないかのように取り繕った様な声が返ってくる。
 あの時は否定していたけれど、もしかしてここを出て商人さんについていくつもりなのかな?

 オレーシャさんがここを出て行くのは最初から決まっていたことだ。
 アヴデエフさんから生活の基盤となる常識的な事を教えてやってくれと言われたときはどういう事かと首を傾げたけれど、オレーシャさんの行動を見ているうちに危なっかしい人だな~という感想を覚えた。
 そろそろ独り立ちしても良い頃かとは思うけど、アヴデエフさんはいいのかな?


 オレーシャさんの部屋に行き夕食が出来たよと伝えた。
「分かったすぐに行くよ」
 返事があったので食堂で待つ。
 現れたオレーシャさんはスカート姿ではなくて、ズボンを履いていた。アヴデエフさんからの贈り物で、お出かけ用の一張羅だから汚さないように着替えたのだろう。

 翌日はオレーシャさんと相談して、人が多く出掛けるであろう昼前を避けて、そんなに混まない朝早くに買い物に行くことになった。
 その時もオレーシャさんはズボンだった。
「オレーシャさんスカートは履かないの?」
「ああちょっとな」
 ばつが悪そうな口調だ。
「もしも汚したのなら洗うから出してね」
「いや汚れてはいないよ。ありがとうルスラン」
 やっぱり何かおかしい。

 昼食を食べ終えてもオレーシャさんはぼんやりとしていた。僕の勉強を見てくれる間もやっぱり同じだ。
 パパッと勉強を終わらせて、
「オレーシャさん、ちょっと出かけてきてもいいですか?」
「市場の方に行くならダメだ」
「実はさっき見たらコショウが切れそうだったので、買いに行きたいんだけど駄目ですか?」
「分かった買い物ならば私が行ってこよう」
 僕は「ありがとう」と返事をしながら心の中でごめんなさいと謝った。



 何度か騎士団の本部には来たことがあるから迷うことは無い。
 守衛さんの所で自分の名前を告げて、白騎士団団長のアヴデエフさんをお願いしますと伝える。しばらく待つと、アヴデエフさんではなくて、白騎士団の隊員さんが迎えに来てくれる。
 団長のアヴデエフさんは忙しいのだ。

「ルスランくん、今日はどうしました?」
 迎えに来てくれるのはこの眼鏡のおばさん隊員さんが多い。女の人には年齢の事は言っちゃダメだと言われているから、しぃ~だ。
「忘れ物を届けに来ました」
「良かったら預かろうか?」
「えっとパンツなのでごめんなさい」
「あら、ふふふっ。あたしは気にしないけどね。そうね直接渡しましょうか」
 手渡し難い物としてパンツって言ったけど、何故かおばさん隊員さんはちょっと嬉しそうだった。

 おばさん隊員さんには団長室まで案内して貰った。返事を貰い一人で中に入ると、机の前ではアヴデエフさんが忙しそうにペンを動かしていた。
 アヴデエフさんは一瞬、顔を上げただけで、視線をすぐに机に戻した。そしてそのままペンを動かしながら「どうした?」と聞いてくる。

「お伝えしたいことがあってきました」
「なるほどな。どうやら忘れ物の話じゃないようだな」
「それは嘘です、ごめんなさい」
「嘘をついてまで俺と話したかったと?」
「はい……」
「ちょっと待ってろ」

 僕は椅子に座って十分ほど待った。アヴデエフさんは「待たせたな」と言いながら席を立ち、僕が座っているソファの方へやって来た。
「それで、改まってなんだ?」
「実はオレーシャさんの事なんだけど」
「虐められ……、るわけないな。あいつはそんなことしない。暴力……、はお前何か悪戯でもしたか?」
「違いますよ。実は昨日の祭りで……」
 僕は東方に居た時に助けた商人さんから勧誘されていた事、そしてその後からずっと元気がない事を伝えた。

「……それで? それを聞いて俺にどうしろと言うんだ」
「アヴデエフさんはオレーシャさんがこのまま居なくなってもいいの?」
「あいつはいずれ出て行くと伝えておいたはずだ。それが今になっただけの事だろう」
「アヴデエフさん、本気でそう思ってますか?」
「オレーシャの未来は俺が決めて良い事じゃない」
「ううん違うよ」
「何が違う? オレーシャは他人だぞ」
「じゃあ奥さんだったら? それなら一緒の未来を歩くのは普通でしょう」
「お前なぁ。例え俺が良くてもオレーシャにだって選ぶ権利という奴があってだな。こういう事はそんな一方的な話じゃないんだよ」
「だったら聞いてみてよ?」
「それで断られたらどうするんだ」
「二日後に居なくなる人に断られて何か問題があるの!?」
「はぁ、もうこの話は終わりだ」
「やるって言うまでここに居る!」
「しつこいな。仕事も溜まってるんだ厄介ごとを増やさないでくれ」
「だったら仕事とオレーシャさんはどっちが大事なの?」

コンコンコン

 ドアがノックされる音が聞こえた。
 ドアが開き入って来たのはおばさん隊員さんだ。
「なんだ、来客中だが?」
「失礼します。申し訳ございません、どうしても通せと強引に……」
「いったい誰だ」
「ボロディン元隊長です」
「ハァ?」
 どうしますかとおばさん隊員さんが目で訴えている。するとアヴデエフさんは僕の方を見て、お前かと聞いて来たので、コクリと頷いた。
「分かった通せ」
「畏まりました」

 オレーシャさんが部屋に入って来た。
 急ぎ走って来たのか額には薄っすらと汗をにじませていた。
「ハァハァ。ルスランこれは一体どういうことですか?」
「ごめんなさい。僕は嘘をつきました」
「つまりこのメモは嘘だと?」
「なんだ、見せろ」
 僕が書いて残しておいたメモをアヴデエフさんはオレーシャの手から奪い取った。

『アヴデエフさんが怪我をしたと伝令が来たので本部に行ってきます。
 買い物から戻ったらすぐに来て!』

「お前はこれを信じてノコノコ来たのか?」
「っ……
 その言い方は無いでしょう。私はルスランが嘘をつくなんて思っていませんでした」
「そうか? こいつ結構、嘘を付くと思うがな」
 えーっそれは心外だなぁ。
 僕は優しい嘘しかついていないからそんなに頻度は無いと思うよ。
「まあいい。で、こんな嘘をついてまでオレーシャをここに呼んだ理由はさっきのアレか?」
「うん」
「ルスラン、さっきのとはなんだろう?」
「ねえオレーシャさん、本当に町を出て行っちゃうの?」
「……それは」
「アヴデエフさん! ほら!」
「分かった分かった。ルスラン、ちょっとお前は外に出てろ」
「えーっ!」
「やっぱりお前楽しんでんだろ、いーから出てろって」
 あと一歩と言う所で残念ながら追い出されてしまった。
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