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15:居候は新たな生活を向かえる
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ルスランが部屋を出て行き、と言うか蹴りだされた?
私はフェリックスと二人きりになった。
「そこ座れよ」
「はい。ありがとうございます」
私は薦められるままに先ほどルスランが座っていたソファに座った。
「なあ本当に出ていくつもりなのか?」
「まだ迷っています」
「何を迷う」
それは薦めるのか、止めさせたいのか判断が難しい声色だった。
「私は騎士団を辞めても自分は騎士であることに変わりないと思っていました。
でも昨日にスリを捕まえた時に気付いたのです。私はもう騎士ではないのだなと」
「うん。まったく判らんな」
一大告白したというのに返って来たのは何とも微妙な呆れ顔だった。こんなに悩んでいるというのに!
「団長は少々理解力が足りていないのではないでしょうか?」
私はイラッとして自分が厳しい口調に変わったのを自覚した。
「いいや違うね。そもそもお前の話は飛びすぎなんだよ」
かいつまんで言わずにちゃんと一から話せと諭された。
「判りました……
えーと、スカートが汚れるのが嫌でスリにいらぬ怪我を負わせたんです。だから私は騎士失格だなと。このままここに居るとどんどん駄目になるような気がして、だったら外に行こうかと悩んでました」
「なるほどな、やっと解った」
良かったとホッと胸を撫で下ろした。
「捕らえたスリが抵抗したんだろう、だったらその行為は必然だろうよ」
「王国法で罪人に対しての過度な虐待は禁じられていますよ」
「それは捕まえた後の話だろう。
捕まえる時に相手が暴れた、だから相手の意気を消沈させるために力を込めたそれだけだ」
「しかし私がスカートが汚れるのに躊躇しなければ、怪我を負わせることなく取り押さえる事が出来ました」
「本当にそうか? 倒されてからもそいつは暴れたかもしれんぞ。それにナイフを所持していたという報告もある。もしもの事もあったかもしれん。」
「しかしそれは『かもしれない』の話でしょう!」
「だがそいつは犯罪に手を染めたのに命を拾ったんだ。良かったじゃないか」
「団長はいったい何の話をしているんですか?」
「俺たちは白騎士だろう? そう言うことだよ」
街道で出会う賊は完全武装している事が多い。だからこちらも手加減無しで斬りかかる。ほとんどが生きるか死ぬかと言う二択だ。
「しかし町中は……」
「それは青の騎士団の管轄だ。俺は知らん。そしてお前はいまはどちらでもない。
善良な一般人がスリの逮捕に協力してくれただけだ。ここにお前が騎士だからと言う話は一切も関係ないよ」
「違います。私は騎士です!」
「ああ爵位はその通りで間違いはないよ。だが俺の言う騎士とは騎士団員の事で、爵位の話じゃあない。お前はどっちのつもりなんだ?」
言われてみてハッとした。
「……済みません。私もフェリックスと同じでした」
「そうか。なら良かった。
あ~悪かったな。泣かせるつもりは無かったんだ」
そう言われて初めて自分が泣いていたことに気付いた。
ぎこちなくハンカチが差し出されてきて、有り難く借りた。
「お前が真面目なのは理解しているつもりだが、あんまり深く考えるなよ」
そう言いながら頭をポンポンと撫でられた。
「いまの私ってなんでしょうね」
「哲学か? 悪いが俺は学者じゃないぞ」
この人は……、自然と私の口からハァとため息が漏れた。
「悪かった茶化すつもりは無かった、謝罪する」
「判りました謝罪を受けましょう」
「お前が何かだったな? そんなの簡単だお前はだたの居候だよ」
「確かに間違っていませんけど……」
もっと別の言い方はないのかと不満を覚えていれば、
「だがそろそろ居候は終わりにしないか?」
どうやら私はついに出て行けと言われたらしい。
「判りました。早々に出てきます」
「ち、違う! 落ち着け」
フェリックスは慌てて、立ち上がった私の手を取り、ソファに引き戻した。そして彼はホッと安堵の息を吐く。
「出て行けと言う意味じゃない。その、あー。俺と結婚してくれないか?」
まさかフェリックスからそんな言葉が貰えるとは思ってもいなかった。
「それで、どうかな?」
そしてもう一度、だけど今度はちょっと自信のなさそうな声。
ああ返事を。
「はい」
「……」
しかし返事をしたというのにフェリックスは表情も変わらず無言だった。ちょっと小首をかしげている様にも見える。
何かおかしかっただろうか?
「オレーシャ、さっきのはどういう『はい』だろうか?」
「了承しますの『はい』ですけど、おかしかったでしょうか?」
「はぁぁぁ~」
ふか~いため息と共にフェリックスはよかった~とソファに崩れ落ちた。
次の瞬間。
ドアがバンッと勢いよく開き、「やったぁ!!」と叫びながらルスランが入って来た。どうやらドアの外で聞き耳を立てていた様だ。
そしてここは騎士団の本部。部屋の外でドアに耳をあてて聞き耳を立てている見知らぬ少年を見つければ、誰もが何をしているのだと問うたことだろう。
つまり、
「フェリックスおめでとうだ!」
「エドゥアルド、おまっ! 仕事はどうした!」
「馬鹿野郎、そっくりそのまま返すぜ。
外は祭りでくそ忙しいってのに女を連れ込みやがって! 今日の残業はお前らの所為だからな覚悟しとけよ」
「ヤコヴレワ団長、それは違います。
仕事をサボったのはご自分の責任ですからフェリックスは関係ありません」
「お、おいフェリックス。お前の嫁さんすげー厳しくねえか?」
「まだ嫁さんじゃないけどな。まぁそうだな家で敬礼したくなることは確かだぞ」
「それは済みませんでした。今後は改善します」
「いやあ硬いねぇ」
※
二週間後、町の教会を借りてオレーシャとフェリックスは結婚式を行った。式には沢山の待ちくたびれていた騎士隊の面々が出席していた。
何のことは無い、さっさと結婚しろよと誰もが思っていたのだ。
正午。教会の鐘が鳴り、入口から白いドレス姿の花嫁が現れた。
薄っすら化粧をし、背筋がピンと伸びた凛とした姿に美しいと誰もが思った。
ドアのところで佇む花嫁。
両親のいない彼女に手を貸したのは、赤騎士団のベロワ団長だった。父親代わりと言う大役、確かに彼ほど見た目そして立場のある人物はいないなと誰もが納得する。
沢山の拍手の中を二人が新郎に向かって歩いて行く。
しかし二人を見送った人々は皆が揃ってギョッとする。
視線はその後ろ姿、いや腰へ……
白いドレス姿の花嫁は後ろに短い剣を帯びていた。
なんだありゃ?
しかしそれは花嫁が剣を帯びている事ではなく、あの剣は一体なんだという声だ。
ここに集まった人は今さらその花嫁が剣を帯びていようが、あるあるで済ます程度には毒されていた。
そして式が終わり……
花婿が花嫁に初めて贈った贈り物だったと聞かされて、『なんでそれが剣なんだよ!』と、白騎士団の団長の株がだだ下がりしたのはまた別の話だろう。
─ 完 ─
私はフェリックスと二人きりになった。
「そこ座れよ」
「はい。ありがとうございます」
私は薦められるままに先ほどルスランが座っていたソファに座った。
「なあ本当に出ていくつもりなのか?」
「まだ迷っています」
「何を迷う」
それは薦めるのか、止めさせたいのか判断が難しい声色だった。
「私は騎士団を辞めても自分は騎士であることに変わりないと思っていました。
でも昨日にスリを捕まえた時に気付いたのです。私はもう騎士ではないのだなと」
「うん。まったく判らんな」
一大告白したというのに返って来たのは何とも微妙な呆れ顔だった。こんなに悩んでいるというのに!
「団長は少々理解力が足りていないのではないでしょうか?」
私はイラッとして自分が厳しい口調に変わったのを自覚した。
「いいや違うね。そもそもお前の話は飛びすぎなんだよ」
かいつまんで言わずにちゃんと一から話せと諭された。
「判りました……
えーと、スカートが汚れるのが嫌でスリにいらぬ怪我を負わせたんです。だから私は騎士失格だなと。このままここに居るとどんどん駄目になるような気がして、だったら外に行こうかと悩んでました」
「なるほどな、やっと解った」
良かったとホッと胸を撫で下ろした。
「捕らえたスリが抵抗したんだろう、だったらその行為は必然だろうよ」
「王国法で罪人に対しての過度な虐待は禁じられていますよ」
「それは捕まえた後の話だろう。
捕まえる時に相手が暴れた、だから相手の意気を消沈させるために力を込めたそれだけだ」
「しかし私がスカートが汚れるのに躊躇しなければ、怪我を負わせることなく取り押さえる事が出来ました」
「本当にそうか? 倒されてからもそいつは暴れたかもしれんぞ。それにナイフを所持していたという報告もある。もしもの事もあったかもしれん。」
「しかしそれは『かもしれない』の話でしょう!」
「だがそいつは犯罪に手を染めたのに命を拾ったんだ。良かったじゃないか」
「団長はいったい何の話をしているんですか?」
「俺たちは白騎士だろう? そう言うことだよ」
街道で出会う賊は完全武装している事が多い。だからこちらも手加減無しで斬りかかる。ほとんどが生きるか死ぬかと言う二択だ。
「しかし町中は……」
「それは青の騎士団の管轄だ。俺は知らん。そしてお前はいまはどちらでもない。
善良な一般人がスリの逮捕に協力してくれただけだ。ここにお前が騎士だからと言う話は一切も関係ないよ」
「違います。私は騎士です!」
「ああ爵位はその通りで間違いはないよ。だが俺の言う騎士とは騎士団員の事で、爵位の話じゃあない。お前はどっちのつもりなんだ?」
言われてみてハッとした。
「……済みません。私もフェリックスと同じでした」
「そうか。なら良かった。
あ~悪かったな。泣かせるつもりは無かったんだ」
そう言われて初めて自分が泣いていたことに気付いた。
ぎこちなくハンカチが差し出されてきて、有り難く借りた。
「お前が真面目なのは理解しているつもりだが、あんまり深く考えるなよ」
そう言いながら頭をポンポンと撫でられた。
「いまの私ってなんでしょうね」
「哲学か? 悪いが俺は学者じゃないぞ」
この人は……、自然と私の口からハァとため息が漏れた。
「悪かった茶化すつもりは無かった、謝罪する」
「判りました謝罪を受けましょう」
「お前が何かだったな? そんなの簡単だお前はだたの居候だよ」
「確かに間違っていませんけど……」
もっと別の言い方はないのかと不満を覚えていれば、
「だがそろそろ居候は終わりにしないか?」
どうやら私はついに出て行けと言われたらしい。
「判りました。早々に出てきます」
「ち、違う! 落ち着け」
フェリックスは慌てて、立ち上がった私の手を取り、ソファに引き戻した。そして彼はホッと安堵の息を吐く。
「出て行けと言う意味じゃない。その、あー。俺と結婚してくれないか?」
まさかフェリックスからそんな言葉が貰えるとは思ってもいなかった。
「それで、どうかな?」
そしてもう一度、だけど今度はちょっと自信のなさそうな声。
ああ返事を。
「はい」
「……」
しかし返事をしたというのにフェリックスは表情も変わらず無言だった。ちょっと小首をかしげている様にも見える。
何かおかしかっただろうか?
「オレーシャ、さっきのはどういう『はい』だろうか?」
「了承しますの『はい』ですけど、おかしかったでしょうか?」
「はぁぁぁ~」
ふか~いため息と共にフェリックスはよかった~とソファに崩れ落ちた。
次の瞬間。
ドアがバンッと勢いよく開き、「やったぁ!!」と叫びながらルスランが入って来た。どうやらドアの外で聞き耳を立てていた様だ。
そしてここは騎士団の本部。部屋の外でドアに耳をあてて聞き耳を立てている見知らぬ少年を見つければ、誰もが何をしているのだと問うたことだろう。
つまり、
「フェリックスおめでとうだ!」
「エドゥアルド、おまっ! 仕事はどうした!」
「馬鹿野郎、そっくりそのまま返すぜ。
外は祭りでくそ忙しいってのに女を連れ込みやがって! 今日の残業はお前らの所為だからな覚悟しとけよ」
「ヤコヴレワ団長、それは違います。
仕事をサボったのはご自分の責任ですからフェリックスは関係ありません」
「お、おいフェリックス。お前の嫁さんすげー厳しくねえか?」
「まだ嫁さんじゃないけどな。まぁそうだな家で敬礼したくなることは確かだぞ」
「それは済みませんでした。今後は改善します」
「いやあ硬いねぇ」
※
二週間後、町の教会を借りてオレーシャとフェリックスは結婚式を行った。式には沢山の待ちくたびれていた騎士隊の面々が出席していた。
何のことは無い、さっさと結婚しろよと誰もが思っていたのだ。
正午。教会の鐘が鳴り、入口から白いドレス姿の花嫁が現れた。
薄っすら化粧をし、背筋がピンと伸びた凛とした姿に美しいと誰もが思った。
ドアのところで佇む花嫁。
両親のいない彼女に手を貸したのは、赤騎士団のベロワ団長だった。父親代わりと言う大役、確かに彼ほど見た目そして立場のある人物はいないなと誰もが納得する。
沢山の拍手の中を二人が新郎に向かって歩いて行く。
しかし二人を見送った人々は皆が揃ってギョッとする。
視線はその後ろ姿、いや腰へ……
白いドレス姿の花嫁は後ろに短い剣を帯びていた。
なんだありゃ?
しかしそれは花嫁が剣を帯びている事ではなく、あの剣は一体なんだという声だ。
ここに集まった人は今さらその花嫁が剣を帯びていようが、あるあるで済ます程度には毒されていた。
そして式が終わり……
花婿が花嫁に初めて贈った贈り物だったと聞かされて、『なんでそれが剣なんだよ!』と、白騎士団の団長の株がだだ下がりしたのはまた別の話だろう。
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