40 / 53
第一章 魔道都市ルーメンポートと魔族の影
#39「夜の襲撃、さらわれた母娘」
しおりを挟む
それから夕暮れになっても、俺はまだあの母娘の家を見張っていた。
バルドの部下から「守って欲しい」と伝言を受けてから、嫌な予感が消えない。
ずっと胸の奥がざわついたままだ…。
ルミナスを握り、視線は扉の向こうへと釘付けになる。
なぜここまでするのか。俺自身にも分からない。
……ただ、どれだけ時間が過ぎても母娘の家から目を離すことだけはできなかった。
「……まだいるつもり。もう日が落ちるわよ」
ふと隣を見ると、チャピが立っている。
いつからそこにいるのか、ずっとそこにいたのか記憶がない。
声は落ち着いているが、その瞳の奥に影が差しているように見える。
「あなたがすべて背負う必要はないわ」
ぽつりと落とされた声。
その調子は、不思議と心に引っかかった。
……俺が、何を背負っているって言うんだ……。
思わず笑みがこみ上げる。
疲労を隠すためか、それとも空っぽの自分を誤魔化すためか。
「あの母娘は、俺がいないとダメなんだ……」
気取って言ったつもりだった。
けど口にした瞬間、胸の奥に妙な空白が広がった。
理由なんて分からない。
ただ――そう口にしていないと、立っていられない気がした。
やがて陽は沈み、街路に夜の帳が落ちる。
街の通りには、冷たい風が吹き抜けた。
背筋を伝う悪寒に、ルミナスを握る手に力がこもる。
と、そのときだった。
――ガシャッ。
鋭い破砕音が響く。
母娘の家の窓が叩き割られ、黒い影がなだれ込んでいくのが見えた。
俺は反射的に駆け出していた。
扉を蹴破って飛び込むと、薄暗い室内で複数の人影が母娘に取りすがっている。
「お前らッ――!」
ルミナスを振り抜くと、光の奔流が室内を照らし、影どもがたじろぐ。
その隙にチャピが手を翳し、緑色に光る魔法陣を展開。
突風が吹き抜け、侵入者を壁際へと叩きつける。
その刹那――。
短い悲鳴が聞こえ、別の影が母娘を抱え込み、裏口へと駆け抜けていた。
口を布で塞がれたリーナのくぐもった声が室内に虚しく響く。
「待てッ!」
俺はルミナスを振りかざし後を追おうとする。
だが他の連中が道を塞ぎ、鋭い刃がこちらに向けてきた。
ルミナスを振り抜いた瞬間、白光が弾ける。
影どもの武器は力を失ったように手から滑り落ちた。
その後、力を抜かれた操り人形みたいに膝から崩れ落ちていく。
残った連中もチャピの放った突風が動きを絡め取り、壁へと吹き飛ばす。
呻き声を上げることすら許さず、完全に動きを止めた。
息を荒げながら辺りを見渡す。
床に転がった連中は、もはや立ち上がれそうにない。
……だが、肝心の母娘の姿はどこにもなかった。
裏口の扉は大きく開け放たれ、夜風が吹き込んでいる。
その床にはリーナの小さな髪飾りが転がっていた。
「くそッ……!」
守るどころか、攫われるのを止められなかった――。
胸のざわめきが怒りと悔しさに変わり、俺の中で膨れ上がっていく。
「……守れなかった」
歯を食いしばったそのとき、背後から靴音が近づいてきた。
振り返ると、路地の影から現れたのは朝に会ったバルドの部下と複数の男たちだった。
「……まさか、ここまでやるとはな…」
吐き捨てるように言うと、床に転がる連中を一瞥する。
「すまねぇ兄さん。俺らの見込みが甘かった。まさか、母娘を直でかっさらいに来るとはな……」
男は連中を足で小突き、低く言葉を漏らした。
「ここは俺らで片づける。兄さんはボスのとこへ行ってくれ。……直接話を聞いた方が早ぇ」
俺はリーナの髪飾りを握りしめる。
胸の奥が焼けるようで、言葉は一つも出てこない。
ルミナスを背中に預け、踵を返した。
夜の街を踏みしめ、バルドの邸へと向かう。
人気のない路地を抜けるたび、胸の不安が重くのしかかる。
母娘をさらった連中の足跡はもう消え、ただ悔しさだけが背中を押していた。
やがて巨大な屋敷が見えてくる。
バルド邸の門には一人の男が待っていた。
「……ボスが中でお待ちです」
短く告げると、俺を屋敷へ案内する。
厚い絨毯を踏みしめ、廊下を抜けると――広間の扉が開かれた。
部屋の奥、ソファーに腰かけたバルドが、静かに俺を見据える。
「……来たか、兄さん…いや、ここは、キョウマと呼ばせてもらう」
低く落とされた声が執務室に響く。
俺は手に握りしめたリーナの髪飾りを机の上に置いた。
「……なぜだ……」
そのたった一言で、喉が焼けるように痛い。
バルドは一瞬目を伏せ、深く息を吐いた。
「……どうしてこうなったか……キョウマにはちゃんと説明してやる」
バルドの瞳が俺を射抜くように見る。
その口が、真実を告げようと開かれた――。
バルドの部下から「守って欲しい」と伝言を受けてから、嫌な予感が消えない。
ずっと胸の奥がざわついたままだ…。
ルミナスを握り、視線は扉の向こうへと釘付けになる。
なぜここまでするのか。俺自身にも分からない。
……ただ、どれだけ時間が過ぎても母娘の家から目を離すことだけはできなかった。
「……まだいるつもり。もう日が落ちるわよ」
ふと隣を見ると、チャピが立っている。
いつからそこにいるのか、ずっとそこにいたのか記憶がない。
声は落ち着いているが、その瞳の奥に影が差しているように見える。
「あなたがすべて背負う必要はないわ」
ぽつりと落とされた声。
その調子は、不思議と心に引っかかった。
……俺が、何を背負っているって言うんだ……。
思わず笑みがこみ上げる。
疲労を隠すためか、それとも空っぽの自分を誤魔化すためか。
「あの母娘は、俺がいないとダメなんだ……」
気取って言ったつもりだった。
けど口にした瞬間、胸の奥に妙な空白が広がった。
理由なんて分からない。
ただ――そう口にしていないと、立っていられない気がした。
やがて陽は沈み、街路に夜の帳が落ちる。
街の通りには、冷たい風が吹き抜けた。
背筋を伝う悪寒に、ルミナスを握る手に力がこもる。
と、そのときだった。
――ガシャッ。
鋭い破砕音が響く。
母娘の家の窓が叩き割られ、黒い影がなだれ込んでいくのが見えた。
俺は反射的に駆け出していた。
扉を蹴破って飛び込むと、薄暗い室内で複数の人影が母娘に取りすがっている。
「お前らッ――!」
ルミナスを振り抜くと、光の奔流が室内を照らし、影どもがたじろぐ。
その隙にチャピが手を翳し、緑色に光る魔法陣を展開。
突風が吹き抜け、侵入者を壁際へと叩きつける。
その刹那――。
短い悲鳴が聞こえ、別の影が母娘を抱え込み、裏口へと駆け抜けていた。
口を布で塞がれたリーナのくぐもった声が室内に虚しく響く。
「待てッ!」
俺はルミナスを振りかざし後を追おうとする。
だが他の連中が道を塞ぎ、鋭い刃がこちらに向けてきた。
ルミナスを振り抜いた瞬間、白光が弾ける。
影どもの武器は力を失ったように手から滑り落ちた。
その後、力を抜かれた操り人形みたいに膝から崩れ落ちていく。
残った連中もチャピの放った突風が動きを絡め取り、壁へと吹き飛ばす。
呻き声を上げることすら許さず、完全に動きを止めた。
息を荒げながら辺りを見渡す。
床に転がった連中は、もはや立ち上がれそうにない。
……だが、肝心の母娘の姿はどこにもなかった。
裏口の扉は大きく開け放たれ、夜風が吹き込んでいる。
その床にはリーナの小さな髪飾りが転がっていた。
「くそッ……!」
守るどころか、攫われるのを止められなかった――。
胸のざわめきが怒りと悔しさに変わり、俺の中で膨れ上がっていく。
「……守れなかった」
歯を食いしばったそのとき、背後から靴音が近づいてきた。
振り返ると、路地の影から現れたのは朝に会ったバルドの部下と複数の男たちだった。
「……まさか、ここまでやるとはな…」
吐き捨てるように言うと、床に転がる連中を一瞥する。
「すまねぇ兄さん。俺らの見込みが甘かった。まさか、母娘を直でかっさらいに来るとはな……」
男は連中を足で小突き、低く言葉を漏らした。
「ここは俺らで片づける。兄さんはボスのとこへ行ってくれ。……直接話を聞いた方が早ぇ」
俺はリーナの髪飾りを握りしめる。
胸の奥が焼けるようで、言葉は一つも出てこない。
ルミナスを背中に預け、踵を返した。
夜の街を踏みしめ、バルドの邸へと向かう。
人気のない路地を抜けるたび、胸の不安が重くのしかかる。
母娘をさらった連中の足跡はもう消え、ただ悔しさだけが背中を押していた。
やがて巨大な屋敷が見えてくる。
バルド邸の門には一人の男が待っていた。
「……ボスが中でお待ちです」
短く告げると、俺を屋敷へ案内する。
厚い絨毯を踏みしめ、廊下を抜けると――広間の扉が開かれた。
部屋の奥、ソファーに腰かけたバルドが、静かに俺を見据える。
「……来たか、兄さん…いや、ここは、キョウマと呼ばせてもらう」
低く落とされた声が執務室に響く。
俺は手に握りしめたリーナの髪飾りを机の上に置いた。
「……なぜだ……」
そのたった一言で、喉が焼けるように痛い。
バルドは一瞬目を伏せ、深く息を吐いた。
「……どうしてこうなったか……キョウマにはちゃんと説明してやる」
バルドの瞳が俺を射抜くように見る。
その口が、真実を告げようと開かれた――。
11
あなたにおすすめの小説
Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜
2nd kanta
ファンタジー
愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。
人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。
そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。
しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
魔境育ちの全能冒険者は異世界で好き勝手生きる‼︎ 追い出したクセに戻ってこいだと?そんなの知るか‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
15歳になり成人を迎えたリュカは、念願の冒険者ギルドに登録して冒険者になった。
そこで、そこそこ名の知れた冒険者Dランクのチームの【烈火の羽ばたき】に誘われる。
そこでの生活は主に雑用ばかりで、冒険に行く時でも荷物持ちと管理しかさせて貰えなかった。
それに雑用だけならと給料も安く、何度申請しても値段が上がる事はなかった。
ある時、お前より役に立つ奴が加入すると言われて、チームを追い出される事になった。
散々こき使われたにも関わらず、退職金さえ貰えなかった。
そしてリュカは、ギルドの依頼をこなして行き…
【烈火の羽ばたき】より早くランクを上げる事になるのだが…?
このリュカという少年は、チームで戦わせてもらえなかったけど…
魔女の祖母から魔法を習っていて、全属性の魔法が使え…
剣聖の祖父から剣術を習い、同時に鍛治を学んで武具が作れ…
研究者の父親から錬金術を学び、薬学や回復薬など自作出来て…
元料理人の母親から、全ての料理のレシピを叩き込まれ…
更に、母方の祖父がトレジャーハンターでダンジョンの知識を習い…
母方の祖母が魔道具製作者で魔道具製作を伝授された。
努力の先に掴んだチート能力…
リュカは自らのに能力を駆使して冒険に旅立つ!
リュカの活躍を乞うご期待!
HOTランキングで1位になりました!
更に【ファンタジー・SF】でも1位です!
皆様の応援のお陰です!
本当にありがとうございます!
HOTランキングに入った作品は幾つか有りましたが、いつも2桁で1桁は今回初です。
しかも…1位になれるなんて…夢じゃ無いかな?…と信じられない気持ちでいっぱいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる