悪女はダンジョンから消えた

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マモン

「また聞き取りですか?」

 マモンはうんざりとした表情を隠しもしなかった。

「もう、話すことなんてないと思うけど、だって悪いのはダンジョンの管理者と調査をしなかった奴らでしょう?」

 マモンは、バカにするように笑った。
 彼は責任を彼らに押し付けるつもりだ。その中に、未来の自分の同僚もいるというのに。

「ところで、婚約者さんとはどうなったのですか?」
「婚約破棄だよ!ダンジョンのアイテムをもらう予定で婚約をしたのに閉鎖したら意味ないでしょ?」

 マモンは、まるで清々したかのように言った。
 そこから、望まぬ婚約だったのが見て取れた。

「大体さ、魔術師なのになんで、たかが下級ダンジョンのアイテムなんかのためにあんな女と婚約なんてしないといけないの?……本当に嫌だったんだよ」

 マモンは婚約への嫌悪をむき出しにした。

「それは、魔術師の質が年々落ちていって資金繰りに困っているからでしょう?」

 これは、事実だった。
 魔術師団は実力主義ではなく血統主義だ。
 上に行けるのが貴族だけしかいないというのなら、誰が頑張るというのだろうか。
 平民でも才能のある人間はいるのだ。
 そうなると、彼らがいく場所は冒険者しかいない。
 魔術師団は、実力のある人材がいない。
 そして、それに彼らは気が付かないでいるのだ。
 マモンの父は実力もある魔術師ではあるが、それは珍しいことなのだ。

「は?何言ってるの?僕がいるのに、僕の魔術師としての資質は過去最高なのに」

 確かにマモンは、過去最高と言われる魔力の資質を持っている。
 しかし、次期魔術師団長という立場には揺るぎはなく、その上で胡座をかき自己研鑽は全くしていない。と、聞いたことがある。

「それは、能力が発揮できたらでしょう?」
「だ、黙れ!もうお前となんて話すことなんてない」

 捜査官の指摘にマモンは怒鳴り声をあげた。

「財源として下級ダンジョンのアイテムを見込んでいたのに、今後はどうやって魔術師団を運営する予定なんですか?」

 実のところこの破談で一番の痛手を負ったのは魔術師団の方だ。
 相手方は、破談となって胸を撫で下ろしているかもしれない。
 婚約の内容を調べる限り、一方的に魔術師団に搾取されるような形の婚約になっていたのだ。
 かなり無理のある婚約だったが、魔術師団サイドが頭を下げて可能な限りの誠実な態度で取り付けた婚約だったのだ。
 その結果は、これだ。

「それは、僕がすることじゃなくて大人が考えてやるべき義務だ!魔術師団の資金が足りなくて、その尻拭いを僕でさせるなんておかしいんだよ」

 次期魔術師団長候補だからこそ、その地位を確実なものにするための婚約だった。
 それなのに、この男はそこまで考えが行き着いていないように捜査官には見えた。

「でも、貴方も大人になって魔術師になるんでしょう?団長になるのなら尚更貴方が考えるべき事だと思いますが」

 捜査官の指摘に、マモンの眦が吊り上がる。
 自分が悪い。という自覚はどうやらあったようだ。

「黙れ!黙れ!お前には関係のない事だ!」

 マモンが興奮してとてもではないが、聞き取り調査ができないと判断して終了することになった。
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