悪女はダンジョンから消えた

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クロノス


「またですか?僕は忙しいんです」

 クロノスは、呼び出されたことに不快感を露わにさせた。

「……鍛錬ですか?剣を持つことを禁止させられているのに」

 クロノスの証言を彼の父でもある現騎士団長に報告したところ、激怒していたらしい。
 クロノスは、騎士としての資質に問題があるが、彼の父親はどうやら違ったようで捜査官は安堵した。

「お前、余計なことを父さんに言ったんだろ?」
「何も言ってませんが」

 捜査官「は」何も言っていない。
 騎士団長に報告したのは、今回の件で協力することになった騎士だ。
 騎士にあるまじき行動だ。もしも、騎士団長もクロノスを庇うようなら考えがある。と、話していた。
 どうやら、その考えは実行されずに済んだようだ。
 クロノスの行動は騎士の資質に問題があり、剣を持つのを禁止する。と、騎士団長はしたようだ。
 それが、一時的なものなのか、一生のものなのかはわからないが。
 もしも、彼が次に剣を持つことができるのならその時は騎士として栄誉のある死が迎えられたらいいものだ。

「うるさい!お前以外にありえないんだ。命からがら逃げてきた俺を父さんは殴ったんだ」

 クロノスは、捜査官に八つ当たりをした。
 殴られたのは自分自身の行動のせいだというのに。

「なぜ、お前が死ななかったんだ。って言われたんだ。おかしいだろ。親だぞ、なぜ、俺の心配ではなくて死んだあの女に申し訳ない。と言うんだよ!」

 クロノスは、自分を心配してくれるどころか怒りを露わにさせた父親に腹を立てていた。
 しかし、それが騎士というものではないのか。
 
「それは、王族をお守りする騎士の役割を果たしていなかったからでしょう?」
「っ、俺は悪くない」

 クロノスは、自分は悪くない。と言う。

「いいえ、悪いです。騎士としての責務を果たさないどころか人としての最低限の倫理感すらないですよ」

 捜査官は、クロノスの行動を冷たく詰った。

「は?」
「……モンスターキューブを放ちましたよね」

 聞き取り調査の後に、議論を重ねて結論はそこへと行き着いた。
 発見されたばかりなのに調査はかなり細密にされていたダンジョンから、S級モンスターであるヒドラが見つかるわけがない。
 王族が行くとわかっているダンジョンの調査を適当にするはずがないのだ。
 そうなると、ありえないことではあるが彼らがモンスターキューブを解放したとしか考えられなかった。
 手に入れられたとしてもミノタウロスが封印されたものくらいではあるが。
 ヒドラが封印されたモンスターキューブがないとは言い切れなかった。

「お、俺は知らない」

 クロノスは、言葉に詰まりながら否定する。
 だが、どう見ても嘘をついているようにしか見えなかった。
 だから、捜査官は、揺さぶりをかけることにした。
 
「まあ、貴方達程度の実力じゃ、ミノタウロスですら討伐なんてできませんけどね」
「なんだと!?侮辱するな」

 お前らは思い上がっているが、強くない。と、捜査官は言い切った。
 彼らがミノタウロスを討伐できるかどうかはわからないが、正直なところそんな実力はないと捜査官は思っていた。

「……貴方よりも弟さんの方がずっと実力者だと聞いたことがあります。彼なら討伐できたと思いますけどね、事故さえなければ」

 クロノスの弟は、不慮の事故によって二度と剣を握れなくなった。
 実力はクロノス以上とされて、とても惜しまれていた。
 弟なら倒せた。という言葉はクロノスにとっての地雷だ。

「黙れ!ミノタウロスなら討伐できるとマモンが……!だから、僕たちは……」

 クロノスは続きを言いかけて止めた。
 自分がとんでもないことを口走っていた事に気がついたからだ。

「モンスターキューブを解放したんですか?」
「そ、そんなことなんてしていない!」

 捜査官の質問にクロノスは反射的に否定をした。

「まあ、どちらにしろ。モンスターキューブを解放しても、そのモンスターを討伐すれば誰にもバレませんし、問題なんてないんですよね。やってる冒険者もいると思います」
「だったら……」

 自分たちは悪くないのでは?
 クロノスはそう言いたそうな顔をした。
 だが、救いを求めても誰も彼を助けない。
 彼だって、ダリアを見捨てたのだから。

「でも、100%確実なんて言葉はないでしょう?バレたら即座に処罰されます」

 捜査官は、わざとらしくクスリと笑って見せた。

「……失礼する」

 クロノスは途端に無表情になって、退室すると言い出した。
 次くらいに証言を引き出せそうだ。と、捜査官は思った。

 


~~~~~

忙しいですね!
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