悪女はダンジョンから消えた

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リリス

「またですか?次に呼び出したら神殿から抗議します」

 リリスは苛立った様子で捜査官を睨みつけた。
 余裕がないのだろう。
 彼らはお互いに顔を合わせないようにしていて、口裏合わせができないようになっている。
 いまだに無罪放免とされていない状況に疑心暗鬼になっているのかもしれない。
 つまり、一番心に余裕がなくてそこにつけ込む隙があるということだ。

「好きにするといい」

 捜査官は丁寧な言葉すら使わずリリスを鼻で笑った。

「私は聖女よ!」

 リリスは自分が聖女だから、無礼な態度をとるなと睨みつける。
 彼女は今まで聖女としての役割ときっちりと果たしてはいない。
 ここ数代で聖女の能力が落ちていて、聖女というものはただの肩書きでしかなくなっている。
神殿もかなり力を失った。

「役目を果たしていたらの話ですよね」

 リリスは聖女の役目どころか、人間性にすら問題がある。
 禁止されているモンスターキューブをダンジョン内で解放をした時点で、彼女を擁護することはできない。
 
「何ですって?」
「ダンジョンにモンスターキューブを放ちましたよね」

 しらばっくれるリリスに捜査官は静かに怒りを露わにさせた。

「していないわよ」
「フェレスがワイバーンのモンスターキューブをミノタウロスと嘘をついて放ったと話していた」

 それでもしらを切るリリスに、捜査官はフェレスの名前を出す。

「……私は無関係よ」
「モンスターキューブは、神殿で神聖力の少ない神官で作っているはずだ」

 そう、モンスターキューブは、下級の神官が作っている。
 かつては、ミノタウロスを封印できるくらいのモンスターキューブもあったが、危険ため作られなくなった。

「それがどうしたのよ。私がモンスターキューブを作ったと言いたいの?あんな底辺がするような仕事なんて私はしないわ」

 リリスは当然のように、自分がモンスターキューブを作成した事を否定した。
 発言から彼女は作っていない。と、捜査官はすぐに分かった。
 聖女にはある能力があった。

「聖女は、聖なるものを見る目だけはある」

 リリスは、モンスターキューブを作りモンスターを捕まえるという面倒なことはしないで、すでに封印されている物を手に入れたのだろう。

「裏オークションでワイバーンが封印されたモンスターキューブを買ったな?」

 捜査官は、その線を考えていた。
 ワイバーンクラスのモンスターキューブなら、過去の聖女が小遣い稼ぎに作ることはできる。
 なぜヒドラが封印されたモンスターキューブがあったのかは謎だが。

「私は関係ないわ」
「聖女の神聖力がなければミノタウロスとそうではないモンスターキューブを見分けることなんてできない」

 否定するリリスに、捜査官は聖女にしかできない事を指摘する。

「ワイバーンとヒドラの見分けがつかない程度の神聖力だなんて聖女の質も落ちたな」

 ワイバーンとヒドラは似ても似つかないモンスターが、禍々しさが違う。
 それを見抜けなかったということは、つまり彼女の聖女としての資質は低いものだ。

「っ、神殿から抗議するわ!」

 リリスは再び神殿の名前を出すが無意味だ。
 この件を神殿に報告したら、すぐに彼らは対応したのだ。
 彼女の素行にも問題があり、彼らも頭を抱えていたようだ。

「お前はもう聖女じゃない。聖女から除名された」

 彼女は聖女リリスではなくて、ただのリリスになったのだ。
 この件で神殿はリリスに罪がなくても見捨てるつもりだったようだ。

「そんなっ」

 リリスは信じられない。と、目を見開く。

「……聖女の肩書きがなくなったなら、どうやって皇太子妃になるつもりなんだ?」

 捜査官はリリスを馬鹿にするように笑った。
 彼女がベリアルと結ばれることができる唯一の切り札すら無くしてしまったのだ。
 そもそも、ベリアルは皇太子でいられるかも疑問でもある。

「それよりも自分の罪を少しでも軽くできるように言い訳でも考えておくんだな」
「私は悪くない。殿下や他の奴らに騙されたの。ねえ、信じて」

 リリスは、捜査官の腕に縋り付いた。
 その瞬間に捜査官は思考がふわりとぼやけるのを感じた。

「……なるほど、無意識に魅了を使っていたのか、残念だが私には効かない。この毒婦を捕えろ」

 捜査官は、リリスの腕を振り払うとすぐに手錠をかけて他の捜査官に声をかけた。
 
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