悪女はダンジョンから消えた

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義弟

 二度目の呼び出しにミカエルは、落ち着きのない様子だった。
 眠れていないのか憔悴しきっているのに、目だけはダリアが生きているかもしれない。という、希望の輝きがほんのりと見えていた。
 
「姉さんの捜索はどうなっているのですか?」
「現状ではお伝えする事はできません。しかし、いい方向に進んでいることだけはお知らせします」
「よかった」

 捜査官の精一杯の誠意の言葉に、ミカエルは少し安堵した表情を浮かべる。
 その流れで捜査官がダリアにつけた護衛について質問すると、ミカエルはそれに答えた。

「ギルドに依頼したんだ。本当はS級冒険者を雇いたかったんだが、長期間拘束するような依頼は受けられない。と言われたので」
「そのようですね。S級冒険者は、かなり前からある件の依頼を受けているようですね」

 ミカエルの話を聞きながら、彼にも「早く知る」権利があると捜査官は思った。

「どのような依頼ですか?差し支えなければ教えてもらいたいのですが」
「平民の聖女の話を聞いたことがありますか?聖女の地位向上のきっかけになった」
「知っています。それが?」
「その聖女がどうやらモンスターキューブも作成していたようで、散り散りになったモンスターキューブを探す依頼を彼らは受けていたようです」

 聖女の作成したモンスターキューブは、かなり強力な物で出回ってしまうとかなりの問題になる。と、神殿がS級冒険者達に長期の依頼をかけていたのだ。
 そして、S級冒険者達もモンスターキューブの被害を考えてそれを受けることにした。

「まさか、ヒドラも?」

 ミカエルはこの事件の背景について、すでに察していたようだ。

「そうですね。S級冒険者達はリリス達が買ったモンスターキューブを手に入れるためにダンジョンに入ったようです」
「ヒドラは討伐されたのですか?」

 ミカエルは自分の立場というものをしっかりと理解しているようだ。
 姉の安否よりも被害について真っ先に質問した。
 こういった自分を律することができる人間は、上に立つ者として誰よりも頼りになる存在だ。

「はい、……A級冒険者のテセウスもかなり貢献したようで、S級冒険者に昇格するようです」

 テセウスが生きている事を知ったミカエルの表情が変わった。
 冷静で落ち着いたものから、はやる気持ちを無理に抑え込もうとするものに。
 それは年齢相応のもので、かなり彼も無理をしてきたのだと捜査官は思った。
 
「ま、待ってください。テセウスは無事という事ですか?……それなら、姉さんは?」

 捜査官にはミカエルとテセウスの信頼関係というものが垣間見えたような気がした。
 テセウスは命にかけてもダリアを絶対に守り切るものだと彼は信じているようだ。

「事情があって保護していました。もちろん、ダリア様もです」
「っ……!」

 ミカエルの両目から大粒の涙からこぼれ落ちた。
 彼は「よかったぁ」と呟き、ハンカチすら取り出す余裕すら見せずに手で涙を拭っている。
 その様子に、捜査官は心から「良かった」と思った。
 ダリアが助かったのは、テセウスの存在があったのも大きいが、心配性の義弟がもう一つかけた保険のおかげでもあった。

「聖具をダリア様にわたしましたか?」

 ミカエルは、ダリアに聖具を渡していたのだ。
 聖具とは、過労死した聖女が心を込めて作った物をそう言う。
 愛する人のために自分で作ったネクタイピンと、それとお揃いのブローチがそれに当たる。
 今まさに、ミカエルが身につけているネクタイピンと、ダリアが身につけていたブローチがそれだった。
 
「……はい。姉さんを守って欲しくて」

 ミカエルは色々な伝を使ってそれを手に入れたのだろう。

「貴方の願い通り聖具はダリア様を守ってくれましたよ」

 捜査官は優しくミカエルを見つめた。
 そして、おっといけない。と言わんばかりに口を開いた。

「ダリア様、入ってください」

 ガチャリとドアが開いた。
 そこには、少し痩せたダリアが立っていた。
 ダリアはミカエルを見るなり、大粒の涙を浮かべた。

「ミカエル!」
「ダリア姉さん!」

 互いの名前を呼ぶなり二人は走り出した。
 そして、もう二度と離さない。と、言わんばかりに抱きしめ合い。その場に座り込んだ。
 しばらく二人は声を出して泣いていた。
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