聖女様の生き残り術

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八方美人のヒーロー

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 メイドに連れて行かれて、私は部屋へと戻った。
 使用人は、私に対して最低限のことはしてくれるが、優しいわけではない。
 それは、私が貴族だからだ。

 不貞の子供だと疑われてるが、それは、あくまでも疑惑があるだけ。
 そもそも、私の顔立ちは父によく似ているので、不貞などあり得ないのだ。
 微妙な立ち位置ではあるけれど、どの方向へ転がるかわからないからこそ、最低限の礼儀はつくしてくれている。

 ……物を盗んだり、危害を加えないだけマシよね。

 私を部屋へと連れてきたメイドが身支度を整えてくれているが、「仕事」としてそれをこなしてくれている。
 母に叩かれた頬は、赤く腫れているが化粧のおかげで赤みは目立たなくなっていた。
 
「アルシェ家のクロード様がきました」

 声がかかり、私は応接間へと向かった。

「久しぶりだね。アイオラ嬢」

 クロードが人好きのする笑みを浮かべる。
 アルシェ家の爵位は、カドラ家と同じ伯爵だ。
 祖父同士が仲が良く。生まれた子供の年齢があえば婚姻させよう。という、口約束から私とクロードの婚約は生まれる前から決まっていた。
 クロードは金髪碧眼の彼は心優しき王子様のような見た目をしている。
 実際に、彼は「婚約者だった時のアイオラ」に対しては、冷たく接することはなかった。
 どちらかというと優しかったと思う。

 だから、アイオラはクロードに執着してしまった。

 この物語のヒーローはクロードだ。

「クロード様。お久しぶりです」

 私が笑みを浮かべると、クロードは笑みを崩すことなく私の顔を見ている。
 腫れがあっている頬に気がつかないはずがないのに。

「お元気そうですね」

 クロードは、何も見えていないかのようにそう言った。

「何一つ変わらずです」

 母は私に辛く当たり。他の家族はそれを見て見ぬふりをしている。
 そして、婚約者ですら心を通わせるつもりもない様子なのが見て取れる。
 何一つ変わらない地獄みたいな状況だ。

 今なら、物語の中でアイオラが傲慢で性悪な女だった理由がわかるような気がした。

 孤独だったのだ。誰からも愛されず。人の愛し方も知らない。
 見せかけの優しさに縋りつき執着した。アイオラは、どれだけ寂しく悲しい思いをして生きてきたのだろうか。

 彼女はなるべくして悪女になったのだと私は思う。

「クロード様!」

 私の思考を遮るように、明るい声が応接間に響いた。
 妹のシエナの声だ。

「クロード様!お会いしたかったです」

 シエナは、私など見えない様子でクロードの隣に座る。
 クロードは少し戸惑った様子で、笑みを浮かべる。
 
「シエナ嬢。お久しぶりですね」

 こうして、二人だけの時間が始まった。

 私はそれを冷めた目で見ながら立ち上がる。

「気分が悪いので部屋に戻ります」

 シエナは、ようやく私の存在に気がついた様子で、意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「あら、いらしていたの?」

 彼女が私を透明人間にするのはいつものことだ。
 人前でそれをするのはどうかと思うのだけれど。
 
「ええ、ずっといました」
「アイオラ嬢、大丈夫ですか?」

 私がにっこりと笑い返すと、クロードが気遣わしげな顔で問いかけてきた。
 これも、いつものことだ。

 婚約者が交代する可能性は高く。だから、どちらに対してもいい顔をしないといけないのだ。
 シエナの顔が悔しげに歪むのがわかる。

 本当に最低な男だ。誰に対してもいい顔をしようとする。

「お気になさらず。では失礼します。ごゆっくりお過ごしください」

 部屋に戻り。ベッドに横になり目を閉じる。
 これから自分はどうしたらいいのか考えなくてはいけない。

 傲慢な聖女にならなくても、このままでは「悪役」に仕立て上げられる可能性が高い。
 
 なぜなら、この物語そのものが、カオリのための物語になっているからだ。
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