聖女様の生き残り術

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本の中では敵対していた存在

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 神殿に到着すると、見覚えのある神官がやってきた。
 本の中でも何度か登場した人物だ。
 アイオラに強く当たられて、恨みを持っていたはずだ。
 名前は確か、アンヌだった。
 アンヌはくすんだ茶色の髪の毛と瞳をしている。
 小説では、ドブネズミのようだと表現されていたが、リスのような可愛らしさと溌剌とした雰囲気を出していた。
 年齢は20歳くらいだろうか。
 アンヌは、私の顔を見るなり目を見開き驚いた顔をして、眉を顰めた。
 声すらかけていないが、「悪役」という私の立ち位置から、もしかしたら、理不尽だが初対面でも嫌われるような呪いでもかけられているのかもしれない。

 もしそうなら、どうしようもないわね。

 でも、何もしないままでは、良い方向には進まない。

「お祈りをしたくて、あの、私がいたらダメでしょうか?」

 恐る恐る声をかけると彼女は、ハッと何かに気がついた様子で取り繕ったような笑みを浮かべた。

「いえ、こちらにきてください」

 言うなり彼女は私の腕を掴んだ。
 おそらく女神アルナを祀っている祭壇へと案内してくれるのだろう。

 私は、アンヌにつれられるままに歩き出す。
 身長の差があるが、ゆっくりと歩いてくれているので、歩きやすかった。

 私のいるザルツ王国は、女神アルナを一神教として信仰している。

 物語上としてのざっくりとした設定として、女神アルナが現れるまでこの世界では、瘴気により変異した禍々しい土地や、魔獣が多く存在していたらしい。
 それを女神アルナが浄化してこの世界が作られた。
 しかし、それでも人の汚れた心から瘴気は発生して、人々を脅かす。
 それを憂いた女神アルナが、浄化のために定期的に少女に神聖力を与えるのだ。
 力を与えられた少女が聖女になるのだ。
 そして、神聖力を与えられた聖女は、世界の安寧のために祈りを捧げるのだ。
 こうして、世界の安寧は成り立っている。

 と、アルナ教は謳っている。

 ちなみに、神殿は私が住んでいる王都と、東西南北の主要都市と自治区に存在している。

 神聖力を持つ少女が現れる周期はかなりまちまちで、100年現れない事もあるようだ。
 
 そのせいで、聖女が現れるとかなり祭り上げられる。

 聖女になる少女の大半は性格が悪く、アイオラも例に漏れずそうだった。

 今まで踏みつけにされて生きた少女が国を救う聖女だと知ったら、そうなるのも仕方ない気がする。

 ……自分は、死にたくないのでそうならないように気をつけたい。

 考えている間にアンヌの足が止まった。

「着きましたよ」
「あ、ありがとうございます」

 しかし、到着した場所は祭壇というよりも、誰かの私室の扉の前にしか見えなかった。
 
「あの、ここは?」

 私の問いかけに、アンヌは何も言わずに部屋のドアをノックし始めた。

「マリネッタ様!」

 予想していない人物の名前を聞いて、私は背中に汗をかく。
 神殿には何度も通い地道に神官に認知されて、マリネッタに顔を覚えてもらおうと考えていたのだ。
 なぜ、アンヌはマリネッタを呼び出すのか。
 
「どうしたの?」

 マリネッタは、何か作業でもしていたのだろう。急に呼び出されて不機嫌そうな顔をしてドアを開けた。

 マリネッタは、二十代半の女性で、金色の髪と藍色の瞳をしている。

 本の中では、カオリをとても大切にしていた。

 それを思い出すと途端に不安になった。
 もしかしたら、神殿には来るなと言われてしまうかもしれない。
 愛され聖女の物語。というタイトルから私の「何か」が誰かを不快にさせてしまうかもしれない。
 
「あの、私、何かしましたか?何か悪い事でも」

 私が不安になってマリネッタを見つめると、彼女もアンヌと同じように眉を顰めた。
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