今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

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トリスタン1

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トリスタン1

 ポーリーンは、所謂幼馴染という関係の女の子だ。
 彼女が赤ん坊の時から、僕は彼女のことを知っている。
 初めて彼女と出会った時のことを今も覚えている。
 まだ、2歳の僕が覚えているなんておかしな話なのだけれど。
 それはもう衝撃的だったのだ。

「……」

 アイスブルーの瞳は夏の湖畔のように澄んでいて、そこに映し出された自分の顔は不思議そうにしていた。
 温かな小さな手が僕の指を掴んだ瞬間。
 僕はとても嬉しかった。

 彼女は僕が守らないといけない存在なのだと、この時から思っていた。

 ポーリーンはすくすくと大きくなり。僕の後ろをアヒルのようについて回った。
 鬱陶しいなどと思った事は一度もなくて、可愛くて、可愛くて、いつも一緒に遊んだ。

「どっちが、兄かわからなくなるな」

 ポーリーンの兄のロータスは、いつもこうぼやいて苦笑いした。
 ポーリーンは、生まれてくるお腹を間違えただけで僕の妹だ。

 本当に妹だったらよかったのに。

 そんな事をいつも思っていた。
 女の子は、男の子よりも言葉を早く覚えてませている。と、姉はよく話していた。
 ポーリーンもやはりそうだった。

 彼女が5歳になった頃だ。
 ポーリーンはとんでもない事を言い出した。

「私、ロータスと結婚するの」

 誰かに教えられたのだろう。ポーリーンはロータスと結婚する。と、宣言したのだ。
 ロータスは、というと嬉しさのあまりその場で男泣きをし出した。
 この男は大概妹が大好きなのだ。
 
「僕は兄だから結婚はできないよ」

 ロータスは、心底残念そうにポーリーンにできない。と、伝えた。
 ポーリーンは、残念そうな顔をして、すぐに僕の顔を見た。
 
「……そうなの?じゃあ、トリスタンは?」

 矛先が僕に向かい。ドキリとした。
 
「血が繋がってないからできるよ」

 ロータスが笑いを必死に堪えてそう答えると、ポーリーンの瞳はキラキラと輝いた。
 はちみつ色の髪の毛とアイスブルーの瞳を持つポーリーンは、贔屓なく見てもとても可愛かった。
 ロータスの顔立ちも整っているが、ポーリーンはもっと綺麗な顔立ちをしている。
 幼い時からこんなにも可愛い子はなかなかいないと、誰もが話していた。
 
「じゃあ、トリスタンと結婚する!ずっと一緒ね」
「プロポーズされちゃったね」

 茶化すロータスを見ながら、僕は漠然とポーリーンと結婚するのだと思うようになった。

「……うん、結婚しよう」

 たぶん、この時から僕はポーリーンの事を妹として見なくなっていた。
 そうこうしている間に、ロータスが王立学園に行く日がきた。

「お兄様、私のこと忘れないでね。忘れっぽいから」

 おませなポーリーンは、なかなか生意気な事を言うようになった。
 
「それ酷い」
 
 ロータスは、それを楽しそうに笑っていた。

「トリスタン。ポーリーンの事を頼むぞ、このじゃじゃ馬は何をするのかわからないからな。君しか頼りにならない」

 ロータスもロータスでなかなか酷い。

「大丈夫」

 僕は任せておけと頷いた。
 それからしばらくして「事件」が起きるなんて、僕は思いもしなかった。
 



~~~

お読みくださりありがとうございます

トリスタンがヒーローですので、はい

サナがヒーローではありませんので

ご理解をお願いします
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