好きだと言いたかった

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 関係が壊れるのは案外呆気ないことが多い気がする。
 私と手塚の関係も壊れかけていた。
 ……というよりも、気まずさから一方的に手塚を避けてしまっていた。

「ちょっといい?」

 会社でいつものように声をかけられるだけで、私の身体は強張り顔が熱くなっていく。
 
「あ、何?」

 目を合わせて話さないといけないのに、気まずさに目線を彷徨わせてしまう。
 いけないとわかっていても変に意識してしまう。それがとても気恥ずかしくて、気付かれたくなくて、つい、そっけない態度を取ってしまう自分がいた。

 この気まずさは時間が解決してくれるものだと私は思っていた。

 きっと、手塚が言いかけていたのは、距離が近すぎたせいで何か思い違いをしていたのだろう。と。

 けれど、曖昧な時間はすぐに終わりを告げた。

「話があるんだけど、二人で話さない?」

 仕事を終えて、急ぎ気味で帰り支度をしていると手塚に声をかけられた。

「あ、何?ここじゃダメなの?」

 気まずさに顔をちゃんと見ることができない。
 それに、二人きりになるのは変に意識しそうで怖い。
 私は、できればその場で話を終わらせたかった。
 
「静かに話せる場所がいい」

 いつになく真剣な表情に、私はそれを無視してまで断る理由を探すことができなかった。

「話って何?」

 手塚に連れて行かれたのは落ち着いた居酒屋で、予約をしたのだろうか個室だった。
 二人きりという圧迫感から私は早く解放されたくて、すぐに本題に入った。

「とりあえずゆっくり飲もうよ」

 言われるままに、手塚によって酒が注がれる。
 口をつけると、途端に顔が熱くなる。
 しばらくの沈黙の後に、手塚から口を開いた。

「俺さ、異動することになった」

 突然の報告。私はどう反応すべきか悩んだ。
 この気まずさのままずっと顔を合わせる事をしなくて済むことに安堵すればいいのか、それとも寂しがるべきなのか。
 
「え?どこ?」

 私はそれを顔に出さないようにして、どこに異動なのか聞くことにした。
 
「本社、この前の企画が良かったみたいでさ」

 私たちのいる支社と本社はかなり距離が離れている。
 たまに会おう。ということもできなくなるだろう。

 ああ、寂しいな。

 もう会えないだろう。という、別れを感じて、私は初めて寂しさを感じた。

 先を越されたとか、そういった気持ちがないのは嘘になるけれど。
 
「……おめでとう」

 何とか唇に乗せる事ができた「おめでとう」という言葉はあまりにも小さくて、思っていた以上にショックを受けていることに気がついた。

「この際だから、はっきりさせときたい」

 手塚はいつになく真剣な表情で私の手を握った。

「俺のことをどう思ってる?」

 先延ばしにした答えを手塚は求めてきた。
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