私のことは愛さなくても結構です

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売られた喧嘩を買うのが人の優しさ

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 頭が痛い。熱が下がらない。
 
「ゴホッ」

 咳が止まらない。とにかく苦しい。
 一ヶ月近く寝込んでいた。
 何度か意識を失うことがあり、起きることもできなければ食事をまともに摂ることができなかった。
 
 医者からは「肺炎」の診断を受けた。

 医者には、何か思い当たることはありますか?と聞かれた。
 
 思い当たるのは、寒空の下で待たされた事だけだ。それ以外に理由があるのなら、勝手に風邪の原因を決めつけた事を私は反省するつもりだ。

 そもそも姉以外に親しい人もいないので、誰かと会うこともないので、本当に原因がそれしかないのだ。
 
 わたしは、友達のいない引きこもりだ。

 友達がいない理由は、はい、気が弱く繊細で口下手で誰とも話せないからだ。
 今はそこに触れないでおこう。友達のいない私があまりにも可哀想だから。

 他から、風邪をもらうとしたらジークムントの可能性が高い。
 あの男は、バカだから風邪菌を持っていても、本人は無自覚で人に撒き散らかしている可能性がある。
 生物兵器かクソ野郎。

 まあ、だからといってジークムントが持っていた風邪菌に、私の身体の抵抗力が負けるはずがない。と言い切れるのだけれど。
 風邪菌とはいえ、アイツに負けるのは癪だ。

 本調子までに戻るのに二ヶ月必要だったが、その間にジークムントからの手紙は一通もなかった。

「まあ、つまりそういうことよね」

 そういえば、私の風邪の心配どころか、寝込んでいる姉に対してのお見舞いの言葉すらもらっていない。
 私たちにとことん興味がないのだろう。地獄に堕ちろこの野郎。

「あいつら、全員私のことを舐めているんだわ」

 きっと、私がもしも肺炎で亡くなったとしても、あいつらは全く責任なんて感じていないだろうし、自分たちの行動のせいだとは思いもしない。
 他人事のように、あら、死んだの?うふふ、可哀想。それくらいしか思わない気がした。
 聖騎士だか、公爵家だか何だか知らないが、高貴な身分の人間の心根の「美しさ」を知ることができた気がする。

「あの野郎。死ぬほど後悔させてやる」

 つまり、あいつらは全員私に喧嘩を売っているのだ。

 かつて、この国の王女様だった。ばば……、お婆様が話していた。

「売られた喧嘩は全部買え」

 売られた喧嘩を買わないということは、喧嘩を売ってきた人間を見下しバカにしているということになる。
 買ってやるのが人としての優しさだと。
 そして、逆らえば終わりだと思うまで叩き潰せ。それが優しさと相手をリスペクトしている事になる。

 と、言われ続けて育てられたのだ。

 情けをかけてはいけない。それは、相手を格下だと見下すのと同じになるから。だから手加減はしない。

「……やってやろうじゃない」

 私は早速、ジークムントに手紙を書いた。

 初顔合わせは、まともにできなかったので今回は私の屋敷でやりましょう。と、記しておいた。

「向こうの礼儀は網羅したわ」

 やられたことをやり返す。それだけの事。

「ふふふ、向こうはきっと私の礼儀に感動するはずよ」

 あんなの、どう考えても侮辱でしかないけれど、されたことをやり返すだけなのだから、問題はないはずだ。

 無礼だと言われたらこう返せばいい。

 未成年を寒空の下に放置して、肺炎で殺しかけたお前たちの方が無礼以下なのでは?と。
 向こうは殺人未遂をしているようなものなのだから、何も言い返せないはずだ。



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