私のことは愛さなくても結構です

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お前が言うな案件

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「アルネ、流石にそれはいけない」

 珍しく、ジークムントがアルネに否定的な言葉を出した。

「ジークムント、でも、処罰される使用人が可哀想ですよ」

 アルネはまだ何かほざいている。
 だったら同じ事をされてから言ってみろよ。って話だ。

「あのですね。何でも許すことが、優しさだとは私は思わないんですよね」
「え?」

 アルネは不思議そうな顔をして首を傾けた。

「二人とも、私に許せと強要しましたけど、許してこの人たちは改心すると思いますか?」
「しないだろうな」

 ジークムントが、すぐに答える。
 なんだよ。意外とよくわかってるじゃないか。
 ちゃんと考える脳みそ持ってるんじゃん。よかった。
 人としての最低の最低さらにその下の下のラインには来ていたようだ。

「おぼっちゃま!」

 メイドたちは、裏切られたと言わんばかりにジークムントを呼んだ。

「こういう連中を許し続けたら死ぬまで食い物にされますよ。予定では私は貴方と結婚しますけど、そうなった時、この人たちは何をすると思いますか?前回やった事以上のことをするようになります。まあ、すぐに他人になると思いますが、それでも受け入れて許せと?」

 しれっと離婚を仄めかしたが、誰一人として突っ込むことはしない。
 つまり離婚する事への言質はとったと捉えてもいいはず。

「それに、マホガニー家は、由緒正しい家だ。没落したとよくも言えたものだな」
「クラウス様、ありがとうございます」

 クラウスが、静かに怒りを露わにしてくれて、私は嬉しくなった。
 やはり、名前が似ているから、彼はとても素晴らしい人柄なのだと思う。

「処分は甘くしないから安心して欲しい」
「貴方に言われて信用できると思いますか?」
「僕が保証するから」

 ジークムントに、言われても信用ならない。
 それでも、クラウスに言われたら、信用しようと思えた。
 やはり、フィーリングというやつなのか。

「……わかりました。それなら安心してお任せできます」

 クラウスは、よかったと言わんばかりに微笑んだ。
 その笑顔がとても優しくて、それはもう素敵だ。
 私と名前が一文字違いなのも、いい。最高。

「アルネ、悪いけどこれは流石に許したらいけないことだよ」

 クラウスは、頭ごなしに否定せずにアルネを諭した。

「でも……っ」

 アルネは、納得出来ない様子だ。

「家族同然の大切な人たちなのはわかる。クラリス嬢の気持ちになって考えてくれ。僕だって驚いている。でも、没落していない家を没落したと吹聴するのも、没落していたとしてもクラリス嬢にこんな事をしてはいけない」

 今度はジークムントが、アルネを諭す。

 お前が言うな。案件でしかないのだが。
 ここで、何か言ったらクラウスに幻滅されてしまうかもしれない。黙ろう。

「一応、私も王位継承権を持っているので、それを害した事実もあるので、これでも穏便に考えてるつもりなんですけどね」
「嘘よ!」

 メイドの一人が、否定してきた。

「黙れ!話が長くなるだろ!余計な事しか言えのないなら口を縫い付けるぞ!」
「ひっ!」
 
「……わかりました」

 アルネは、本当に渋々といった様子で頷いた。

「最初の顔合わせの時に、何も言えなくてごめんね。その、サブリナ嬢が少しでも早く回復する事を祈っているよ」
「ありがとうございます。クラウス様、初めて姉へのお見舞いの言葉をもらいました」

 クラウスからのお見舞いの言葉に私は感激した。
 ジークムントやアルネからは一度もそんな事を言われなかったからだ。

「……すまない」

 ジークムントは、私に言われて気がついたのか、気まずそうに謝ってきた。
 どうせ、少しも悪いとは思ってないくせに。

「謝らなくていいですよ。貴方には何も期待していないので」

 私がにっこりと笑い言い返すと、ジークムントは項垂れた。

「ジークムント、悪いけど僕も君の擁護ができない」

 クラウスからも優しくボロクソに言われてざまあみろ。と、思った。
 気まずそうな兄弟ではあるが、意外と関係はいいのかもしれない。
 
「馬車まで送ろう」
「一人で行けます」

 ジークムントのエスコートを私は断った。
 ついてこられるのも鬱陶しいからだ。
 応接間から出ると、ジークムントにクラウスが話かける声が聞こえた。

「ジーク、少しいいかい?」
「はい」
「君は正義感があっていい人だ。でも、権力を持っている自覚をちゃんと持とう。人の話をよく聞こう。付き合いが長くても、自分に優しくてもそれは一面でしかないんだ。悪い面は誰にでもある」

 静かに始まる説教。
 ジークムントは、しおしおになりながらクラウスの説教を聞いている。意外と素直なのか。
 私は姉のことを思い出して少し寂しくなった。
 仲良しの兄弟が元気でいるのは、とても幸せな事だと思う。
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