私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

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ヒョロいんでチョロイン

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 調査が終わったのは一週間後だった。
 クラウスとジークムントとアルネがわざわざうちまで報告しにやってきた。
 それぞれから挨拶をされたが、態度が全く違う。
 ジークムントとアルネは気まずそうに。
 クラウスは、気まずさなど全く感じさせない態度だった。
 
「あ、来たんですね。貴方がいて何か話したところで信用するつもりもないので来なくてもよかったのに」
「ぐっ……」

 私の物言いにジークムントが今にも泣きそうな表情で俯いた。
 どんだけメンタルが弱いんだ。子供にここまで言われて怒るどころか悲しむだなんて。情けない。

「これ、あのプレゼントです。よかったらどうぞ」

 ジークムントが私にピンク色の薔薇の花束を差し出してきた。
 なんだ、こいつわかっているじゃないか

「ありがとうございます!お姉様のお部屋にかざりますね。いやぁ、よくわかってますね。お姉様、薔薇が好きで、特にこの色が私の髪の毛と『さくら』に似てるから大好きなんですよ」
「よ、喜んでもらえて嬉しい。あと、これも、珍しい砂糖菓子だ」

 薔薇はいい香りだし、砂糖菓子は、カラフルで小さくてトゲトゲしていて可愛い。
 ……こっそり食べるおやつには最適だ。
 なんだ。少しだけ見直した。
 クラウスは、口元を手で押さえて肩を少し揺らすという特殊技能をなぜか披露している。
 面白い兄弟だ。
 アルネは、というと姉の薔薇を狙っているのか猛禽類の目で私を見ている。やらないぞ。

「調査して、これが結果です」
「ありがとうございます」

 渡された調査書に目を通す。
 かなり詳細に調べてくれたようで、私の証言が間違っていないことがしっかりと記されていた。
 ジークムントとアルネを見るが、本当に気まずそうに俯いている。

「それで、処罰についてなんですが、こちらとしては、慰謝料をジークムントの個人の資産から支払うのと、治療費と慰謝料をメイドたちから支払わせる予定です。もちろん既に辞めさせているので貴女に危害を加えることはないので安心してください」

 クラウスの説明に私は目を見開いた。
 メイドたちからの慰謝料ならわかる。だが、ジークムントが直接何かしたわけではないし、使用人に甘いだけで慰謝料をもらう理由にはならない気がした。

「貴方も慰謝料を払うんですか」
「僕にも問題があったので、お金で解決するわけじゃないけど、受け取って欲しい。許さなくてもいいから。本当に、申し訳なかった」

 ジークムントは、本当に申し訳なさそうに謝ってきたが貰う理由もない。
 というか、慰謝料を払うのはこの男の罪悪感を減らすためだけの行為だ。
 いらない。と、言おうと思った。
 
「クラリス嬢の個人的なお小遣いとして、持っていてくれないか?サブリナ嬢に花を買ってあげたり、元気になった時にきっと旅行に行くだろう?その時にでも使ってくれると嬉しいんだが」

 ジークムントにそう言われて、言葉を引っ込める。
 受け取らない事よりも、姉に花を買ってあげたり、元気になってからのお楽しみに使うのもいいかもしれない。
 なんだ、よくわかってるじゃないか。こいつ。少し見直した。
 
 ……だが、受け取らない。という意思表示もした方がいいこともある。

「メイドたちからの慰謝料は必要ありません。治療費はもらいますが」
「なぜ?」

 人は落ちぶれると人ではなくなる。と私は思っている。

「仕事もなくしたのでしょう?お金払えないと思うんですよ。……貧しくなって子供を売るとかされるのは後味悪いというか、そこまでされて恨みを買いたくないというか、その代わりにやったことをすべて公開して、他の貴族の家で働けないようにしてください」

 嫌な奴らだったが、お金がなくなり子供を売るような人間に成り果てたら私は嫌だ。
 ていうか、自分のせいにされそうで嫌だ。
 あと、こういう末路を辿る人間は長生きしない。

「わかった。でも、処罰としては甘くないかい?」
「大丈夫です。向こうの血縁者は重要な仕事には就けなくなると思うので、それで十分かと」

 これが地味に堪えるのを私は知っている。
 意外と重要な仕事に就く時、その人の背景まで調べる事は少なくない。
 その時に「親のやらかし、身内のやらかし」のせいで、やりたい仕事ができなくなったとしたら、それはもう地獄になるだろう。
 死ぬまで針の筵なのは結構辛い。
 落ちぶれて早死にするよりも、長生きして針の筵の方が私は嫌だ。
 貴族で働いている人の身内は、意外とそういう仕事に就いたりするものだ。

「確かに、それでいいなら、そうしよう」

 クラウスは、私の言いたい事を察したかのように頷いた。
 だが、ジークムントは気になっている。

「君はいいのか?」
「いいって言ってるじゃないですか」
「す、すまない」

 冷たく突き放すと、ジークムントは、眉を下げて謝る。

「この件の他に大切な用事があるんだろう?言ったらどうだ。ジーク」

 クラウスは、ジークムントを軽く肘打ちした。
 早く言えと言わんばかりに。




~~~

こいつは姉が絡むと途端にチョロくなるんだ……


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