私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
16 / 63

繊細で気が弱い

しおりを挟む
15


「あの、今度、王家主催の夜会があるだろう?そのエスコートしてもいいだろうか」
「そんなものあったか?」
「急遽決まったんだ」
 
 でも、王命での婚約をしているもののまだ公表はしていない。

「えっと、婚約発表もまだですし、大丈夫なんですかそれって」

 ジークムントは、人気だ。
 私は可愛いけれど、姉から見たら世界一可愛いのであって、客観的に見ると普通くらいだ。
 釣り合いは取れていない。

「発表してなくても、別に良くないか」
「ですが」

 良くないだろ。ジークムントにエスコートされるポッと出の私。
 間違いなく恐ろしいお姉様方にいびられる。
 あんたにはジーク様は相応しくない。とか、なんとか言われそうだ。
 とても、繊細で気が弱い私がそんな地獄で生き残れるはずがない。

「ジーク、私をエスコートしてくれないの?前はよくしてくれたのに、困っているじゃないクラリスさんも」

 挨拶以降、ずっと空気だったアルネが唐突にそんな事を言い出す。
 この女、常識がないのか。
 勝手にすればいい。とは、思うが、なんだかムカつくなこの女。

「僕の婚約者はクラリス嬢だ。たとえ、クラリス嬢のエスコートをしなくても君のエスコートはしない」

 ジークムントは、意外にもキッパリとアルネの提案を断った。
 あれ?彼女のことを好きなんじゃないのか。
 まあ、別に私はこいつに愛されなくても結構だが。
 
「その、皇太子から直々に言われて、何か発表があるから一緒にいてくれって」
「発表の場に一緒にいればいいだけで、エスコートはしなくてもいいのでは?アルネは兄さんがいるじゃないか」

 なぜか言い合いになっている。
 痴話喧嘩は好きにやればいいけど、私を間に挟んでやるのはやめてくれないだろうか。迷惑だ。
 クラウスはそのやり取りを見ているだけで何も言わない。いいのか、それで、自分の婚約者がアホなこと言い出しているのに。

「あ~、面倒なのでいいです。エスコートも必要ないです」
「僕がエスコートしようか?」

 私が断ると今度はクラウスがエスコートを提案してきた。

「え、クラウス様がですか?」

 私が驚いていると、彼は私の耳元で小さな声で話し出した。
 
『実は、今回の件でアルネがヘソを曲げてしまって、僕や君を困らせようとやっているんだ。ちょっと仕返しをしないか?』

 聖女のくせに意外と心が狭いな。
 クラウスもわかっていて、こういう提案をしてきたように思える。
 彼も意外といい性格をしているのかもしれない。
 
「クラウスは、私の婚約者でしょう?だめよ!」
「君はジークムントがエスコートするんだし、別に問題はないだろう?クラリス嬢、仲良く参加しようか」

 アルネがダメだと怒るが、クラウスはどこ吹く風だ。
 怒らせたらいけないタイプなのは、こういう男なのかもしれない。
 こういう時は、逆らわないで乗るのが一番だ。

「そうしましょう!」
「そんな僕が婚約者なのに」

 ジークムントがショックを受けている。
 アルネと好きに乳繰り合ってればいい。なんなら勝手にくっついてそれぞれ婚約破棄になればいいのに。
 クラリスは理想的な男だと思う。

「ところで、サブリナ嬢はどうかな?」

 ジークムントの質問に、私は目を伏せた。

「あまり代わりませんね」
「……そうか」

 気遣わしげな視線。
 彼もクラウスの事を大切に思っているようなので、私の気持ちもわかるようだ。
 彼が真人間でよかった。

「彼女の好きな香油とか、石鹸とか保湿剤とか、教えて貰えば贈りたいんだが、もらっても迷惑じゃないだろうか?できれば一緒に選びたいのだが」

 よくわかってるじゃないか。コイツ。
 私はジークムントのことを少し見直した。

「ありがとうございます!喜んで受け取ります」

 だからといって、コイツと一生を共にする気は毛頭ないけれど。
 どうやったら結婚から逃げられるのか。

 一番お手軽な方法は、アルネとジークムントがくっつくことではないか。と、今閃いたのだ。

 そうと決まれば、私は二人をくっつくために動こうと決めた。
 だが、それはすぐに邪魔された。

「それで、いつ一緒に見に行く?」
「……」

 お前と交流するつもりはない!と、言いたかったが。すぐにクラウスが「いい考えだね!」とそれに乗ってしまったので言葉を飲み込む。

「初めてのデートだね」

 と、悪気なくクラウスが言うので、想像して鳥肌がたった。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...