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恋した人
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恋した人
何かと兄と差をつけられて育てられて生きてきた。
僕にとって幸だったのは、兄が誰よりも僕に寄り添ってくれたことだ。
そのおかげで鬱屈した子供にはならないで済んだ。
使用人の何人かが不当な扱いをうける僕を不憫に思ってくれたことも大きかった。
そこにアルネも加わって、僕は幸せだった。
アルネは、悲惨な目に遭ったけれど、その元凶になった人たちのことを恨んではいなかった。
「誰かを傷つけるよりも傷つけられるほうがいいわ。だから、私は許すの」
そういう彼女の心の綺麗なところに僕の心も救われたのだ。
僕がアルネに恋をしたのはかなり早かったと思う。それと同時に、アルネと兄が相思相愛であることにも早くに気がついた。
二人の間に入り込もうという気持ちは全くなかった。
二人が幸せでさえいればそれでよかった。
この三人の関係がギクシャクし始めたのは、「運悪く」僕とアルネに神聖力に目覚めてしまってから。
途端に兄と僕の評価が逆転したのだ。
「あの子が長男だったらよかったのに」
両親がそうぼやいていたのを僕は聞き逃さなかった。
まるで僕たちを争わせて、憎しみ合わせたいかのように、僕の方がバーナー公爵に相応しいと言い出す連中まで現れた。
僕がその度に抗議すると、「クラウス様の顔色を見ているのですね」と憐れまれた。
違うんだ。と、何度言っても誰も聞いてはくれない。
僕が何よりも不安だったのは、兄が傷ついていないか。だった。
けれど、兄は大したことないかのように「そういうこともあるよね」と困った顔で笑うのみだった。
かなり傷ついているのは見ていてわかった。
多分、アルネが態度を変えずに接してくれていたから、そのおかげで兄の心が持っていたのだと思う。
神殿の神官と共に訓練や準備を経て、僕たちは瘴気を祓う旅に出ることになった。
20歳になった時だ。
「アルネ、旅から戻って来たら結婚しよう」
見送りの時、クラウスがアルネを抱きしめてそう言った。
僕はそれを見つめながら、まだアルネへの想いを捨て去る自信はないけれど、それでもこの度を大切な思い出として心にしまおうと思った。
旅は危険と隣り合わせだった。
化け物はまだ出ていないものの、それでも、注意を怠る事はできなかった。死者は出なかったが、怪我人は多く出た。
化け物にはならなくても、瘴気の影響を受けた野生の動物たちの駆除で怪我をする仲間たちが多かったのだ。
瘴気を祓う作業は簡単なもので、瘴気が生まれる歪みに僕が神聖力で結界を張り、アルネがその中で祈りを捧げて祓うのだ。
「……」
今日もアルネが瘴気に向かって祈りを捧げている。
その横顔は、瘴気に苦しむ人達を気遣う想いに満ちていた。
僕はその横顔が好きだった。
兄すらも知らないアルネの姿だから。
「……っ、」
急に地面が小さく揺れた。
瘴気の影響なのか、大きな爆発音の後に大きく地面が揺れ出した。
「きゃっ!」
「危ない!」
僕は、慌ててアルネを守ろうと手を伸ばす。
アルネの指先がほんの少しだけ瘴気に触れそうになった。
「アルネ?!」
僕は、アルネの名前を呼ぶ。
瘴気は近くにいるだけでも人体への影響がある。
僕とアルネには神聖力があるものの、触れて安全とは言い切れない。
「びっくりしたわね」
アルネは何事もなかったかのように微笑んだ。いつもと同じように。
旅が長引くとアルネが不安定になっていった。
瘴気の影響で触れそうになったせいもあるかもしれない。聖女は少なからずそうなるらしい。
「ジーク」
不安げな顔で抱きつかれるたび、僕は拷問を受けるような苦しみを味わう。
なぜなら、アルネは僕のことをただの友達としてしか見ていないから。
旅が終わる頃。
アルネには、僕に好意があるのではないのかと勘違いしてしまいそうなほどに、距離が近くなっていた。
無邪気に顔を近づけられる度に、知られたくない感情に気付かれそうな気がして僕は怖かった。
旅は僕が23歳の時に終わった。
アルネとの距離の取り方を見つけられないまま、僕たちは帰ることになった。
「アルネは、帰ったらどうするつもりなんだ?」
「クラウスと結婚するわ」
幸せそうな顔で話すアルネに、僕は早く自分の気持ちを捨てなければならないと考えていた。
兄は地盤固めが既にできていて、爵位を引き継いではいないけれど、両親を領地に住まわせている。
アルネの受け入れはできていた。
そこに、僕への縁談話が持ち上がった。
王位継承権を持つサブリナとの婚約だった。
~~~
誰も待っていないジークムント視点です
コンテスト五位に食い込んでいました!
ありがとうございます
明日はどうなっているのかわからないので、とりあえずスクショしました(笑)
100位以内に入っていたらいいなぁ……
何かと兄と差をつけられて育てられて生きてきた。
僕にとって幸だったのは、兄が誰よりも僕に寄り添ってくれたことだ。
そのおかげで鬱屈した子供にはならないで済んだ。
使用人の何人かが不当な扱いをうける僕を不憫に思ってくれたことも大きかった。
そこにアルネも加わって、僕は幸せだった。
アルネは、悲惨な目に遭ったけれど、その元凶になった人たちのことを恨んではいなかった。
「誰かを傷つけるよりも傷つけられるほうがいいわ。だから、私は許すの」
そういう彼女の心の綺麗なところに僕の心も救われたのだ。
僕がアルネに恋をしたのはかなり早かったと思う。それと同時に、アルネと兄が相思相愛であることにも早くに気がついた。
二人の間に入り込もうという気持ちは全くなかった。
二人が幸せでさえいればそれでよかった。
この三人の関係がギクシャクし始めたのは、「運悪く」僕とアルネに神聖力に目覚めてしまってから。
途端に兄と僕の評価が逆転したのだ。
「あの子が長男だったらよかったのに」
両親がそうぼやいていたのを僕は聞き逃さなかった。
まるで僕たちを争わせて、憎しみ合わせたいかのように、僕の方がバーナー公爵に相応しいと言い出す連中まで現れた。
僕がその度に抗議すると、「クラウス様の顔色を見ているのですね」と憐れまれた。
違うんだ。と、何度言っても誰も聞いてはくれない。
僕が何よりも不安だったのは、兄が傷ついていないか。だった。
けれど、兄は大したことないかのように「そういうこともあるよね」と困った顔で笑うのみだった。
かなり傷ついているのは見ていてわかった。
多分、アルネが態度を変えずに接してくれていたから、そのおかげで兄の心が持っていたのだと思う。
神殿の神官と共に訓練や準備を経て、僕たちは瘴気を祓う旅に出ることになった。
20歳になった時だ。
「アルネ、旅から戻って来たら結婚しよう」
見送りの時、クラウスがアルネを抱きしめてそう言った。
僕はそれを見つめながら、まだアルネへの想いを捨て去る自信はないけれど、それでもこの度を大切な思い出として心にしまおうと思った。
旅は危険と隣り合わせだった。
化け物はまだ出ていないものの、それでも、注意を怠る事はできなかった。死者は出なかったが、怪我人は多く出た。
化け物にはならなくても、瘴気の影響を受けた野生の動物たちの駆除で怪我をする仲間たちが多かったのだ。
瘴気を祓う作業は簡単なもので、瘴気が生まれる歪みに僕が神聖力で結界を張り、アルネがその中で祈りを捧げて祓うのだ。
「……」
今日もアルネが瘴気に向かって祈りを捧げている。
その横顔は、瘴気に苦しむ人達を気遣う想いに満ちていた。
僕はその横顔が好きだった。
兄すらも知らないアルネの姿だから。
「……っ、」
急に地面が小さく揺れた。
瘴気の影響なのか、大きな爆発音の後に大きく地面が揺れ出した。
「きゃっ!」
「危ない!」
僕は、慌ててアルネを守ろうと手を伸ばす。
アルネの指先がほんの少しだけ瘴気に触れそうになった。
「アルネ?!」
僕は、アルネの名前を呼ぶ。
瘴気は近くにいるだけでも人体への影響がある。
僕とアルネには神聖力があるものの、触れて安全とは言い切れない。
「びっくりしたわね」
アルネは何事もなかったかのように微笑んだ。いつもと同じように。
旅が長引くとアルネが不安定になっていった。
瘴気の影響で触れそうになったせいもあるかもしれない。聖女は少なからずそうなるらしい。
「ジーク」
不安げな顔で抱きつかれるたび、僕は拷問を受けるような苦しみを味わう。
なぜなら、アルネは僕のことをただの友達としてしか見ていないから。
旅が終わる頃。
アルネには、僕に好意があるのではないのかと勘違いしてしまいそうなほどに、距離が近くなっていた。
無邪気に顔を近づけられる度に、知られたくない感情に気付かれそうな気がして僕は怖かった。
旅は僕が23歳の時に終わった。
アルネとの距離の取り方を見つけられないまま、僕たちは帰ることになった。
「アルネは、帰ったらどうするつもりなんだ?」
「クラウスと結婚するわ」
幸せそうな顔で話すアルネに、僕は早く自分の気持ちを捨てなければならないと考えていた。
兄は地盤固めが既にできていて、爵位を引き継いではいないけれど、両親を領地に住まわせている。
アルネの受け入れはできていた。
そこに、僕への縁談話が持ち上がった。
王位継承権を持つサブリナとの婚約だった。
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誰も待っていないジークムント視点です
コンテスト五位に食い込んでいました!
ありがとうございます
明日はどうなっているのかわからないので、とりあえずスクショしました(笑)
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