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死んだ人が入る墓
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16
そこからの予定はトントン拍子で決まり。
日にちまで決まり。その日が来るな。と、願いながら気がつけばその日を迎えた。
「……これ」
ジークムントは、私に短く切った真っ赤な薔薇の花を差し出してきた。
私へのプレゼントなのか?タイミングを考えて渡せよアホが。あと、食べ物以外のプレゼントには興味がない。
「今渡されても困るし、これ持って歩けってことですか?」
「いや、こうやって」
ジークムントは、私の耳に花をかけた。
つまり髪飾りとして、持ってきてくれたようだ。
「良く似合ってる」
ジークムントは、宝物に触れている時の子供のように微笑んだ。
キモい。子供相手になんて顔をしているんだ。気持ち悪い。
「サブリナ嬢の髪の毛の色が赤だと聞いたので、喜ぶかな。と思って、色があまり似ていなかったら申し訳ない」
ジークムントなりに私が本当に「好き」なものを考えて用意してくれたようだ。
正直なところ、あまり姉の髪の毛の色とは似ていなかったが、悪い気分ではない。
まあ、少しだけ。本当に少しだけ嬉しいな。と思ったくらいだ。
「ありがとうございます」
「貴族向けのお店ではないんだが、自然で優しい香りの香油だから病人にはそちらの方がいいかな。と思ったんだが」
「確かに強い香りがずっと続くのは、辛いかも」
姉は何も言えないし、たまに香る優しい香りくらいの方が気分転換にはいいかもしれない。
だが、貴族向けではない。と、ジークムントが言ったのでおそらく平民向けのお店なのだろう。
「平民のお店に詳しいんですか?」
「これでも旅をしていたからね。色々と話を聞いたりして」
「なるほど」
彼の話やすさや、子供には甘いところは、そういう経験があって出来上がっているのかもしれない。
ジークムントの性格は貴族らしさよりも、田舎の純朴な青年の方が近い。
「人が多いから、はぐれないように気をつけて」
「わかりました」
私があまりにも頼りなく見えるのか、今すぐにでも迷子になると言わんばかりだ。
人のことを子供扱いしやがって。
だが、そんなイラっとしたのも束の間。
誰かが、私とジークムントの間に割り込むようにぶつかってきた。
「わっ!」
確かにこれは、はぐれないように。と声をかけたくなる理由もわかる。
ジークムントが私に手を伸ばしてきた。
私もそれに捕まろうと手を伸ばすが届かない。
「わっ!」
また誰かがぶつかってきた。
今回は体勢を保てなくて、転びそうだ。
私は痛みを覚悟して目を閉じる。
「……っ!」
痛みを感じることはなかった。そもそも転ぶことなんてなく、なんとか体勢を保てたからだ。
うっすらと目を開けると、さっきいた場所とは全然違うところにいる。
「どこだここは」
ジークムントは、そばにいない。
それと、たくさんいたはずの人もいないのだ。
はぐれた。と、思って周囲を見回すが、人一人いないいくて、一つのお店しかない。
……自分だけ世界から隔離されてしまったようだ。
「なんだここ?お店?」
立っているだけじゃ埒があかないから、私はお店に向かって歩き出した。
道を聞かないと人通りには出られない。
「なんで一軒しかないんだ?」
一瞬だけオカルト的なことを考えるが、怖くなってすぐにやめる。
ドアを開けると大きなフードを被った一人の少年がいた。
お店の中は古ぼけた雑貨屋といったところか、しかし、品物全てに埃がかぶっていた。
いいのか。この店。
「……」
男の子は無言だ。
フードの隙間からちらりと見えるのは真っ黒な髪の毛だった。
「君、なんで死んでないんだ?」
男の子は、唐突にそんな事を聞いてきた。
まだ死ぬ予定はないのに勝手に殺すな、死んだ人が入る墓も用意されてないわ!
「は?勝手に殺すなクソ野郎」
「おかしいな、本来なら死んでいるはずなんだけどな」
男の子は、まだそんな事を言い出す。
「は?ピンピンしてるわ!天寿を全うするわボケッ!」
私の人生はピンピンコロンで終わる予定なのに、すでに終わったかのように言うんじゃない。
勝手に決めるな。
私の人生の予定は自分で決めるのだ。
男の子は、ジーッと私のことを見ている。
何なんだ。こいつは。
「君の周りから何か捻れているな。気持ち悪い」
何なんだ。こいつ、人のことを気持ち悪いって言いやがって。
何が捻れているのかはよくわからないが、彼が「何」なのかは何となくわかった。
いや、ガチでいるとはな。
「お前、魔女か?」
魔女とは、人とは外れた存在の事を指す。
それに、男も女も関係ない。
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そこからの予定はトントン拍子で決まり。
日にちまで決まり。その日が来るな。と、願いながら気がつけばその日を迎えた。
「……これ」
ジークムントは、私に短く切った真っ赤な薔薇の花を差し出してきた。
私へのプレゼントなのか?タイミングを考えて渡せよアホが。あと、食べ物以外のプレゼントには興味がない。
「今渡されても困るし、これ持って歩けってことですか?」
「いや、こうやって」
ジークムントは、私の耳に花をかけた。
つまり髪飾りとして、持ってきてくれたようだ。
「良く似合ってる」
ジークムントは、宝物に触れている時の子供のように微笑んだ。
キモい。子供相手になんて顔をしているんだ。気持ち悪い。
「サブリナ嬢の髪の毛の色が赤だと聞いたので、喜ぶかな。と思って、色があまり似ていなかったら申し訳ない」
ジークムントなりに私が本当に「好き」なものを考えて用意してくれたようだ。
正直なところ、あまり姉の髪の毛の色とは似ていなかったが、悪い気分ではない。
まあ、少しだけ。本当に少しだけ嬉しいな。と思ったくらいだ。
「ありがとうございます」
「貴族向けのお店ではないんだが、自然で優しい香りの香油だから病人にはそちらの方がいいかな。と思ったんだが」
「確かに強い香りがずっと続くのは、辛いかも」
姉は何も言えないし、たまに香る優しい香りくらいの方が気分転換にはいいかもしれない。
だが、貴族向けではない。と、ジークムントが言ったのでおそらく平民向けのお店なのだろう。
「平民のお店に詳しいんですか?」
「これでも旅をしていたからね。色々と話を聞いたりして」
「なるほど」
彼の話やすさや、子供には甘いところは、そういう経験があって出来上がっているのかもしれない。
ジークムントの性格は貴族らしさよりも、田舎の純朴な青年の方が近い。
「人が多いから、はぐれないように気をつけて」
「わかりました」
私があまりにも頼りなく見えるのか、今すぐにでも迷子になると言わんばかりだ。
人のことを子供扱いしやがって。
だが、そんなイラっとしたのも束の間。
誰かが、私とジークムントの間に割り込むようにぶつかってきた。
「わっ!」
確かにこれは、はぐれないように。と声をかけたくなる理由もわかる。
ジークムントが私に手を伸ばしてきた。
私もそれに捕まろうと手を伸ばすが届かない。
「わっ!」
また誰かがぶつかってきた。
今回は体勢を保てなくて、転びそうだ。
私は痛みを覚悟して目を閉じる。
「……っ!」
痛みを感じることはなかった。そもそも転ぶことなんてなく、なんとか体勢を保てたからだ。
うっすらと目を開けると、さっきいた場所とは全然違うところにいる。
「どこだここは」
ジークムントは、そばにいない。
それと、たくさんいたはずの人もいないのだ。
はぐれた。と、思って周囲を見回すが、人一人いないいくて、一つのお店しかない。
……自分だけ世界から隔離されてしまったようだ。
「なんだここ?お店?」
立っているだけじゃ埒があかないから、私はお店に向かって歩き出した。
道を聞かないと人通りには出られない。
「なんで一軒しかないんだ?」
一瞬だけオカルト的なことを考えるが、怖くなってすぐにやめる。
ドアを開けると大きなフードを被った一人の少年がいた。
お店の中は古ぼけた雑貨屋といったところか、しかし、品物全てに埃がかぶっていた。
いいのか。この店。
「……」
男の子は無言だ。
フードの隙間からちらりと見えるのは真っ黒な髪の毛だった。
「君、なんで死んでないんだ?」
男の子は、唐突にそんな事を聞いてきた。
まだ死ぬ予定はないのに勝手に殺すな、死んだ人が入る墓も用意されてないわ!
「は?勝手に殺すなクソ野郎」
「おかしいな、本来なら死んでいるはずなんだけどな」
男の子は、まだそんな事を言い出す。
「は?ピンピンしてるわ!天寿を全うするわボケッ!」
私の人生はピンピンコロンで終わる予定なのに、すでに終わったかのように言うんじゃない。
勝手に決めるな。
私の人生の予定は自分で決めるのだ。
男の子は、ジーッと私のことを見ている。
何なんだ。こいつは。
「君の周りから何か捻れているな。気持ち悪い」
何なんだ。こいつ、人のことを気持ち悪いって言いやがって。
何が捻れているのかはよくわからないが、彼が「何」なのかは何となくわかった。
いや、ガチでいるとはな。
「お前、魔女か?」
魔女とは、人とは外れた存在の事を指す。
それに、男も女も関係ない。
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