私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

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蠢く瘴気

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「後から大切な発表があるから、心して聞いてほしい」
「ど、どういうことだよ」

 かなり緊張した面持ちで、ジャスパーが言うので私は少し不安になった。
 いつもおちゃらけているくせに、ここまでの事を言うなんて。
 それに、こういう場では威厳を光を振り撒くハゲのおっさんもいない。

「なんで、二人はそんなに親しいのですか?まるで仲のいい親戚みたいですね」

 アルネが緊張感なく不思議そうに聞いてきた。
 そりゃ、血縁者だから当然だろうが。
 ジャスパーと親そうに話しているのが、そんなにも変なのか。

「それはね。再従兄弟だからだ。たまに遊んでやったんだ」

 遊んでやったではない。
 私が、子供と遊びたがっているジャスパーに気を使って遊んでやったんだ。

「いや、遊んでやったのは私だからな!」

 ジャスパーは、切なそうに目を細めて、大切なものに触れるように頭を撫でた。
 これは、子供扱いだ。普段なら絶対に怒っているところだが、ジャスパーのただならない様子に私は何もしなかった。

「本当にごめんな」

 また謝るジャスパー。何をしでかしたんだ。
 ハゲのおっさんに謝らないといけないことをしたのなら、仕方ないので一緒に謝ってやる。
 怒られるのは嫌だが、我慢して付き合ってやるけど。

「すまない」

 今度はジークムントが謝ってきた。
 
「どうした?」
「君は危なっかしいから、放っておいたら心配だ」

 ジークムントも多くを話そうとはしない。
 だが、言っておきたいことがあるのだが、使用人に騙されるこいつの方がずっとあぶなっかしい。と思う。

「は?お前に言われたくない」
「そうだな。そうかもしれない」

 ジークムントも、ジャスパーと同じように微笑んだ。
 なんだか、どこか遠くにいってしまうかのように寂しそうに見える。

 結局ハゲのおっさんは出てこずに、ジャスパーが王家主催の夜会の挨拶をした。
 ジャスパーは「発表がある」と、ハゲのサラブレッドとは思えないような厳かな空気を漂わせて口火を切る。

 こいつな、アホにならなきゃしっかりしてるように見えるんだよな。実は。

「聖騎士ジークムントに褒賞として、王位継承権を持つクラリスとの婚姻を認める」
「ありがたく存じます」

 言いながら、ジークムントは私の肩を抱いた。
 マナー違反じゃないのか。そもそも、この場で言うのもなんだか変だ。
 本来なら、ハゲのおっさんが頭を輝かせながら、偉そうな椅子に座って言うものじゃないのか。
 やっぱりハゲのおっさんがいないとしまらないな。

「もう一つ報告がある。瘴気が活発になっている」

 ジャスパーの報告に私は目を見開いた。
 瘴気ならジークムントとアルネが祓ったじゃないか。
 また活発化するなんておかしい。次に活発化するのは100年後くらいなのに。

「被害も出ているようで、死者はいないが昏睡状態の者が出ている」
「……嘘」
「それで、聖女アルネに瘴気を祓う旅に再び出てもらう」

 私の頭から緊張したジャスパーの声がすり抜けていく。
 アルネはどこか嬉しそうに「はい、承知しました」と返事をした。

「ジークムントはクラリス嬢の婚姻を結び次第すぐに旅に出てもらう」
「承知しました」

 ジークムントは、嫌がる様子もなく返事をした。
 まてまて、結婚が前倒しになっているじゃないか。

「おい、どういうことだよ!」

 発表を終えたジャスパーを私は引き留めた。
 色々と聞きたい。結婚が前倒しになったこともそうだが、瘴気が活発化したのはなぜか知りたいのだ。

「そのままの意味だ。化け物はまだ出てないが時間の問題だ。結婚決まったのにすぐに引き離す事になって悪かったな。寂しいだろう?」
「べ、別に気にしてないし!まだ結婚もしなくていいし!寂しくないし!」

 私が反論すると、ジャスパーは幼少期と同じように頭を撫でる。
 いつまでも私は彼にとって子供のままなのかもしれない。

「お前も色々辛いな。早くリナが良くなるといいな」
「……」

 後からジークムントから聞いたが、国王は瘴気のせいで姉と同じで熱を出して意識が戻らない状態らしい。
 王女はつきっきりで、面倒を見ているようだ。
 隠しているだけで、本当は国王とおなじ状態かもしれない。

『君は本来ならこの世界にいてはいけない存在なんだよ』

 魔女の声が頭の中で響いた。
 
 私が、私のせいなのかも知れない。
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