私のことは愛さなくても結構です

本当に人なのか……？

　ああ、でもその前にやらないといけないことがある。
　魔女を捕まえることだ。
　私が原因なのか、それとも他に原因があるのか。
　原因を取り除けば、瘴気を祓う旅の助けになるかもしれない。
　この前、魔女と出会った場所は一人ではとてもいけない場所だった。
　だから、ジークムントに協力してもらわないとならない。

「お前に頼みたいことがあるんだ」
「うん、いいよ」

　ジークムントは、考える素振りも見せずに返事をした。

「何も聞かないで返事をするな！」
「婚約者だからね」

　私が怒るとジークムントは笑った。
　コイツ、すぐに騙されて利用されないか心配だ。

「前に、私を連れて行ってくれたところにいきたい」
「うん。わかった。でもなぜ？」
「探している男がいるんだ」

　理由を聞かれるよな。と、思いながらも詳細なことは言えずにざっくりと説明をする。
　ジークムントは、しばらく私の顔を見て口を開いた。

「それって、引き裂かれたクラリスの愛する人の事？」
「違う！それはサブリナお姉さまだ！」

　何言っているんだ。コイツ。
　そんなやついるわけないのに、何を気にしているというんだ。

「……そうか、よかった」
「何がいいんだよ！」

　ジークムントの安堵した顔に、頭のなかに疑問符が浮かぶ。
　何を気にしているのか、この男は。
　
　とりあえず、そこには次の日に行くことにした。その後、ジークムントの屋敷による事になった。
　理由を聞いたがはぐらかされた。

　昼間の街は人の顔がよくわかるが、それだけ人の数も多い。
　それでも、私はすぐに魔女の姿を見つけることができた。

「あっ、いた！」

　魔女は、前は男の子の姿だったのに、今は大人の女性の姿をしていた。
　絶対にわかるはずがないのに、なぜわかるのか。
　……やはり私は何かがおかしいのだ。
　信じたくはないけれど、魔女の言う通りなのかもしれない。
　私は魔女に向かって走り出した。
　魔女は私の存在に気がついたのか、慌てて走って逃げ出す。

「クラリス！」

　ジークムントが、私の名前を呼んで追いかけてきた。

「本当に申し訳ないんだけど、君一人で走るよりも君を抱えて走った方が速い」
「……！」

　言われて悔しいが、その通りだと思った。
　私はほんの少ししか走っていないのにすでに息を切らして、ジークムントは全く息を切らしていないからだ。

「じゃあ、頼む。そこにいる黒髪で浅黒い肌をした女を追いかけて」

　私はジークムントに抱き抱えられて、追いかけて欲しい相手を指差した。
　しかし……。

「え？」

　ジークムントは、魔女が見えないようで困惑した顔をしていた。
　ああ、そうか、この世界の理から外れた私にしか見えないのか。

「見えないのか……、じゃあ、私が指差す方向に向かって走って！」
「わかった」

　ジークムントは、わかりにくいとも何も言わずに的確に私の指差した先に向かって走っていく。

「おい、待て！」
「なんで追いかけられるの！？男の方は見えないはずなのに！」

　あの時、腹立たしいほどに余裕そうに笑っていたくせに、今はとても取り乱している。

「なんでこんなに速いの！？本当に人なの？」

　うん、私も同じことを思ってる。
　
「捕まえた！」

　私は魔女の肩を掴んだ。

「うわっ！」

　また、視界が変わった。
　あの時と同じ場所にいた。