私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
25 / 63

特異点

しおりを挟む
22


「あれ?またか」

 ジークムントはいない。

「まあ、彼は向こうの人間だからね」

 魔女は、苦笑いした。
 私はいったい何者なのだろうか。
 それにしても、魔女は前に会った時とは別人になっていた。

「なんで、今日は違うんだ?」
「魔女は姿を変えられるのよ」

 魔女は、笑いながら姿を男の子に変えた。

「……!」

 私を揶揄うつもりでやったのだとわかるのだけれど、やはり驚いてしまう。

「お前に教えてもらいたくて来た」
「どうぞ」

 たくさん聞きたいことがあった。
 私のせいでこんな事になってしまったのではないか。という、不安でいっぱいだった。
 もしそうなら、姉の目が覚めないのは私のせいだ。

「瘴気が完全に祓えていない。瘴気を祓えばしばらくはそのままなんだ。でも、今回は残っていて化け物が出てきて、それって私のせいなのか?」
「まず最初に、君はこの世界の特異点だけど、君が死のうが生きようが、それには関係ない」
「……そうなのか?」
「特異点って意外と多いんだよね。君もそうだけど他にもいる。僕も、正確には違うけど、そうだし。ねえ、君が世界に与える影響は大きいと思う?君の存在なんて砂つぶみたいな物だよ」

 言われてみればその通りかもしれない。
 でも、私の存在のせいで瘴気に悪い影響を与えているのかもしれない。

「魔女も世界を変えられるわけではないんだよ」
「……」

 魔女は悲しげな顔でそう言ったので、何かが過去にあったのかもしれない。
 聞けるような話しでもなさそうなので、聞かないけれど。

「魔女にも魔女の理があってね。それに従わないといけないんだ。色々とできるけど、この世界に干渉する事はできないんだよ。まあ、個人には出来るけどね。小さな願いを叶えたりね」
「そうなんだ」

「だから君は気にしなくていい。君という存在が瘴気に影響を与えることはないよ。もしそうなら、君が死ななかった段階でそうなっていたから」

 確かにそうかもしれない。
 私が原因ではないなら、何が原因なのか。
 魔女は近くにはいないと言っていたが、特異点は他にはどこにいるのか。
 彼らがもしかしたら原因を知っているのかもしれない。

「……あのさ、特異点って私の他にもいるのか?」
「君のすぐそばにいると思うよ」

 意外すぎる答え。

「そうなのか?」
「君はなぜ死ななかった?なぜ家は没落しなかった?それは、誰かが食い止めていたからだよ」
「あっ!そうか」

 言われてみればその通りだ。
 自分が死ななかったのは、その特異点が助けてくれたからだ。

「で、そいつは誰なんだ?」
「……自分で考えなよ」

 だが、考えても浮かばない。
 わからないなら、そいつと話す事ができないじゃないか。
 私一人じゃ何もできない。
 特異点なのに、私はちっぽけで何もできない。

「なあ、協力してくれないか?」

 私はちっぽけな存在だ。
 特異点に助けられて生きられたのに、私は何もできないで見ているだけだ。
 一人じゃ何もできない。変えられない。誰かに懇願して助けを求めないと何も変えられる事ができない。
 
「なんで、僕がそんな事をしなくちゃならないんだ」
「お願いだ。助けて欲しい。お願いします」

 子供の頃、自分は一人でもなんでもできると思っていた。
 今は、こんなにも無力なのだと思い知らされている。

「瘴気が活発化した原因を知りたい。助けてください」
「対価は?」

 魔女は意外にも断る事はしなくて、対価は何かと聞いて来た。

「対価……、私の持っている物ならなんでもやる」
「大丈夫。対価は貰ったから聞いてあげるよ」
「もらった?」

 何かを渡したのだろうか。思い当たる事が全くない。

「君、忘れ物しただろう?」

 言われて思い出す。
 ジークムントがくれた、あの姉の色とは違う髪飾りを。

「薔薇?」
「そう、あれもらって凄く嬉しかったでしょ?」

 魔女に言い当てられて、私は恥ずかしくなった。

「べ、別に!そんな事ないし!」

 嬉しくない。と否定すると魔女は、「うん。わかるよ。わかる」となぜか知ったような顔をした。

「自分はね。長く生きてるから、こういう感情がとても久しぶりでね。くすぐったくて楽しいね。……魔女はね。人の想いのこもったものが大好きなんだ。弱点でもあるんだけどね」
「……からかってる?」
「いや、全然。自分は二度と経験できないから、みんなそうだけど、仲良くなってもどうせ死ぬし」

 魔女があまり人と関わりたくなさそうな理由がわかった。
 別れを何度も経験しているからだ。
 だったら、魔女と一緒にいればいいじゃないか。

「そうか、なあ、お前以外の魔女って近くにはいないのか?」
「今はいない」
「ふーん」

 いない。というのことは、遠くにいるわけで、たまに会っているのだろう。
 関わったら大変なことになりそうなので、会いたいとは言わないでおいた。

「これからは、一緒に行動しよう」

 言って魔女は真っ白な猫の姿に変わった。

「お前、本当にこの世界に何もできないのか?」
「うん、何もできないよ」

 絶対に嘘な気がする。

「わかった。お前の話、誰かにしてもいいのか?」

 姉に見せてやりたい。

「問題ないよ。信じてくれるかは別だけどね」

 確かにその通りだ。


~~~


更新するところを間違えました
申し訳ありません
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...