私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
28 / 63

25

しおりを挟む
25

 それから日が流れて食事会当日。

 私は父と兄と共にバーナー家に来ていた。
 父と兄と母は使用人たちによって案内を受けていた。
 使用人は入れ替えがあったおかげなのか、かなり対応が良くなった気がする。
 ジークムントが帰ってくるまで、私はここに滞在するようにと言われたのでお言葉に甘えることにした。
 
「クラリスは、こっちだよ」
 
 クラウスが私に声をかけるなり、かなり強引に腕を掴んだ。
 嫌な予感。こういう予感は大体あたる。

「おい、親父!愚兄!マミー!」

 私が三人の名前を呼ぶと、三人ともこちらを見ようともしない。

「クラリス、達者でな……」
「貴女の犠牲を忘れないわ」
「愚兄っていった事今なら許せる気がするよ……」

 各々好き勝手言って助けてはくれない。

「オイィい!」

 私の叫び声は虚しく廊下に響いた。

「さあ、頼んだよ。ナオミ」

 クラウスは、ある部屋の扉を開けて、ぺっと私を捨てた。
 ぺっ。だ。ペっ。と捨てたのだ。
 そして、そんな私を軽くキャッチした手練れがいた。

「……さあ、始めますよ」

 何を始めるというのか。
 怖い。とてつもなく怖い。

「な、何を!?」
「大丈夫、大丈夫ですから」

 その大丈夫は、本当に大丈夫な。大丈夫なのか。
 私の人生経験上、大丈夫ではない。大丈夫だと思うのだけれど。
 恐ろしすぎる。何をされるというのか。

「腕によりをかけますわ!」

 ナオミと言われた女は、腕まくりをした。

「ぎぇぇぇ!」

 そこからは、拷問フルコースだ。
 真っ白なワンピースというよりもドレスを着せられて、さらに、顔中を粉祭りにされて唇も塗ったくられて、私は大変な事になっていた。

『どれだけ生きても、寿命のある人のパワーは激しいね』

 さくら。は、他人事のようにあくびをしていたが。
 ナオミに猫掴みにされて、威嚇する猫のような鳴き声を上げた。

「まぁ、可愛い猫ちゃんね」

 圧を感じる。圧を。
 さくら。は、冷や汗をかいていて、明らかにビビっている。

「可愛い猫ちゃんもお着替えしましょうね」

『や、やめてくれぇぇ!』

 さくらは本気で抵抗したが、無駄だった。
 真っ白なレースのエリザベスカラーを付けられて、女王様のようだ。

「せっかくの日だから、飼い主さんと同じようにおしゃれにしなきゃね」

 さくら。は、カラーを取ろうとはせずに、意外と気に入っているようで澄ました顔で座っていた。

「……悪くない」

 さくら。の、つぶやきを私は聞き逃さなかった。
 私の着ているドレスはどう見てもウエディングドレスだ。
 どう考えてもそれだ。
 私はナオミに引きずられて、食事会会場に連れて行かれた。
 
「クラリス!」

 ジークムントは、私の姿を見るなり、幸せそうな顔で微笑んだ。
 勝手にこんな事をするなんて、いくら何でも酷くないか。

「おい、ジークムント、なんだよ。これ!」
「似合ってるよ」

 私の抗議をジークムントは軽く流した。

「こんなもん着せるなよ!てか、ちゃんと言えよ!」
「言ったら断るでしょ」

 その通りすぎて、私は何も言えなくなった。
 正直、式とかそういったものをしたいとは全く思えないのだ。
 
「……」
「勝手にこんな事してごめん。でも、どうしても見たくて」

 もう何も言えなくなった。
 だってそうじゃないか、死地に向かう男に、嫌だなんて言えるはずがない。

「ど、どうだ!嬉しいか?似合うか?可愛いか?」

 私はくるりと回って笑った。
 ジークムントは、私が回り終わると軽々と抱き上げてしまう。

「嬉しいよ。綺麗な君が見れてよかった」

 鼻がもげそうなほどに臭いセリフ。
 バカだな。と笑ってやりたいのに、それができない。
 鼻の奥がツンと痛くなって涙が出て来そうだ。
 恋愛感情というものはよくわからないけれど、私はジークムントの事が人として好きなんだと思う。

「ジークムント」

 名前を呼びお礼を言おうと思った。
 けれど、それは私以外の女の声で遮られた。

「ジーク!見て!綺麗でしょう?」

 私が着ているものよりもずっと豪奢な真っ白なドレスを着たアルネが現れたのだ。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...