私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
29 / 63

26

しおりを挟む
26

「……君は何をやっているんだ」

 ジークムントは、怒りを露わにして今にもアルネに掴みかかりそうだ。
 アルネはそれに動じた様子もなく笑っている。
 私はそれが怖い。
 おそらくサプライズとしてこういう話はしてあったはずだ。それでもわかっていてするなんて、アルネは何を考えているのか。

「え、だって私がどんなドレス着ても問題はないでしょう?」
「白は着るなって言ったじゃないか!しかもそれは」

 どう見てもウエディングドレスで、私が着ているものよりも上等なものだ。
 ジークムントが怒る気持ちもわかる。
 アルネによって全部台無しにされたのだから。
 ただ、アルネの気持ちもわかるのだ。
 旅で一番負担があるのは彼女で、彼女への感謝や応援の意味の食事会がジークムントと私のささやかな結婚式のようなものにされているのだから。
 嫌な気分になるのはわかる。

「私、間違ってない!どうしてよ。なんでこの子を優遇するのよ」
「……食事会は明後日することになってるだろ?教えたはずだ」

 え、そうなのか。
 思わず家族の顔を見ると、三人ともわかりやすいほどに顔を逸らす。
 ……こいつら全部知っていたのか。

「知ってるわよ!でも、私が浄化しないと誰も助からないのに、なぜ、私に気を使わないのよ」

 子供の癇癪だ。
 でも、可哀想だと私は思った。
 だってそうじゃないか。「彼女」しか瘴気を祓うことができないのに、それなのに私を優遇しているようにしか見えないからだ。
 でも、彼女に可哀想。だと、言ったら絶対にいけない気がするのだ。

 だって、ババァ……、いや、お婆様が「逆らおうと思わせないくらい叩きのめせ、だけど、人を奈落に突き落とすな」とも教えてくれたのだ。
 私が何か言ったら彼女を確実に傷つけてしまう。
 それに、私は彼女のような力も持たない。安全なところにずっといるのだから。

「アルネ、ジークがこれを望んだんだ。僕は気まずくなるといけないから来なくてもいい。って言ったよ。なぜ来て台無しにしたんだ」

 クラウスが、アルネを責めた。

「……みんなも止めればよかったのに!こんなもの!私は仲間なのに!」

「ジークさんも仲間です。彼の望みなら止めるつもりはありません」
「それに、立場上、貴族の彼の結婚式に呼ばれる事なんて絶対にないので、こういう場に参加できてとても嬉しいです」

 アルネの怒りに仲間の何人かが、そう返した。

「……もし、機会があったらみんな呼びたい」

 ジークムントは、照れくさそうにそう言うけれど、アルネの怒りの炎に油を注ぐようなものだ。

「な、なによ。私が悪いっていうの!?」

 アルネの怒りはさらに強くなった。
 みんな、アルネを責めてばかりだ。

「アルネ、やめよう。君の行動は間違っているよ」
「クラウスも!」
「瘴気の影響を受けて君が不安定なのはわかってる。でも、やっていいことと悪いことがあるよ」

 クラウスは諭すようにアルネが間違っていると言った。

「酷い!」

 アルネは、その場に座り込み泣きじゃくる。

「帰って来たら、一緒に療養しよう」
「……」

 それはどういう意味なのか。
 ただ、わかるのはクラウスはアルネの事を本当に心配しているという事だけ。

 ……私も何か言わないと。

 アルネの味方にはなれないけど、でも、やっぱり、奈落に突き落とすような事は言いたくなかった。
 
「アルネさん。私、別に怒ってないし、台無しにされたなんて思ってないから、一番不安でナーバスな時期にこんな事されたらモヤモヤする気持ちもわかるよ。……何て言ったらいいんだろうな、上手く伝えられなくてごめん」

 私が思った事を伝えると、アルネは一瞬だけ驚いた顔をして、唇を噛み締めて自己嫌悪をしているかのような表情になりくるりと背中を向けた。

「……もういい、飽きたわ」

 アルネは、それ以上何も言わずに帰って行った。
 




~~~

お読みくださりありがとうございます

感想、エール、しおり、いいね、お気に入りに登録してもらえると嬉しいです

コンテストみなさまのおかげで五位キープできています。ありがとうございます!



没にしたんですけど

本当はウェディングドレスの衣装合わせで、アルネがクラリスのドレスを着る予定でした

そこで、固まるジークムントに、クラリスが
「おう、喪服で結婚式しようか、結婚って人生の墓場って言うしな」
と、言わせる予定でした

それやったら取り返しがつかなくなるのでやめましたが……


今日の朝に、ネタバレ感想くれた方

一部当たってます

本当に申し訳ないのですが感想は反映していません
本当に申し訳ありません
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...