私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
30 / 63

27

しおりを挟む
27

 それからは、お祝いという空気にはならなくて、なんだか気まずかった。
 みんなが申し訳なさそうな顔をしているので、何でだよ。気にするなよ。誰も悪くないのに。と思ってしまった。
 正直、今回のこれもジークムントの個人的な希望でやっているようなもので、私が望んでいたわけじゃない。
 だから、私に悪いなんて思うのはやめて欲しい。

 ……一番見せたい相手には花嫁姿を見せられなかったから。

「ジークムント、旅から戻ったらちゃんと結婚式挙げよう。その時には、お姉様はきっと元気になるから、私の綺麗な姿を見せてあげたいんだ」
「そうだな」

 私は、生きて帰って来たら仕切り直しをしようと提案する。
 それと、アルネについて聞きたいことがあった。

「あのさ、アルネの事なんだけど、昔からあんな感じのヤツだったのか?」
「違うよ。多分だけど瘴気の影響を受けてると思う。神聖力があってもそういう事はあるから」

 どういう事なんだ。

「……瘴気を祓う旅に出た聖女は、一定数だけど精神を病むことがあるんだ」
「そうなのか」
「訓練はするんだけど、それでも影響を受ける事がある」

 ジークムントとクラウスの説明を聞いて、益々みんながアルネを軽く扱っているように見えてきた。
 リスクを背負ってまで旅に出てくれるのに。
 今回の件も、軽く扱われているという不満が爆発したものだと思う。
 精神が不安定なら余計にそうだ。
 ただ、これで彼女と旅の仲間たちとの関係が悪化しないか。という懸念が出てくる。

「……前々から気づいていたんだけどね。落ち着くかな。と、思ったけど。マホガニー家を侮辱したり、手に負えない事ばかりしていて、このままじゃダメだと思うんだ」

 クラウスの様子から、結構色々なことをしでかしているように感じた。
 ……まあ、自分もかなり色々とされているので、察しはつくが。
 
「ジーク、帰って来たら公爵は君がなるんだ。アルネは僕が支えるよ。彼女には落ち着いた環境で過ごした方がいい」

 クラウスは意外にも、アルネの事を見放す気はないらしい。
 公爵の地位を捨ててまで彼女を支える。と言い出すとは思わなかった。
 それほどまでに彼女のことが大切なのだと思う。

 アルネに帰る場所があってよかった。と、思いつつもこのままではダメな気がしていた。

「あのさ、ジークムントもみんなもそうだけど、アルネのことなんだけどさ」
「うん」

 みんなじっと私を見て来た。
 これ言って悪い気にさせたら、悪いな。と、思うけれど。でも、どうしても言いたかった。

「みんなもっと優しくしてやれよ。アイツしかできない事があって、重圧もかなりあるだろ。嫌だって逃げ回らないでそれに応えようとしてて、見てて可哀想だよ。いや、大変なのはみんなそうなのはわかるけど、わかるけどさ、やって当たり前ではないと思うんだ」
「……君は許すのか?」

 アルネをどう許すというのか、そもそもそんな次元の話ではない。

「許す許さないじゃなくてさ、私よりもアイツを気遣ってやれよって思う。……帰って来た時の結婚式で同じことをしたらぶっ飛ばすけどな」
「わかった」

 まあ、許さないこと、許せないこともあるが、そこは折り合いをつければいい。
 
「聖女だってただの人だし、また怖い思いするのに、誰も気遣ってくれないと苦しいだろ」
「……」

 みんな顔を見合わせた。

 きっと、みんな以前の彼女に戻って欲しい。とか、そんな気持ちなんだろう。
 戻らなくてもそれは「私たち」のせいだ。
 戻らなくても、助けてもらっておいて彼女を見放すのは間違っている。

「私、アイツに嫌われてるからさ……励ましても嫌がるだろうし、頼んだよ。みんな」

 自分に神聖力がないのがもどかしい。
 もし、あったら代わってやれるのに。

 その後の食事会にもアルネは来なかった。



~~~

お読みくださりありがとうございます!
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...