私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
45 / 63

あの人に勝ちたい

しおりを挟む
 僕は屋敷に帰ると早速、仲間達に連絡を取った。
 瘴気の話をすると、みんなが二つ返事で「行く」と言ってくれた。

 それと同時に、信用できる仲間に頼み事をした。僕が知る限り一番強い女性。ナオミだ。
 彼女には僕が不在の間のクラリスの護衛をお願いした。

「一人にするのは不安な気持ちはわかりますけどね。なんというか、それよりもやる事ってありませんかね」
「というと?」
「思い出づくりとか」
「僕が死ぬかもしれないのに?」

 一番危惧している事はこれだ。
 もしも、僕が死んだら情が移ってしまったクラリスは苦しむのではないか。それが、不安なのだ。
 
「ああ、本当にわかってませんね。だったら余計にですよ。貴方が死んでも大丈夫なようにきっと色々としているのかもしれませんけどね。いる間に彼女にしてあげられる事はあるでしょう?」
「だが」
「だが、じゃない。貴方も悔いがないようにしないといけないんですよ。もしもの時、それができなくて彼女が後悔するかもしれませんから」
「そうか」

 確かにそうかもしれない。

「思い出ってその人と生きた証ですからね。大切ですよ」
「指輪を贈っても?」

 本当は何も贈るつもりはなかった。
 指輪を渡したら彼女は喜ぶだろうか。

「いいと思いますよ。きっと断りませんよ」
「結婚式は」

 本当はすぐにでも挙げたい。
 クラリスが、ウェディングドレスを着ている姿を見たいのだ。

「彼女がどんな人かわかりませんけど、食事会とかで小さくやってもいいんじゃないんですかね」

 確かにその方法もありかもしれない。

「……相手が断らないだろうからって手を出すのだけはダメですよ」

 ジャスパーもそうだが、なぜ、みんなそんな事を言うのか。

「僕をなんだと思っているんだ」

 それから、仲間たちと一緒に小さな結婚パーティーの計画を立てた。

 それから、程なくして王家主催の夜会に参加した。

 僕はアルネのエスコートをして、兄はクラリスのエスコートだ。

 ……明らかに色々とおかしい。

 クラリスは、クラウスの前で弾けんばかりの笑顔だ。

 本来ならそれは僕に向けられる物だったと思うと、とても気分が悪かった。
 アルネは、クラリスに直接的な嫌がらせはしていないが、嫌味を言う。

 ジャスパーもクラリスも気にしている様子はなくて、よかったが。

 ジャスパーの夜会の挨拶と共に、僕とクラリスの婚約発表。それと、瘴気が活発化している事を説明した。

 クラリスの表情がどんどん曇っていくのが見える。

 ……彼女には笑って欲しいのに。

 クラリスは、僕が瘴気の件を伝えなかった事ですら、わかっていると言ってくれた。
 僕が死ぬかもしれない。と、伝えると。
 驚きとても傷ついた顔をした。
 自分が死ぬわけじゃないのに、こんな顔をするなんて思いもしなかった。
 最悪な想定の話をすると、全てを察して連れていけるだけ人を助ける。とまで言ってくれた。
 たまに見せる思慮深さは彼女の本質なのかもしれない。

「頼みたい事があるんだ」

 彼女の頼み事を断るなんてできなかった。
 探したい男がいる。と言われて、僕は内心ではとても焦った。
 けれど、それをおくびにも出さずに揶揄すると、クラリスは「違う」と否定してくれた。
 けれど、彼女が世界一愛している人は、姉のサブリナの事らしく、僕は違う意味で凹んでしまった。

 サブリナに勝てる日が来るのだろうか。
 

 
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...