私のことは愛さなくても結構です

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小さな不安

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小さな不安

 食事会という名の小さな結婚パーティーの準備は筒がなく進んでいた。
 アルネにも、そのことをちゃんと説明するべきだと思って伝える事にした。

「食事会は後日するから、クラリスと僕の小さな結婚パーティーをしようと考えているんだ」
「どうして?私は結婚が延期になっているのに!それに、クラリスは旅に出ないのになんであの子を優先するのよ!」

 クラリスを優先するために言い出したとアルネは思ったようだ。
 彼女の気持ちを考えると、確かにそうかもしれない。
 
「これは、クラリスのためじゃなくて僕がしたいからするんだ」
「……貴方、本当にどうしてしまったの?」

 何を言っているのだろうか、アルネは、まるで自分が捨てられた恋人のような顔をしている。
 僕を切り捨てたのは彼女の方なのに。
 
「君の方がどうしてしまったんだ」
「私を優先すべきでしょう!?」

 確かに以前はそうだった。けれど今は違う。
 僕が婚約して結婚しても、自分自身が優先されて当然だと言わんばかりだ。

 参加してほしいとは思わなかった。しかし、貴重な時間を使うのを許してほしかった。

 ……結局無理だったんだな。
 
「嫌なら無理して参加しなくてもいい。でも、結婚パーティーはするから、もし参加するなら白のドレスは着ないでくれ

 それだけ伝えると、アルネは眦を釣り上げた。
 
「私を除け者にしたいのね!」

 自分が虐められているかのような口調に僕は何も言えなくなった。
 僕の気遣いが足りないせいなのか、あまり彼女とはうまくいっていない。
 信頼関係がないと旅では苦労するのが目に見えている。
 歩み寄ろうにも彼女の望みを叶えることがとてもできないのだ。
 それなのに、仲間でいようなどと虫のいい話ではあるのだが。

「本来なら彼女のことを一番に考えるべきなのに、僕は自分のことを優先しすぎなのだろうか」

 アルネとのやり取りの後、クラウスに相談すると、彼は少し考えるような素振りを見せる。

「まあ、お互いの気持ちはわかるよ。どちらが悪いとも言えない。でも、兄の立場から言わせてもらうと、ジークのしたいことを優先すればいいと思うよ。落とし所はちゃんと考えてあるんだから」
「でも、アルネは嫌がっているようだし、兄さんはそれでもいいのか?」

 婚約者のことを考えたらそちらを優先した方がいいのではないのか。
 
「弟が死地に行くのに、やりたいことをやめろなんて僕は言えないよ」
「ありがとう」

 兄として僕に寄り添ってくれるのなら、それはとても嬉しいことだ。
 幼い頃からクラウスはずっと僕に優しかった。とても、大切にしてくれたのだ。
 聖騎士になっても変わらず。
 クラウスが思うように僕も彼のことを大切に思っている。

「どうなるのかわからないんだから、大切な弟の結婚パーティーをこの目に焼き付けておきたいよ」
「兄さん」

 目頭が熱くなってきた。
 やっぱり、僕は兄さんのことが大好きだ。
 クラリスを任せられるのはクラウスしかいない。

「……頼みたいことがあるんだ」
「何を頼みたいの?」
「クラリスのことなんだけど、僕が帰ってくるまで面倒を見てくれないか?」
「なぜ?」
「何をするのかわからないから」

 僕がきっぱりとそう言い切ると、クラウスは笑い出した。
 笑い事ではない。彼女は無鉄砲すぎる。
 自分なりに考えた末に、とんでもない行動を取りそうな気がするのだ。
 想像の斜め上のその斜めに向かって。
 ……それに、僕の預かり知らない所で何かをしているような気がするのだ。
 例えば、魔女のような未知の人を関わっているかのような。
 
「なるほど、それは僕も同じことを思ってるよ」

 クラウスもどうやら同じ考えのようだった。

「まあ、ナオミがいるから大丈夫だとは思うけど、あちらの家だと警備がそこまで厳重じゃないしね」

 クラウスは、少し考えている様子だ。

 それから、僕は少し忙しかった。
 クラリスのドレスを見たり色々と準備していたのだ。

「ナオミ、このドレスはどう思う?」

 僕はクラリスに似合いそうなドレスを手に取り、ナオミに問いかける。
 ナオミはというと、しばらくそれをじっと見てジャッジしている。
 
「悪くはないですね。こっそりクラリス様を見ましたけど似合うかと思います」

 悪くないという事は、何か足りないということなのだろうか。

「悪くないってどういう意味」
「結婚って女の一大イベントなのに、男が勝手にドレス選ぶとか気持ち悪い。しかも、一番似合うドレスを引き当てるとかさらに気持ち悪い」

 気持ち悪いと二度言われた。
 二度言うなんてさすがに酷くないだろうか。
 
「君って酷くないか?」
「クラリス様の意見を代弁しました」

 クラリスも同じことを思うのか、そう思うと途端に間違えたかもしれない。と思い始める。
 
「そんなっ」
「あなたの自己満足のためですからね。ですが、彼女も納得するでしょう」
「否定できない」

 ナオミの言う通り、クラリスは嫌がるがそれでも受け入れてくれる。
 
「まあ、当日楽しめればそれでいいんですよ。お互いにとっての大切な思い出ですから」

 色々と準備をして居るうちに、食事会の日になった。
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