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鬼動きます(サブリナ)

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鬼動きます

 異邦人とはどういう意味なのか、とりあえず流しておこう。
 そんな事よりも、クラリスの方が重要だから。
 そもそも、なぜクラリスがいなくなったのか、そこから話を聞かないといけない。

「ところで、なぜ、クラリスはいなくなったのかしら」
「え、そこから?」
「異邦人は無視なの?」

 私の質問にジャスパーは呆れ果て、クラウス方がはツッコミを入れた。

「とりあえず、時系列から教えてくれるかしら」
「わかった」

 ジャスパーは、何があったのか色々と教えてくれた。

「なんっで、スッてぇ!?瘴気が復活したんですの?そんな事ってありえますの?」

 ちょっと、いや、全く信じられない。
 本の中の展開とは全く違うからだ。
 
「実際に起きてるからジーク達は旅に出たんだろ」
「まあ、そうですけど、それならジークムント達がどこに行くのか知らないと、なんの対策もできないじゃない」

 クラリスがジークムントを追いかけたというのなら、彼らがどこに行ったのか知らないと話にならない。
 ただ、危険の伴う旅だからどこから行くのかという情報は流さないはずだ。
 
「……とりあえず、どこに行くかは知ってる」
「ついてきなさい!」

 やはりジャスパーは知っているのか、私は彼の首根っこを掴む。
 
「いや、困るって、俺皇太子!俺いないと困るって!」
「ライナーがいるわ。あの子、尻拭いの天才だからこういう時に才能が発揮されるわよ」

 ジャスパーが必死に抵抗するが気にしない。
 ライナーの方がこういう時に、おろそしいほどに的確に動けるのを私は知っているからだ。
 
「……ライナーくん、気の毒すぎる」

 クラウスが何か言っているが、私は気にしない。

「ほら、来なさい!」
「困るって!」

 私はジャスパーの首根っこをつかみ引きずりながら、周囲の制止を「お黙りなさい!」の一喝で制して場所に乗り込んだ。

「……サンキュー助かった。俺には無理だ。アレは、ライナーに任せよう」

 ジャスパーは、馬車に乗り込むなりすぐさま座席に座り行く気満々の様子を醸し出していた。
 この男はそう言う男なのだ。
 皇太子のくせに腹芸は苦手だし、有事にはパニックを起こすような奴なのだ。
 反対に、ライナーはというと日頃から、ストレ……、いや、かなり精神面を鍛えられているので、こういう時に恐ろしいほどの落ち着きを見せて的確に動けるのだ。

 馬車にクラウスが乗り込むのを確認して、私は気になっていた事を質問する。

「で、異邦人って何かしら?」
「え、そこでぶっこむの!?」

 クラウスは、唐突に聞かれてかなり驚いている。
 精神の鍛え方が足りないようだ。

「気になったことはその場で知るのが一番だと誰かが話していたわ」
「……まあ、貴女がそう思うなら」

 クラウスは納得してくれたようだ。

「異邦人とは……」

 クラウスはそこから長ったらしく話し出した。
 要約すると、異世界転移してきた人のことを指しているようだ。
 そういえば、「君も異邦人か?」とクラウスは私に聞いてきていた。

「なるほどね。それで、私も異邦人だと貴方は言ったけれど、誰か思い当たる人がいるのかしら?」
「アルネだ」
「え?」
「旅から戻ってきたら別人になっていた」

 クラウスがアルネが異邦人だとキッパリと言い切る様子に私は違和感を覚える。
 気がついたのに、なぜ、彼は何も言わなかったのだろう。

「そう思ったのに、なぜ、誰にも言わなかったの?」
「僕の頭がおかしくなったと思われるか、アルネに何かされると思ったからさ」

 確かにその通りかもしれない。

「俺、これ聞いていいの?」

 ジャスパーは、話がまずい方向に進んでいると察したのか、不安そうな顔で私に聞いてきた。
 情けない。本当に皇太子なのだろうか。

「アンタは、黙ってなさい!」
「はい」

 私が一喝すると、ジャスパーはしおしおと萎びた。

「で、君はどうなんだい?」
「そうね。私も異邦人に当たるのかしら?でも、もともと、サブリナだったわよ。私の場合は異世界の前世の記憶があるの」

 隠すこともできたが、言わなかったら話が進まない気がしたので私は認めることにした。

「君の話を聞きたい」
「こんな荒唐無稽な話を信じてくれるとは思わないけど、聞いてくれる?」

 信じるかどうかはクラウス次第だが、アルネが別人になっていたことに気がついた彼なら信じてくれそうな気がした。

「……俺、聞かなきゃダメ?」

 ジャスパーは、往生際悪くそんな事を聞いてきた。

「アンタは、今からこの馬車のシミだと思いなさい」
 
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