私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
54 / 63

本当のアルネ(アルネ視点です)

しおりを挟む
本当のアルネ

 自分が、「アルネのための物語」という本の世界にいることに気がついたのは、最初の瘴気を祓う旅に出た時だった。

「アルネ……!」

 瘴気に触れそうになって、ジークムントに声をかけられた瞬間に、私はアルネになっていたのだ。
 私は「アルネのための物語」が大好きだった。
 心優しいアルネも好きだが、それよりも彼女を守ろうとするジークムントが大好きだった。

 やったわ!ジークムントが私のものになる!

 私は嬉しかった。
 ジークムントとの距離を詰めようとしても、彼は「兄の婚約者」の私に対して距離を置こうとする。
 それが少し寂しいけれど、どうせ、クラウスは亡くなるので関係ない。

 旅の終わりにジークムントにどうするのか聞かれたが、私は迷わずクラウスと結婚すると言った。

 クラウスが亡くなるとはいえ、今の次期公爵夫人の立場を捨てたくはなかったのだ。

 予想外の出来事が起こり出したのは、旅が終わりジークムントの婚約者が決まった時からだった。

「クラリスと婚約?」

 サブリナが突然意識不明になったらしく、その代打としてクラリスとジークムントとの婚約が決まったと聞かされた。

 クラリスって、あのクラリス?死んだはずよね。なぜ生きているの?

 本の展開とは全く違う事になっている。だが、ジークムントが最後に選ぶのは私だと決まっている。
 でも、不安だった。本の通りの展開にならない可能性が出てきた。
 クラリスはサブリナとは違い私に嫌がらせをしなかったらどうなるのだろうか。
 そうなると、正義感の強いジークムントは、クラウスを失くした私に対して同情的な態度を取ることはあっても好意を示してはくれなくなるかもしれない。

「アルネ様、大丈夫ですか?」

 不安のまま過ごしていたら、使用人達が気遣わしげに私を見ている。
 だから、私は不安をこぼした。

「ジークムントの婚約者さんが、私を目障りだと言わないか不安で」

 ……クラリスを悪者にしたら、私は被害者になる。

 そんな考えが、頭の中に浮かんだ。
 クラリスがどんな子なのか知らないのに、まるで嫌がらせをされるかのように不安を口からこぼす自分が信じられなかった。

 クラリスが初めて屋敷にやってきた時、少しだけ彼女の顔を見たが、小柄でピンクのふわふわの髪の毛がとても可愛らしくて思わず見惚れてしまった。

 私とは違い庇護欲を駆り立てるような見た目をしていたのだ。

 ダメだわ!奪われてしまう!ジークは私のものなのに!

 頭の中で警告がした。
 私は何がなんでもジークムントの心を掴まないといけないのだ。

 ……でもなぜ?

 その疑問はすぐに掻き消えた。

 そこからは、怒涛の展開だった。
 クラリスは、信じられないような嫌がらせを使用人から受けていたとジークムントに訴えた。
 
 私の余計な一言のせいで、彼女達はあんなことをしてしまったのではないのかしら……?

 謝ろうと思った。私の余計な一言のせいでこんなことになってしまったなんて、許して欲しいなんて思わない。でも、彼女達だけが悪いわけではない。
 そう言いたかった。
 それなのに、私の身体は乗っ取られたかのように、使用人達を許して欲しい。としか言えなかった。

 ……ジークムントに愛されないといけない。

 あたまの中でその考えが常に付き纏った。眠っている時ですらそうだった。


 
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...