私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
59 / 63

物語が終わってから

しおりを挟む
アルネ視点です

「なんてことをしてしまったんだ」

 ジークムントが泣いている。
 彼がサブリナを殺して黙っていなかったのは意外にも、皇太子のジャスパーだった。
 彼は、サブリナが本当に私を殺そうとしたのか調査した。
 そして、その結果はとんでもないものだった。
 その日は突然だった。

「使用人たちを拘束しろ」

 ジャスパーが、騎士を複数連れて突然屋敷へとやってきて、私の大切な使用人たちを拘束した。

「あ、あんまりです。いくら皇太子だからって横暴です」

 あまりに突然のことに私は思わず怒りを露わにした。
 近くにいたジークムントも同じで今にも掴みかかりそうな勢いだった。

「あぁ」

 ジャスパーは、私の抗議を鼻で笑った。
 そこから聞かされた説明は、耳を覆いたくなる物だった。

「こいつらはな、ジークムントを公爵にさせるために、クラウスに定期的に毒を飲ませて殺害した」

 何を言っているのだろう。
 善良な彼女たちがそんなことをするはずがない。

「証拠もちゃんとある」

 ジャスパーは、書類をジークムントに投げてよこした。
 ジークムントは、それを見るなり膝から崩れ落ちた。

「……それと、聖女殺害未遂なんてそもそもなかった」
「ど、どういう意味だ」

 ジークムントが信じられないと言わんばかりにジャスパーを見ていた。

「本当にお人好しだな。お前は、こいつらは、聖女とお前が結ばれるように聖女に毒を飲ませたんだよ。それから、サブリナに罪をなすりつけたんだよ」
「……!」
「信じない。とは、言わないんだな。お前はまだまともなようでよかった」

 ジャスパーは、軽蔑しきった目を私たちに向けてきた。

「本来ならお前たちに何かしら罰を与えたい」

 ジャスパーの目が鈍く光る。
 
「私たちは無関係です。本当に知らなかったのです」
「そうだな。勝手に使用人がやったことだ。だが、本当に何も知らなかったのか?」
「し、知りませんでした」

 私は事実を述べるが、ジャスパーは疑いの視線を向けてくる。

「そう言うのなら、そうなんだろう。邪魔者が消えて幸せか?クソっ、こんなことになるのならお前とサブリナを結婚なんてさせなかったさ」

『幸せになれるなんて思うなよ』とジャスパーは捨て台詞を吐いて帰った。

 そこからだった。ジークムントの様子がどんどんおかしくなっていったのは……。

 ぼんやりとする日が増えた。それから、何かを思い出して唇を噛み締めて静かに泣き出すのだ。

「サブリナ……」

 ジークムントがサブリナの名前を呼んでいる。
 あの時に、彼女の言い訳をちゃんと聞かずに殺してしまったことを申し訳なく思っているのだろう。
 だが、彼は本当に悪いのだろうか?
 悪いのは、彼ではない。
 サブリナを悪く言った使用人が悪いのだ。

「ジーク、自分を責めないで」
「アルネ、僕は自分が許せないよ。サブリナと一度でもちゃんと話し合っていたらこんな事にはならなかった」

 ジークムントはあまりにも優しい。

「ジークは悪くないわ。悪いのは使用人たちよ」
「彼女たちの言うことを本気にしてサブリナに手をかけたのは他でもない僕だ。それに、兄さんまで殺されるなんて、止めることはできたはずなのに」
「それも、彼女たちが勝手にやったこと、貴方には責任なんてないわ」

 私が慰めながら背中をさすると、ジークムントはしばらく黙り込み。そして、ゆっくりと口を開いた。

「……君は、本気でそれを思っているのか?使用人が勝手にやったことだから自分達には責任がないと思っているのか?」
「ジーク、あまり自分をせめてはダメよ」

 ジークムントを抱きしめようとすると、彼はそれを拒むように身を翻した。

「僕たちは結ばれるべきではない」
「何を言っているの?」
「サブリナやクラウスの死の上で成り立つ幸せなんてない」

 ジークムントは、私を拒んだ。
 なぜ?信じられなかった。

「彼らの死があるからこそ、私たちは幸せになるべきよ。そうじゃない?使用人たちが私たちの幸せを望んでしてくれたのよ。彼女たちに報いるためにも私たちは結ばれるべきなのよ」
「君は最初から全て知っていたんじゃないのか?」
「……な、何を言っているの?」

 ジークムントは、突然私のことを責め出した。
 全て知っているなんて、そんなはずない。
 確かに、サブリナから何かされるかもしれない。という不安を使用人の前でこぼしたけれど、だからといってあそこまでするなんて思うわけがない。

「僕たちは幸せになれる資格なんてない」

 ジークムントは、諭すようにそう言った。
 私は何一つ悪いことなんてしていないのに、ただ一つだけ欲しかったジークムントの愛を諦めなければならないのか。

 ……私が、サブリナへの不安を使用人たちの前でこぼさなければよかったのだろうか。
 使用人達が好意で用意してくれたアレンジされたウェディングドレスを着て、ジークムントの結婚式に出なければよかったのか。
 けれど、あれは、ジークムントを諦めるためにどうしてもやりたかったのだ。
 サブリナに咎められるなんて思いもしなかった。

 私は何一つ悪い事なんてしていない。

 私はあることを考えるようになっていた。
 もしも、瘴気があったら、ジークムントの心を手に入れる事ができたかもしれない。と。
 けれど、瘴気は祓ってしまい活発化するにはあまりにも時間がかかる。

 それは、つまり永遠にジークムントの心を手に入れる事ができない。
 その瞬間、私は絶望した。

 そして、私は魔女になった。

 私は、時間を巻き戻して異世界か魂を呼び出して自分の身体に憑依させた。
 そして、ゆっくりと瘴気を集め続けた。
 ジークムントの心を手に入れるために。
しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラは、婚約者であるオリバー王子との穏やかな日々を送っていた。 ある日、突然オリバーが泣き崩れ、彼の幼馴染である男爵令嬢ローズが余命一年であることを告げる。 オリバーは涙ながらに、ローズに最後まで寄り添いたいと懇願し、婚約破棄とアイラが公爵家当主の父に譲り受けた別荘を譲ってくれないかと頼まれた。公爵家の父の想いを引き継いだ大切なものなのに。 「アイラは幸せだからいいだろ? ローズが可哀想だから譲ってほしい」 別荘はローズが気に入ったのが理由で、二人で住むつもりらしい。 身勝手な要求にアイラは呆れる。 ※物語が進むにつれて、少しだけ不思議な力や魔法ファンタジーが顔をのぞかせるかもしれません。

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

処理中です...