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物語が終わってから
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アルネ視点です
「なんてことをしてしまったんだ」
ジークムントが泣いている。
彼がサブリナを殺して黙っていなかったのは意外にも、皇太子のジャスパーだった。
彼は、サブリナが本当に私を殺そうとしたのか調査した。
そして、その結果はとんでもないものだった。
その日は突然だった。
「使用人たちを拘束しろ」
ジャスパーが、騎士を複数連れて突然屋敷へとやってきて、私の大切な使用人たちを拘束した。
「あ、あんまりです。いくら皇太子だからって横暴です」
あまりに突然のことに私は思わず怒りを露わにした。
近くにいたジークムントも同じで今にも掴みかかりそうな勢いだった。
「あぁ」
ジャスパーは、私の抗議を鼻で笑った。
そこから聞かされた説明は、耳を覆いたくなる物だった。
「こいつらはな、ジークムントを公爵にさせるために、クラウスに定期的に毒を飲ませて殺害した」
何を言っているのだろう。
善良な彼女たちがそんなことをするはずがない。
「証拠もちゃんとある」
ジャスパーは、書類をジークムントに投げてよこした。
ジークムントは、それを見るなり膝から崩れ落ちた。
「……それと、聖女殺害未遂なんてそもそもなかった」
「ど、どういう意味だ」
ジークムントが信じられないと言わんばかりにジャスパーを見ていた。
「本当にお人好しだな。お前は、こいつらは、聖女とお前が結ばれるように聖女に毒を飲ませたんだよ。それから、サブリナに罪をなすりつけたんだよ」
「……!」
「信じない。とは、言わないんだな。お前はまだまともなようでよかった」
ジャスパーは、軽蔑しきった目を私たちに向けてきた。
「本来ならお前たちに何かしら罰を与えたい」
ジャスパーの目が鈍く光る。
「私たちは無関係です。本当に知らなかったのです」
「そうだな。勝手に使用人がやったことだ。だが、本当に何も知らなかったのか?」
「し、知りませんでした」
私は事実を述べるが、ジャスパーは疑いの視線を向けてくる。
「そう言うのなら、そうなんだろう。邪魔者が消えて幸せか?クソっ、こんなことになるのならお前とサブリナを結婚なんてさせなかったさ」
『幸せになれるなんて思うなよ』とジャスパーは捨て台詞を吐いて帰った。
そこからだった。ジークムントの様子がどんどんおかしくなっていったのは……。
ぼんやりとする日が増えた。それから、何かを思い出して唇を噛み締めて静かに泣き出すのだ。
「サブリナ……」
ジークムントがサブリナの名前を呼んでいる。
あの時に、彼女の言い訳をちゃんと聞かずに殺してしまったことを申し訳なく思っているのだろう。
だが、彼は本当に悪いのだろうか?
悪いのは、彼ではない。
サブリナを悪く言った使用人が悪いのだ。
「ジーク、自分を責めないで」
「アルネ、僕は自分が許せないよ。サブリナと一度でもちゃんと話し合っていたらこんな事にはならなかった」
ジークムントはあまりにも優しい。
「ジークは悪くないわ。悪いのは使用人たちよ」
「彼女たちの言うことを本気にしてサブリナに手をかけたのは他でもない僕だ。それに、兄さんまで殺されるなんて、止めることはできたはずなのに」
「それも、彼女たちが勝手にやったこと、貴方には責任なんてないわ」
私が慰めながら背中をさすると、ジークムントはしばらく黙り込み。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……君は、本気でそれを思っているのか?使用人が勝手にやったことだから自分達には責任がないと思っているのか?」
「ジーク、あまり自分をせめてはダメよ」
ジークムントを抱きしめようとすると、彼はそれを拒むように身を翻した。
「僕たちは結ばれるべきではない」
「何を言っているの?」
「サブリナやクラウスの死の上で成り立つ幸せなんてない」
ジークムントは、私を拒んだ。
なぜ?信じられなかった。
「彼らの死があるからこそ、私たちは幸せになるべきよ。そうじゃない?使用人たちが私たちの幸せを望んでしてくれたのよ。彼女たちに報いるためにも私たちは結ばれるべきなのよ」
「君は最初から全て知っていたんじゃないのか?」
「……な、何を言っているの?」
ジークムントは、突然私のことを責め出した。
全て知っているなんて、そんなはずない。
確かに、サブリナから何かされるかもしれない。という不安を使用人の前でこぼしたけれど、だからといってあそこまでするなんて思うわけがない。
「僕たちは幸せになれる資格なんてない」
ジークムントは、諭すようにそう言った。
私は何一つ悪いことなんてしていないのに、ただ一つだけ欲しかったジークムントの愛を諦めなければならないのか。
……私が、サブリナへの不安を使用人たちの前でこぼさなければよかったのだろうか。
使用人達が好意で用意してくれたアレンジされたウェディングドレスを着て、ジークムントの結婚式に出なければよかったのか。
けれど、あれは、ジークムントを諦めるためにどうしてもやりたかったのだ。
サブリナに咎められるなんて思いもしなかった。
私は何一つ悪い事なんてしていない。
私はあることを考えるようになっていた。
もしも、瘴気があったら、ジークムントの心を手に入れる事ができたかもしれない。と。
けれど、瘴気は祓ってしまい活発化するにはあまりにも時間がかかる。
それは、つまり永遠にジークムントの心を手に入れる事ができない。
その瞬間、私は絶望した。
そして、私は魔女になった。
私は、時間を巻き戻して異世界か魂を呼び出して自分の身体に憑依させた。
そして、ゆっくりと瘴気を集め続けた。
ジークムントの心を手に入れるために。
「なんてことをしてしまったんだ」
ジークムントが泣いている。
彼がサブリナを殺して黙っていなかったのは意外にも、皇太子のジャスパーだった。
彼は、サブリナが本当に私を殺そうとしたのか調査した。
そして、その結果はとんでもないものだった。
その日は突然だった。
「使用人たちを拘束しろ」
ジャスパーが、騎士を複数連れて突然屋敷へとやってきて、私の大切な使用人たちを拘束した。
「あ、あんまりです。いくら皇太子だからって横暴です」
あまりに突然のことに私は思わず怒りを露わにした。
近くにいたジークムントも同じで今にも掴みかかりそうな勢いだった。
「あぁ」
ジャスパーは、私の抗議を鼻で笑った。
そこから聞かされた説明は、耳を覆いたくなる物だった。
「こいつらはな、ジークムントを公爵にさせるために、クラウスに定期的に毒を飲ませて殺害した」
何を言っているのだろう。
善良な彼女たちがそんなことをするはずがない。
「証拠もちゃんとある」
ジャスパーは、書類をジークムントに投げてよこした。
ジークムントは、それを見るなり膝から崩れ落ちた。
「……それと、聖女殺害未遂なんてそもそもなかった」
「ど、どういう意味だ」
ジークムントが信じられないと言わんばかりにジャスパーを見ていた。
「本当にお人好しだな。お前は、こいつらは、聖女とお前が結ばれるように聖女に毒を飲ませたんだよ。それから、サブリナに罪をなすりつけたんだよ」
「……!」
「信じない。とは、言わないんだな。お前はまだまともなようでよかった」
ジャスパーは、軽蔑しきった目を私たちに向けてきた。
「本来ならお前たちに何かしら罰を与えたい」
ジャスパーの目が鈍く光る。
「私たちは無関係です。本当に知らなかったのです」
「そうだな。勝手に使用人がやったことだ。だが、本当に何も知らなかったのか?」
「し、知りませんでした」
私は事実を述べるが、ジャスパーは疑いの視線を向けてくる。
「そう言うのなら、そうなんだろう。邪魔者が消えて幸せか?クソっ、こんなことになるのならお前とサブリナを結婚なんてさせなかったさ」
『幸せになれるなんて思うなよ』とジャスパーは捨て台詞を吐いて帰った。
そこからだった。ジークムントの様子がどんどんおかしくなっていったのは……。
ぼんやりとする日が増えた。それから、何かを思い出して唇を噛み締めて静かに泣き出すのだ。
「サブリナ……」
ジークムントがサブリナの名前を呼んでいる。
あの時に、彼女の言い訳をちゃんと聞かずに殺してしまったことを申し訳なく思っているのだろう。
だが、彼は本当に悪いのだろうか?
悪いのは、彼ではない。
サブリナを悪く言った使用人が悪いのだ。
「ジーク、自分を責めないで」
「アルネ、僕は自分が許せないよ。サブリナと一度でもちゃんと話し合っていたらこんな事にはならなかった」
ジークムントはあまりにも優しい。
「ジークは悪くないわ。悪いのは使用人たちよ」
「彼女たちの言うことを本気にしてサブリナに手をかけたのは他でもない僕だ。それに、兄さんまで殺されるなんて、止めることはできたはずなのに」
「それも、彼女たちが勝手にやったこと、貴方には責任なんてないわ」
私が慰めながら背中をさすると、ジークムントはしばらく黙り込み。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……君は、本気でそれを思っているのか?使用人が勝手にやったことだから自分達には責任がないと思っているのか?」
「ジーク、あまり自分をせめてはダメよ」
ジークムントを抱きしめようとすると、彼はそれを拒むように身を翻した。
「僕たちは結ばれるべきではない」
「何を言っているの?」
「サブリナやクラウスの死の上で成り立つ幸せなんてない」
ジークムントは、私を拒んだ。
なぜ?信じられなかった。
「彼らの死があるからこそ、私たちは幸せになるべきよ。そうじゃない?使用人たちが私たちの幸せを望んでしてくれたのよ。彼女たちに報いるためにも私たちは結ばれるべきなのよ」
「君は最初から全て知っていたんじゃないのか?」
「……な、何を言っているの?」
ジークムントは、突然私のことを責め出した。
全て知っているなんて、そんなはずない。
確かに、サブリナから何かされるかもしれない。という不安を使用人の前でこぼしたけれど、だからといってあそこまでするなんて思うわけがない。
「僕たちは幸せになれる資格なんてない」
ジークムントは、諭すようにそう言った。
私は何一つ悪いことなんてしていないのに、ただ一つだけ欲しかったジークムントの愛を諦めなければならないのか。
……私が、サブリナへの不安を使用人たちの前でこぼさなければよかったのだろうか。
使用人達が好意で用意してくれたアレンジされたウェディングドレスを着て、ジークムントの結婚式に出なければよかったのか。
けれど、あれは、ジークムントを諦めるためにどうしてもやりたかったのだ。
サブリナに咎められるなんて思いもしなかった。
私は何一つ悪い事なんてしていない。
私はあることを考えるようになっていた。
もしも、瘴気があったら、ジークムントの心を手に入れる事ができたかもしれない。と。
けれど、瘴気は祓ってしまい活発化するにはあまりにも時間がかかる。
それは、つまり永遠にジークムントの心を手に入れる事ができない。
その瞬間、私は絶望した。
そして、私は魔女になった。
私は、時間を巻き戻して異世界か魂を呼び出して自分の身体に憑依させた。
そして、ゆっくりと瘴気を集め続けた。
ジークムントの心を手に入れるために。
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