私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら

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「どうして、どうして、ジークは私を愛さないの?なぜ私を拒絶するの?」

 偽物アルネが激昂して、瘴気をこちらにぶつけてこようとするが、すぐに弾かれた。

「そういうところだぞ、そんな事して人の心を手に入れて何が楽しいんだよ!」
「アルネ、君を愛する事なんてできない」
「黙れ!」

 再び瘴気が襲ってきた。
 このままではジリ貧だ。

「アルネ、もうやめよう」

 ジークムントがそう懇願して、私たちを包み込んでいた光が偽物アルネに向かっていった。
 そのおかげなのか、偽物アルネは苦しげな顔をして身動きが取れない様子でもがき出した。

「お、さすが、持ち堪えてるね」

 唐突に、空中から声が聞こえた。
 そう思ったら、バタバタと人が落ちてきた。
 その中には、私のスイートゴットシスターでもあるサブリナがいた。

「クラリス!私の愛しの妹!」

 サブリナは、私に向かって手を広げてきた。
 生きている。生きてこの世界にちゃんと存在しているお姉様だ。

「お姉様!私の愛しのお姉様!」

 私は嬉しくて、はしたなくも大きな声を出してしまった。
 だめだ。姉の前ではお淑やかで世界一可愛い妹じゃなきゃいけないのに。

「愛しのクラリス、私が貴女を助けにきたわ!」
「お、お姉様……」

 嬉しくて涙がこぼれ出てきた。
 私には他の存在なんてもう目には入らなかった。

「……あの、私たちもいるんだけど」

 アルネが、凄く冷めた目を私に向けてきた。
 よく見ると、クラウスとジャスパーもいた。
 何しに来たんだろう。たぶん、暇で来たんだと思う。
 こんな緊急時なのに、なんて呑気な連中なのだろうか。

「アルネ、瘴気を祓おう。僕がアシストするから、大丈夫」

 さくらが、勝手知ったるかのような口ぶりでそう話すので、私は少し戸惑った。

「さくらさん。何が大丈夫なのかしら?」

 私は思わず問いかけてしまった。
 
「彼女が神聖力を使えなかったのは訓練をしていなかったから。やり方は僕が知っている」

 そもそもなぜ知っているのか。

「色々と言いたいのはわかるよ。僕は昔、聖女だったのさ」
「え、えぇ!?」

 またお淑やかさからかけ離れた悲鳴をあげてしまった。
 愛するお姉様の前だというのに。

「僕も異邦人でね。本の中では死者が出なかったからたかを括ってた。瘴気は祓えたけど仲間がみんな死んだんだ」

 さくらの話は壮絶すぎて、私は何も声を出せなくなった。

「絶望したよ。この世界は、アルネのために存在しているんだ。アルネだけが優遇される世界。それから、僕は魔女になった」

 さくらの目は、突然光り輝いた。

「僕はね。ずっと待っていたんだ。この世界を壊してくれる人を、瘴気を消してくれる人をね。見たところ、彼女は、瘴気に完全に取り込まれて瘴気そのものになっている。だから、祓えば瘴気そのものが消えると……思う」

 なかなかガバガバな判定だと思うけれど、信憑性はあるような気がした。
 どちらにしても、瘴気は祓わないといけない。

「思うんかい!」

 ジャスパーは、思わずと言った様子でツッコミを入れる。

「アルネ。これを」
「これは?」

 さくらは、アルネにジークムントから受け取った指輪を渡した。

「たぶん、助けになると思うから使って」
「わかった」
「祈って、大切な人を守る事を想像しながら」

 アルネは、目を閉じて祈りを捧げる。
 そして、さくらはアルネの手に自分の手を重ねた。

 二人は温かな光を放ち始めた。
 光は、今ももがいている偽物アルネを包み込んだ。

「うっ、くっ」

 偽物アルネは、苦しみながら次第に薄くなっていく。

「クラウス!助けて、ねえ、こいつらを殺して、私を助けて!お願い」

 偽物アルネは、あろうことかクラウスに助けを求めた。
 クラウスは、それを見てショックを受けたように固まる。

「アルネ、君のことを僕は大切に思っているよ」

 クラウスの言葉に偽物アルネは、嬉しそうに微笑み。
 サブリナとジャスパーは、腕まくりを始めた。
 たぶん、しばくつもりなのだと思う。
 
「だったら、はや……」
「でもね。全部を受け入れるのは間違ってるよ。悪いけど協力はできない」

 クラウスは、偽物アルネを拒んだ。

「どうして、私は間違っていないのに」

 偽物アルネは膝をついて嘆き悲しみ出した。

「……」
 
 そして、とうとう消えてしまった。

「え、こんなにあっけなくやられていいの?」

 私の呟きが虚しく響いた。
 偽物アルネがいたところは本当に何もない。毛一つ残っていないのだ。

「え、こんなにあっけなく倒しちゃって大丈夫なの?」

 私の問いかけに誰も答えてはくれなかった。
 こうして、平和はあっけなく訪れた。

「お、終わった」
「……クラリス」

 姉に名前を呼ばれて、私はようやく全てが解決したように思えた。
 
「お姉様、わたくし怖かったですわ。本当に……!」

 ポロポロと涙をこぼすと、クラウスが「僕は君が怖いよ」と言うのが聞こえた。
 ジャスパーは、最後まで空気だった。

「あの、少し四人だけで話がしたいので離れてもらえますか?」

 お姉様とクラウスとジャスパーが少し驚いた顔をしたが頷いた。
 
 
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